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14少女漂流記  作者: shiori


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第二十五章「終わらない厄災の夜」4

 神代神社までの行列は歩く距離の長さから一時間以上かかる。そのこともあり、黒江は到着後に生徒達を送迎するため、先回りして車を神代神社まで向けていた。


 そして、麻里江の魂の抜かれた身体が無事に神代神社まで到着したことを見届けると、夜が深くなってきたこともあり後を大人たちに任せ、黒江は生徒達を車に乗せて一旦学園まで戻った。


「すみません先生、私は先にここで失礼します」


 雨音は駐車場に到着するとすぐに車から降りて、黒江に礼儀正しくお辞儀をすると、お礼を告げて自らの足で家に帰ることを選んだ。


「いいの? 家に帰るのなら一緒に乗せて行ってもいいのに」


「大丈夫です。自分で帰れますので」


 一日の疲労が蓄積している分、素っ気なく短いやり取りで雨音は静かに帰路へと向かった。

 すぐに黒江は行列まで参加させて無理に歩かせ、随分酷使させてしまったと後悔した。

 戦闘での疲労、それは単純な魔力の消費だけでは済まない。生死を分けた緊迫した時間を過ごすことになり、神経を磨り減らしてしまうのだと黒江は思った。

 それに限らず、今回は親友である麻里江を失ったことで、その喪失感は計り知れない。

 一人でいる方が気が楽になると思う時もあるだろうと察した。


「茜、凛音と一緒に車の中で待機していてくれる? 私は羽佐奈さんを探して来るから」


「いえ、少しだけブラウンの様子を見てきます。こちらも時間を掛けずに戻りますので。お気になさらずです」


 黒江は茜と凛音がいる車内に向けて話しかけたが、すぐに茜は凛音と共に愛犬ブラウンのいる部室まで歩いて行った。


「気にせい……かしらね」


 雨音との関係がギクシャクしているわけではないとは思うが、今日家まで泊まりに来ることになり、茜が凛音とは特別親しくしているように黒江は思えた。


「……雨音がマギカドライブを使えなかった理由も分かっていない。年頃の女の子の感情変化は複雑なのかしら」


 元気のない様子だった雨音、左目を負傷してからさらに凛音と距離感が縮まったような茜。そのことが、どうにも腑に落ちない黒江だった。


 茜だけでなく、羽佐奈と友梨も避難場所として自宅に招待することなった黒江は肝心の羽佐奈の姿を捜し歩いた。

 

 校舎の中を歩き、ここではない感覚を覚えると、黒江は校庭の方を出てすぐに身体に電流が走るような感覚を覚えた。


「気配を探ろうとするにしても、ちょっと神経質になっていないかしら?」


 黒江は頭に羽佐奈の声が突然響くと、すぐに反射的に辺りをきょろきょろと見渡した。


「そんなに怯えなくても大丈夫よ、テレパシー能力は便利だと思うんだけど」


 突然肩を叩かれ目の前で声を掛けられると黒江は驚きながら振り向いて羽佐奈の姿を捉えた。本当に瞬間移動でも出来るかと疑いたくなる登場だった。


「脅かさないでくださいよ……」


 この暗い中、突然話しかけられたら誰だって驚くだろうと黒江は思ったが、羽佐奈はそのことを気にする様子一つなかった。


「そんなに驚かなくても、生体ネットワークが実用化されたら、これくらいのテレパシーは誰にでも出来るようになるんでしょう?」


「計画通りに行けばよ、新しいテクノロジーに懐疑的な人だっていますから。便利であっても、距離の離れたところから突然話しかけられれば、迷惑に感じる人もいるわよ」


 アリスプロジェクトのための情報収集の核となる予定の生体ネットワーク。黒江にとって親しみのあるものだが、それが人々に受け入れられるかについては今も懐疑的だった。


「稗田さんは迷惑なのかしら?」


 羽佐奈にとっては超能力の一つであるテレパシー能力を便利なツールの一つと考えているため、黒江の反応は新鮮なものとして見ていた。


「それは、相手によるでしょう……」


 驚いた理由はテレパシーのせいではないと黒江は思いながら答えた。

 テレパシーは家族や親しい友人であれば距離感が近くなって安心にも繋がるが、関係性によっては迷惑行為にも捉えられてしまうのが意見としてあった。


「そう、緊急時以外はあまり使わないから、勘弁してちょうだい」


 あまりテレパシー能力に頼るのは人から離れていく行為であると黒江は考えるだけに、陽気な性格の羽佐奈の悪戯じみたやり取りにはまだ慣れないのだった。


「それより三浦さんはどうしました?」

「あぁ、友梨は極端に離れていなければ私の位置をいつでも把握してるから、あなたの車に着くころには先回りしているわよ」

「そうですか……想像するとちょっと恐ろしいですね」

「そうなのっ! ちょっとストーカー気質で危ないわよねっ!」


「何を人の話題で勝手に盛り上がってるんですか……」


 立ち話をしているところに噂の三浦友梨がどこからともなく呆れた様子でやって来た。羽佐奈は「この地獄耳!」と鋭いツッコミを入れた。

 黒江は冗談ではなく本当に近距離であれば羽佐奈の現在地が見て取れるのだと妙なきっかけで理解した。


「あまり、羽佐奈の言うことは真に受けないでくださいね」


 羽佐奈と正反対に大人しい友梨は淡白な調子で黒江に言った。

 友梨が冷淡に見えた黒江は軽く謝り、無事合流を果たすと大人三人並んで駐車場まで向かった。


 黒江の愛車、白のセダンの前には既に茜と凛音が待っており、すぐさま車を発車させた。

 凛音が慣れた様子で助手席に座ることになると、後部座席で茜は救世主二人に挟まれ恐縮そうに足を閉じて、何を言われるんだろうかとビクビクしながら小動物のように身体を小さくさせることになった。

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