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14少女漂流記  作者: shiori


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第二十五章「終わらない厄災の夜」2

 校庭から保健室まで運び出され、改めて確認作業が行われた結果、望月麻里江の遺体は本物であることが確認された。亡くなった具体的な経緯は不明のままだが、偽物であるという可能性は、麻里江の冷たくなった身体に少しでも触れた人全てが疑うことはなかった。


 黒江達にとって敵である上位種のゴーストから遺体となって麻里江がやってきたこと、そこから導き出される推論は一つ、麻里江は彼らと戦って戦死した、容赦なく殺害されたという事だった。


 緊迫した戦闘を挟んだことで悲しむ間もないまま、黒江から説明できる限りの経緯と共に、麻里江の遺体は遺族へと引き渡された。


 愛娘として愛してきた麻里江の身体を前に、昨日の再現のように沈んだ表情を浮かべる神主。

 傷を負った身体も、ボロボロになっている巫女装束も、瞳を閉じた優しい表情も、全てが戦慄な記憶となって脳内に植え付けられていく。

 計り知れないほどの喪失感が襲い掛かり、周りを含め言葉を失うものがほとんどだった。


 どれほどの悲しみの波が今、押し寄せているのか、想像もできないほどの仕打ち。千尋に続き麻里江まで亡くなるこの弔いをどのように行い整理を付けるのか、それは黒江にも分からなかった。


 空から光が消え、暗黒へと変わる夜がまたやって来た。


 校庭に僅かな明かりと共に棺が運ばれ、そこに麻里江が担がれ丁重に仰向けに寝かされた。


 瞳を閉じ、出血した箇所が塞がれ、汚れた巫女装束は新しい物に着替えが施されていた。

 顔の化粧は塗り直され、今にも息を吹き返しそうな麗しい表情をしており、髪も綺麗に櫛が入れられ整えられている。

 細く長い綺麗な指と長い脚、優雅に美しく舞い踊っていた大人びた姿が思い出された。

 誰からも愛された高校二年生にしては大人びた一人の少女、神代神社の巫女として務めを果たしてきた望月麻里江を囲む人々は別れを惜しみ、一人一人草花を優しく棺の中に添えていく。


 別れを惜しむ悲しみに包まれる中、一連の流れを終えると、棺に入れられた麻里江の身体は霊柩車(れいきゅうしゃ)に乗せられた。


 そうして行列の準備が整うと、麻里江が眠る柩の入った霊柩車(れいきゅうしゃ)を親族が囲み、ゆっくりと発進した。


 凛翔学園から神代神社までを目指す行列が始まり、先頭には松明(たいまつ)を持った大人と行列を取り仕切る喪服を着た親族たちが表情を暗くして歩を進める。

 

 制服姿に着替えてやって来ていた茜たちは明かりの付いた提灯(ちょうちん)を手渡され、後ろから付いていく。凛音は茜の隣でハンカチを手にすすり泣き、とぼとぼと不安定な足取りで付いて歩いた。 

 

 神代神社まで続いていく長い河川敷を歩いていく。

 川の流れは穏やかで、真っすぐに続く狭く長い道のりは魔を払い、安心して麻里江の魂を天まで送るための通路に見えた。

 参加者は同じ道を並んで歩く中で大切な人を失った記憶を振り返り、どれだけ身近に死が存在するのかを痛感した。

 

 雨音は少し離れて茜の背中が見える位置を歩き、感情が死んだ抜け殻にように、ただ遅れることなく列を歩いた。


 望月麻里江との突然の別れを受け止め弔うため、行列は神代神社に到着するまで粛々と静かに執り行われた。

 彼女一人のため、この非常時にこれだけ大規模な葬儀をするだけの特別な理由があったのか、そう問われれば判断は難しい。

 麻里江は街の人々に愛され、姉妹神楽で多くの死者を弔った。その功績だけでも、親族の持つ心の慰めに行列が行われることは否定されるものではなかった。

 それに、火葬場が市の境界線から近い位置にあり、使用が厳しく管理されていることも影響していた。

 この行列で心の整理が付くわけではない。しかし、大切な人を失ったという共通認識を今この時に、望月家の人々は自ら受け止め、人々に伝えたかったのだった。

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