第二十四章「舞い降りた救世主」2
「悪霊の気配がするわね」
たまらず疲れを感じて友梨も水分補給を取る中、両者立ち止まったまま羽佐奈が口を開いた。
神代神社が視界に入ったところで羽佐奈の強い霊感が悪しき気配を敏感に感じ取った。それはもちろん、友梨も同様であった。
「神聖な神社にまで現れるなんて、随分厄介な出だしね」
神社は安全地帯と考えていた二人は更なる想定外の事態に遭遇した。
疲れを感じつつあった友梨は低い声でピリピリとした不穏な気配を感じ、さらに暗い表情に変わった。
「開幕戦闘とは確かにツキがないけど、友梨、迷っている時間はないはずよ。ファイアウォールの展開をお願い。周囲のゴーストを殲滅するわ」
羽佐奈の決断は早かった。確かなゴーストの出現を感じ取り、身体の内側から意識を集中させ魔力を引き出すと、疾風の速さで飛び出していく。
「こっちはここに来るまでに魔力を消耗してるのよ。あまり期待しないでよ」
「分かっているわ。直ぐに済ませるからっ!」
後ろを振り返ることなく返事をして、得意の俊敏さを武器に駆け出していくと一気に境内に現れたゴーストの姿を羽佐奈は捉えた。
”数は四体……悪意を持った敵はこの四体だけのようね”
感じ取った敵が人の形をした黒いシルエット、シャドウであることを確認すると、目の前にいるその相手が自分の脅威ではないと羽佐奈は瞬時に理解した。
シャドウは羽佐奈の存在に気付くと素早く腕を伸ばし動物的な反応を見せるが、真っ白に光り輝く羽佐奈のセイントブレードが迫るシャドウの腕を的確に切り裂き、そのまま胴体も真っ二つに引き裂いた。
重く低い断末魔を上げ、消えていくシャドウ。
次の標的を羽佐奈は捕捉するが、その対象は既に”もう一人のゴーストと戦う魔法使い”によってナイフでその身体を引き裂かれているところだった。
「ちょっと、お邪魔だったかしら……」
看護師の制服に身を包んでいることから期待していなかったが、勇敢にシャドウと戦う女性の姿に苦笑いを浮かべる羽佐奈。
そのすぐ後に触れることなくシャドウの身体を宙に持ち上げ、昇天させる姿を目の当たりにすると、羽佐奈はそれがはっきりと手馴れであることを感じ取った。
さらに別の対象が腕を収縮させ、その魔法使いの背後を狙っているのを見ると、羽佐奈は迷うことなく自慢の魔力を放出させ、その場から一気にセイントブレードを長く伸ばしていき、そのまま大きく振り下ろしてその腕を切断した。
不意打ちを防ぐことには成功したものの、勢いのあまり地面が揺れ、崩れるほどの衝撃が辺りを包む。
羽佐奈は思わず魔力を放出しすぎてやり過ぎたと焦ったが、もう一人の魔法使いはそれに気づき当然の如く地面が崩れていることに驚かされた。
「この光は……」
目の前のシャドウにとどめを刺して振り返った魔法使いは空間に光が溢れ、シャドウの腕が光の中に消えていったことに衝撃を受けた。
その凄さを茫然と見ている間に、残りのシャドウは軽快な動きを披露する羽佐奈によってあっという間に祓われていった。
「この街の魔法使い? ごめんなさい、ゴーストの気配を感じて慌てて来てしまったけど、お邪魔だったかしら。あっ……私は赤津羽佐奈です、よろしく」
魔力の行使を止めて、右手からセイントブレードを消すとすぐさま羽佐奈は茫然としている魔法使いに駆け寄った。
「いいえ……平気です。私は内藤玉姫です」
上手に反応できないまま、自分の名前を伝える魔法使い。それは、神代神社まで訪問診療に一人来ていた内藤玉姫だった。
予期しない出会いに驚きの表情のまま止まってしまう玉姫。
羽佐奈はまた年下の魔法使いかと複雑な思いを抱えながら挨拶をした。




