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14少女漂流記  作者: shiori


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第二十三章「凛翔学園防衛戦」1

 メフィストと黒江たちの会話の間、待機していたファントムが作戦開始の合図と共にメフィストの前に出て黒江たちの前に立ち塞がる。

 さらに、ディラックは自由な動きでジャンプを繰り返し、あっという間に離れていき、体育館の屋根の上まで登ってしまった。


 手を使うことをなく屋根の上まで辿り着く人を超えた力。

 新たなる上位種のゴーストと推測できる巧みな動き。

 その素早い動きはそれだけで攻撃に打って出る難しさを感じさせた。


「さぁ、退屈な時間は終わりだ。

 ここで死にたい奴はどこからでもかかってきていいぞ」

 

 そういって待ちくたびれた分、美声を響かせて挑発を始める仮面を付けたファントム。白い仮面の内側に秘めた余裕の表情は崩さず、その場に立ち塞がって自分からは仕掛けてこない様子だった。


「先生、また人を襲おうとしています。早く悪を祓いましょう」


「ダメよ……まだ待ちなさい。簡単に倒せる相手ではないわ」


 仲間の命を奪った宿敵であるファントムに向かって今にも飛び出しそうな茜を制止させる黒江。

 茜の後ろに隠れる凛音は異様なオーラを纏う敵に脅え、必死に身体の震えを抑えるのがやっとだった。

 

 黒江も蓮も体育館の屋根の上に上った謎めいたディラックの動きが気になり、目の前のファントムに向かって仕掛ける決定が出来ない。


 睨み合いとなる中、初対面となったディラックの瞳が真っ赤に光を放ち始める。

 何かが始まる予感を感じさせる恐ろしく強大な強い魔力が放出され、グッと一気に空気が重くなる。


 すると、ディラックの仕業か体育館の窓から黒い煙のようなものが湧き始めた。

 黒い煙はヘビのようににょろにょろと上空を漂い、目の前の景色をさらに薄暗く曇らせていく。

 

 蓮は黒い煙の伸びていく方角に目を向け、目指している場所とその目的に気が付いた。

 

(あの黒い瘴気のようなものは全て死者の魂から生まれた怨念だ。奴はあれを使って学園を襲うゴーストをこの場で生み出すつもりらしい)


 分析後すぐに黒江へとテレパシーを送る蓮。学園を襲うという言葉が本気ならこの場でゴーストを出現させるつもりなのは明らかなことだった。

 その手段として遺体が置かれている体育館を利用することは十分に考えられた。

 体育館にはファイアウォールが展開しており、そこで眠る死者の魂を動かすのは容易ではない。しかし、結界を守護する麻里江が倒れたことで簡単に破ることが出来たのだと蓮は推測した。


(体育館に運び込まれた遺体を利用して、ここを戦場にしようというの……)


 蓮の言葉に黒江は怒りの感情を滲ませ、危機として信じたくなくても信じざるおえなかった。

 麻里江一人によって行われた姉妹神楽は不十分なものだった。

 強い未練や恨み、憎しみを抱えたものは息を潜めて現世に留まり、身体から離れようとはしなかった。

 その結果として、ディラックの甘い言葉に導かれ、今空の上を漂っている。日ごとに増えていく死者は、姉妹神楽では処理しきれず、その魂に怨念を抱えてしまっていたのだ。


(あぁ、それが出来るのが、あのディラックという上位種のゴーストの特徴らしいな、忌々しいことだ)


 魔術を行使するディラックの策謀により、避難所のある凛翔学園付属までどす黒い煙が伸びていく。そして、煙からぼとりと不気味な塊が次々に地面に落下をしていく。


「愚かなる者達よ!! 忘れ去られていく死者の魂の嘆きをその身で味わい、その耳で聞くがいいっ!!」


 ディラックの呼び声に従い、地面へと落ちたその何かが人の形をしたシルエットへと変異していく。

 そして、全身を黒く染めたまま両足を動かしユラユラと歩みを始める。

 それは次々と空から舞い落ちては生み出され、苦しげな呻き声を上げながら心に深く刻まれた無念を発散するために歩んでいる。


 ゴーストと化し、彷徨える亡霊の数が増えていく姿は軍勢となって生者を求めて彷徨い歩く行軍のようである。


 蓮は今朝戦ったシャドウの発生がここでも始まったことを確信した。


「ここから避難民を移動させる余裕はないようだな」


 俯瞰して状況を分析した蓮は言葉を吐き出す。

 受け入れてしまっては絶望が広がっていくばかりであると分かりながらも、蓮はこの場にいる全員が聞えるように言った。


「よく分かっているな。これは粛清の始まりだよ。

 

 民を救いたいなら、大人しく魔法使いの魂を差し出すといい。

 

 要求に応じるのであれば寛大な心でゴーストの動きは停止させてやる」


 シャドウの群れが付属の避難所に迫っていく。

 これから多くの人々が犠牲となり、地獄絵図へと変わる情景が頭をよぎる。

 しかし、戦わず負けを認められるほど、誰もが自分を捨ててはいなかった。

 


「ふふふっ……ゴーストどもには悪いが、大人しく生徒を差し出すわけにはいかない。


 稗田先生、出現するシャドウの退治をお願いします。

 あれは、どうやらあのディラックというゴーストが生み出しているようです。

 

 ファントムとこの男はこちらで始末します。

 苦手意識のない我々の方が確実に有利です。

 さぁ、開戦と行きましょう。健闘を祈ります」


 

 蓮の言葉により、それぞれの役割が決定される。

 黒江は蓮の作戦に従うことに決め、茜の手を握った。


「先生……麻里江の事、お願いします。彼女はその優しい心で真に自分の意思に従って戦ったのです」


 出会った頃から信頼をおいていた日々の感情移入を差し引いても、麻里江の功績は誰よりも大きかったと黒江は胸を締め付けられる想いで蓮にその身を託した。


「もちろんだ。巫女の身体は必ず守り切り、送り届けよう」


 息を吹き返す可能性の絶たれた肉体であってもぞんざいには扱わない。

 真っすぐな瞳で見つめてくる蓮を黒江は信じることにした。

 

「さぁ、ここは守代先生に任せて、みんなを守りに行くわよ、茜」


「先生、いいんですか?」


「ゴーストが出現しているのは分かるわね? それを無視するわけにはいかないわ。早く向かわないと多くの犠牲者が出るわ」


 真剣な黒江の瞳を見て茜が納得して頷く。茜は自分の手で仇を取るという私情から来る願望を押し殺した。


「凛音、あなたは部室に戻っていなさい。付いて行っては戦う茜の邪魔になるだけよ」


「嫌だよ…っ。茜先輩はみんなを守る為に無理をして戦ってばかりなんだよ。

 これ以上、私の見てないところで無茶なことはさせない」


 ゴーストの魔の手が迫るこの状況に恐怖を覚えつつも、強い意志で茜から離れようとしない凛音。黒江は余裕のない中、愛娘のわがままに困り果てた。そこに二人の会話を聞いた茜が割って入った。


「凛音はあたしが守ります。奴らに狙われている凛音を一人には出来ません。先生、一緒に連れて行きましょう。あたしは先生の一番大切な人を守る、そう誓いました」


 頬が熱くなるほどの告白に凛音の心が湧き立つ。

 そのことに気付かない茜の強い言葉は黒江の方針を変えさせた。


「分かったわ。こうなってしまった以上、自分を見失ってはダメよ」


 茜の訴えを受け入れた黒江。魔法使いとして覚醒をしている秘密を抱える凛音。それ故に狙われてしまっていることを黒江は感じ取っていた。


「はい、あたしは魔法戦士だから。ゴーストにも自分にも負けません」


 話し合いを終えて、黒江と凛音、茜が揃って覚悟を決めて駆け出していく。

 黒い煙が吹き出る体育館から付属までの道は最短距離を取れば林道になっている。

 先頭を走る茜はその右手で凛音の左手を掴んだまま共に林道に入っていき、そのまま魔力を行使して、もう片方の手でファイアブランドを発現させた。

 凛音は足を引っ張らないよう、しっかりと茜の手を掴みながら足を動かし付いていく。

 隣で緋色に輝く茜の瞳。魔法少女の煌びやかな衣装に身を包んだ茜の姿が凛音には一段と頼もしく映った。


 そして、ディラックにより生み出されたシャドウが目の前に迫る。


 凛音が恐怖を感じる中、茜は勇敢にファイアブランドをシャドウに向け、浄化の炎でその身を祓おうと立ち向かっていった。


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