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14少女漂流記  作者: shiori


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第二十二章「混沌を望む者」7

 学園長室に入室すると、既に学園長と手塚巡査が話し合いをしているところだった。


「大変なことが続きますな。二人にはご苦労を掛けます」


 二人揃って挨拶を交わし、改めて桜沢小学校の被害状況を伝える蓮。発生したゴーストは奈月とアンナマリーの活躍により一掃できたものの状況が苦しいことには変わらない。


 多くの人が犠牲者になった今回のようなことがまた発生した時、どう行動すればいいのか。対策を考えようにも、物理攻撃がほとんど効果のないゴースト相手には警察はまるで役に立たず、対処は困難を極めるものだった。


「稗田先生、ゴーストが可視化されたものとして現れたのですから、今からでも才のあるものを魔法使いに覚醒させて、戦力を増強することは出来ないのですか?」


 空気が重苦しくなる中、学園長がすがるように黒江に聞いた。

 蓮の下にいるアンナマリーと奈月。黒江の下にいる茜たちだけではあまりに対処できることに限りがある。それに肝心の魔法使いにも犠牲者が出てどんどん状況は悪化している。

 アリスに頼ることが出来ない以上、黒江に魔法使いになる可能性のある者を覚醒させて戦力を増やしてほしいと願うのは当然の流れだった。


 黒江は学園長が質問してくれるのも最もだと思い、ガッカリさせてしまうのを承知で返答をすることにした。


「誰にも言わずに秘密にしていたつもりなんですが。ご存じなら説明しなければならないですね。


 アリスから与えられた私の持つ代行者としての力。その魔女の力で魔法使いに覚醒させるには対象者の霊感や感受性の高さのほかに、私との強い繋がりが必要です。そこはアリスの代行者であるが故の制約です。


 私もここに来て初めて立花可憐(たちばなかれん)望月千尋(もちづきちひろ)を魔法使いへと覚醒させることに成功しました。


 アリスと同じことが本当に出来るかは半信半疑でした。しかし、この二人に関しては特に部活動も含め関わり合いが多く、二人は魔法使いになりたいという強い意志と霊感を備えている稀有な存在でした。


 二人のような適応者が現れてくれればいいのですが、現時点ですぐに新たな魔法使いを生み出すことは難しいでしょう」


 黒江が正直に自分の見解を述べると蓮は”それは分かっていた”という反応をすると瞳を閉じて、そう都合よくはいかないのが現実だと蓮自身も思ったのだった。


「そうですか……申し訳ない。生体ネットワークの研究者、稗田博士の奥様であると分かってから、先生については個人的に調べさせていただきました。


 今回もそうですが、ゴーストの出現の度に生徒を酷使するばかりでは心苦しい他ありませんな。我々にも何かできることがあればいいのですが……」


 力無き者は大人しくしているしかない。それが現実であることを受け止めなければならないとなると、学園長はさらに表情を曇らせた。


「まだ多くの市民がこの舞原市の中に取り残されているのです。

 少しでもこの異変が終わるまで、安心させてあげてください」


 慰めにもならないかもしれないが、黒江は学園長に向けて言った。


 一人でも多くこの悪夢のような日々を生き残る。


 それが最も大切にしなければならないことであった。


「この地獄をどうやって耐えるのかも重要だが、本当に考えなければならないのは、いかにしてこの異変を終わらせるかだがな」


 蓮はそれをずっと考えていたが言葉になかなか出せないでいた。

 確かに今考えなけばならないのはこれに限ると蓮の言葉を聞き皆が蓮の方を向いた。そして蓮が希望となるアイディアを出してくれることを願った。


 そうして会議が続けられる中、窓の外の方向から唐突に悲鳴が聞こえた。


「きゃああぁぁぁぁ!!」


 それは明らかに女子生徒のよく響く声で、危機を訴えるものであることは間違いないと一同が感じた。



「凛音っ!!」



 黒江にとっては銃声が響き渡るほどの衝撃だった。

 悲鳴の主が愛娘の凛音であるとすぐに分かった黒江は学園長室を飛び出した。ここは一階にある学園長室、声のした窓の外は校庭だった。


 胸の奥を掴まれるような嫌な予感。一刻も早く凛音の下へと足音を鳴らし走る黒江。同じ部屋にいた蓮は学園長に自分が追い掛けることを告げると、すぐさま学園長室を出て、黒江の姿を追った。

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