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14少女漂流記  作者: shiori


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第二十一章「クロージングファンタジア」4

「稗田先生」


 テレパシー能力を使い、アンナマリーと奈月に呼びかけ校舎を歩いていると、蓮は黒江の姿を見つけ声を掛けた。


「守代先生……これから桜沢小学校へ向かうところですか?」


 黒江は先ほどまで学園長から話しを聞き、指示を受けて出てきたばかりだけに、過酷な役回りを言い渡されたであろう蓮と共に戦う奈月とアンナマリーのことを心配していた。


「そうです、気乗りしませんが二人を連れて行ってきます。敵もいよいよ本気になって来たという事かもしれない。じわじわ不安を広げ、ここまで準備をしてきた。だから、可視化させたゴーストが人々を襲うことで恐怖となってさらなる混乱を効果的に助長させる。知能を持った彼らの作戦と考えるのが自然です」


「異変が始まってから今日まで街に出現したゴーストが少なかったのは、この時のために温存していた。そう予測するのが正しそうですね」


「彼らはゴースト達を使役していて、コントロールすることが出来る。最悪な話ですが、そういうことでしょう」


 複数体確認された上位種のゴースト。どれも今まで類を見ないほどに危険な存在であることを二人はすでに十分認知していた。

 今回、避難所である小学校を集中的に襲ったのが、彼らの作戦であることは十分に頭に入れておけねばならない予想と言えた。


「そうですね……現地に行ってみないと出現したゴーストの規模は分かりませんが、よろしくお願いします。先生が引き受けてくれて安心しています。学園長にとっても、今頼れるのは先生だけですから」


 もしも、ゴーストが可視化させているのなら、現地は地獄絵図と化している。普通なら現地に行くのは断りたいところだろう。そう思い、黒江は蓮が大変な役目を引き受けたことにを素直に尊敬したのだった。 


「期待されてもやるのは結局二人です。中間管理職のような役目に何の価値もありはしませんよ」


 着替えまで済ませ、出掛ける準備だけは出来ている蓮は淡々と口にした。


「それは違いますよ。二人は先生がいるから頑張れるんです。そうして二人を戦わせてしまうのは、本当に可哀想なことですが」


 黒江は蓮の中で渦巻く感情を汲み取って言葉にした。


 しかし、真面目に言葉にした後で、黒江は後悔した。

 昨日失ったばかりひなつの事が再び頭をよぎる。

 眠れない夜を過ごした後で、体調の優れない今思い出すのは、酷く後悔に苛まれるものだった。


「はぁ……本当に学園長も無理難題を押し付けてくれます。昨日以上の死者が体育館にいるのに、それを麻里江一人で黄泉送りするだなんて。

 他に頼れる人がいないのは分かりますが、千尋があんな事になって間もないのに、本当に酷なことだわ」


 考えるのはよくないと思った黒江は溜息を付きながら、本来口にしたくない本音を吐露した。


「先生は、後悔されているのですが?

 まだ道のり半ばです、人類の長い夏休みは終わったのですよ。

 これが本来の人の営みです」


「一度平和を取り戻した人間には、それは残酷な仕打ちよ」


 いつ終わるとも知れない避難生活。死んでいくかけがえのない仲間達。

 舞原市の外に出られない現実はもはや監禁生活を強いられているようである。

 

 長い間、戦争のない国にとって、変化の乏しい日々は長い夏休みのようである、しかし、一度平和を取り戻した人類にとって、強制的に進化を促す過酷な日々は、残酷なものであった。

 


「そうはいっても安楽死させるわけにもいきますまい。 

 それゆえにアリスプロジェクトにあなたは参加された。

 持続可能な人類の存続と地球環境の保全、そうではないのですか?」


「今となっては、私がいなくてもプロジェクトは進行するわよ」



 今、起きていることとアリスプロジェクトはかけ離れたことではない。

 それを示すように、二人はこの場では余計な会話を吐き捨てるように交わし、それぞれの持ち場へと向かった。

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