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14少女漂流記  作者: shiori


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第二十一章「クロージングファンタジア」2

 毎晩書いている日記を書き終えて、静かにページを閉じた凛音はベッドに移り心労を負ったまま眠りに落ちた。


 寝付きは良くなかったが、次に目覚めた頃には朝になっていた。

 相変わらず雲が覆い青空の見えない覚めない夢を見続けているような鬱蒼(うっそう)とした朝。凛音は身体を起こし時計を確認するが、午前0時を指したまま動き出してはいなかった。


 世にも奇妙な現象だが、こうして朝になった以上、時が止まっているわけではないと凛音は思った。しかし、キッチンタイマーなども動かず、時間という概念そのものにどこか欠陥が生じているような感覚だった。


 無人の家の中ですることは特になく、考えれば考えるほど気味が悪くなり、落ち着かない凛音は身支度を済ませると早々に学園へと向かった。

 モノレールは完全に止まっているので、制服姿で自転車を漕ぎ学園を目指していく。

 昨日も身に染みたことであったが、三十分ほどかかるが通えない距離ではない。しかし毎朝これを続けるとなると、やはり負担が大きいと凛音は思った。


 徒歩で歩いていくのに比べれば、遥かに早く自転車を漕ぎ出せば景色が通り過ぎていく。

 時刻が分からない以上、あの時計が全て止まっていることに気付いた瞬間から一体どれだけの時間が経過したのか分からない。

 しかし、まばらにしか人と出くわすことがないことを見ると、朝を迎えていることは分かっても、まだほとんどの人が眠っている時間なのではないかと思われた。

 

 時計が止まってしまったことのインパクトが強く、行き交う僅かな人々が静止していないのを見て安堵したほどだった。


 アニメやドラマで見たように時間そのものが止まったわけではない。しかし、街中に出るまで気付かなかったが、すっかり街路樹が紅く染まっていて、落ち葉の姿が地面には映り、季節外れの紅葉が木を離れ宙を舞っていた。


 時空が歪んでいるように、あまりに早く秋景色が広がっている。

 咲き誇る紅葉の景観は美しいが、今はただただ不気味に映った。


 たった数日で移ろうような季節の流れではない。この数日間で一、二か月は経過しているのではないかと、周りの景色だけを見れば思ってしまうほどの変化の早さだった。


 学園に到着した凛音は、駐輪場に乗って来た自転車を停めると、体育館裏で煙草を吸っている母の姿を見つけて近づいて行った。


 凛音は距離が近くなると黒江の目が充血していることに気付いた。


「おはようお母さん。昨晩眠れなかったの?」


 声を掛けられ反射的に向き直ると、凛音の視線が自分の瞳の方に集中していることに黒江は気が付いた。

 昨日ひなつの前で泣いてしまったことを知らない凛音であればそういう風に想像しても仕方ないだろうと黒江は思った。


「水瀬さんが亡くなったの。周りに心配を掛けないよう、帰りの車の中でももう長くないことを隠していたみたい。保健室でその日のうちに息を引き取った。医者を叩き起こして連れてくる間もなかったわ」


 口に咥えていた煙草を二本の指で持ち、白い息を吐いた黒江は沈んだ気持ちのまま、凛音に事情を伝えた。


「そうなんだ……お母さん。身体が弱いのは知っていたけど、大切にしてた生徒さんだったんだね」


 黒江の言葉を聞き、一気に悲しくなったが、ひなつとはあまり話したことのなかった凛音は、そう口にするのが精一杯だった。


「優しい生徒だったの……本当に小さなことに幸せを感じる、優しい子だった」


 遠い目をして、か細い声で黒江はそう口にすると、それ以上、言葉にならない様子で黒江は肩を落とした。凛音もここまで心が沈んだ様子をする母の姿に返す言葉が見つからず、しばらく沈黙が流れた。

 


 凛音は桂坂公園に行って帰って来た茜から聞いた話の中でひなつも公園に行っていたと聞いていたことを思い出した。

 何があったのか、事情を聴いていた時、魂を抜かれ抜け殻になってしまった千尋の事と、具合が悪そうな茜の事で凛音はその時、頭がいっぱいだった。

 雨音の姿もなく、一人でいる茜を凛音は家に誘ったが、茜は一人になりたいと立ち去ってしまった。それから夜をどこで明かしたのかは連絡手段もなく知らないままだった。

 そんな記憶を一気に思い出し、凛音はさらに悲しい気持ちになった。



「ダメだ……こうしてジッとしてたら頭がおかしくなりそう。お母さん、ボランティアに行ってくるね」


 力の抜けた身体にもう一度鞭を打ち、足に力を込める。

 凛音は少しでもボランティア活動に参加をして、気を紛らわしてしまいたい心境だった。


「ええ……そうね、その方が気が紛れるなら、そうしなさい。

 お母さん、今更何が起きても不思議には思っても、微塵も動じなくなってしまったけど」


「うん、お母さんも無理しないでね」


 気が滅入っているのが分かるくらいの憂鬱ぶりで話す母の姿に凛音は素直に思った気持ちを言葉にして返した。


 黒江が凛音の言葉に頷き、会話はそこで終わった。


 凛音は既に人の集まっている、運動場にあるテントの方に早足で歩いて行った。


 この異変が始まってからずっと、凛音は率先してボランティア活動をしている。炊き出しや避難している高齢者や子ども達の相手、茜の連れてきた愛犬のお世話など、探せば仕事は山ほどあった。

 学園が避難所となったことで学園の授業は完全になくなり、自主的に多くの生徒がボランティア活動に精を出している。それは、本来避難生活を維持する職員が不足し、自衛隊もいないためである。


 誰かと顔を合わせ協力し合うこと、それが今生き残っている人たちにとって、一番の安心だった。

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