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14少女漂流記  作者: shiori


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第二十章「霧の街へと」5

 揃って案内されるままに密閉された会議室の中に入る。ここには通信機器はもちろん、盗聴器や録画録音するカメラも設置されていない。研究施設でありながら完全にプライベートな空間だった。

 狭く簡素な一室をフォローするように外からは見えないが室内からは外が見えるマジックミラーが貼られた会議室の室内。テーブルを囲うように置かれたライトブラウンのソファーに羽佐奈達三人が並んで座り、正面に飯塚が座る。ガードマンの男女は決して口を開くことなく、飯塚の背後で仁王立ちするように棒人間になった。



「立場上、簡単に会って話すことが出来ないというのは、お互い不便この上ないですな。しかし、やっと包み隠さず話が出来ます」


 

 ようやくスタッフの干渉を受けないプライベートな空間に入り、表情を崩す飯塚。清潔感のある髪型も服装も若くしてアリスプロジェクト日本本部施設責任者という彼の今の立場を物語っていた。


「そうね。こんな地下深くでこっそり密談するなんて、偉くなりましたね」


 付き合いの長い分、久々に会えると嬉しさが込み上げてくる。

 羽佐奈は飯塚が変わらず歓迎してくれていることに安心して気さくに話した。


 互いに立場上、秘密にしなければならないことを持っている。

 羽佐奈は探偵事務所の代表で芸能活動もしている有名人。アリスプロジェクトのメンバーであることも、ゴーストを退治する超能力者であることも世間には隠さなければならない立場にある。

 一方、飯塚は国家機密であるアリスプロジェクト日本本部の施設責任者。実質的に日本に在籍するアリスプロジェクトのメンバーの代表である。人工知能を搭載したプロトタイプアリスの存在を隠し、データ収集を継続して、臨床実験を続けなければならない立場にあった。


「何度も言うが、望んで得た地位ではないよ赤津さん」


 歳は飯塚の方が10歳は上であったが、飯塚は唯一フランクに接してくれる有名人でもある羽佐奈のことを信頼していた。


「そうかしら、私と会ってくれるのだって、私が研究に欠かせないくらい強いからではないんですか? 私は正直今回の件も疑っていますよ。飯塚さんが仕組んだ脚本ではないかって」


 以前と変わったところはないか、入念に口調や外見から観察しようと覗き込む羽佐奈。美心探偵である羽佐奈に探るような観察眼を送られると飯塚は思わず怪しいところなどありませんと主張するように両手を振って慌てて言葉を返した。


「買い被りすぎですよ、何でも都合のいい様に物事は動きません。多くの人の意思が介入し、せめぎ合って今の状況があるのですから。まぁそもそも、この事態が人為的なものである根拠は何一つないのが現状です」


「そうです、舞原市を覆いつくすほど巨大なファイアウォール。プロトタイプアリスだってそう説明しているのでしょう? アリスプロジェクト日本本部代表としてはどうなんですか?」


 プロトタイプアリスは多くの魔法使いやゴーストの情報を取得し分析している。そうして人智を超えた超能力にも精通している以上、今回のような事態にも有効な対応を出してくれることが求められる存在であった。

 

「今回の現象を科学的に証明するのは難しいことです。しかし、我々は科学的根拠以上にアリスを信用する道を選ぶ者達です。それが事実上、表に出来ない見解であっても、それを受け入れて我々の判断で適切な対応を行う。大切なのはこの危機をどう乗り切るのか。それに尽きますから」


 連絡が取れないまま取り残された舞原市に住む人々の安否を含め、世間に公表できる実情がまるで分からないために、世間では混乱が広がっている。

 これまで人類が培ってきた常識は世間では通用しない。そんな状況の中で飯塚には状況をプロトタイプアリスの見解に基づき正しく認識した上で、適切な対応を迫られていた。


「そうですね、とても飯塚さんらしい見解です。そういう貴方だから、私達も目的を見失うことなく遂行できます」


 難しい局面に苦しむ飯塚の姿を確かめた羽佐奈はいよいよ本題に入ろうと話しを切り出した。

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