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14少女漂流記  作者: shiori


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第二十章「霧の街へと」2

 赤津探偵事務所二代目代表、若くして父の跡を継いで都内で探偵事務所を切り盛りする赤津羽佐奈(あかつはさな)とその夫、赤津司(あかつつかさ)、それに加え今日は三浦友梨(みうらゆり)も加えて、群馬県に向かって関越(かんえつ)自動車道をドライブしていた。


 羽佐奈セレクションの軽快なBGMを流しながらシルバーカラーのレクサスRXを運転するのは羽佐奈とほとんど身長の変わらない、少し小柄な司だった。


 助手席に座る羽佐奈は旅行気分で常にはしゃいでいる様子で落ち着きがなく、後部座席に一人座る友梨はいつも通りの能面な無表情に加え、蓄積された疲れのせいで会話に参加せず無口になっていた。


 群馬県まで向かっているのは観光に出掛けているわけでも草津温泉に向かっているわけでもない。大きな話題となっている舞原市に関わる事情が絡んでいるものだった。


 目的地は群馬県内にあるアリスプロジェクト日本本部、生体ネットワークの研究を行っている施設もある政府管轄の建物で、許可のない一般人の立ち入りは固く禁止されている場所だ。

 アリスプロジェクトのスタッフは舞原市を覆っている霧について独自に調査を行っており、それは知人が舞原市内に取り残されている羽佐奈達も同様であった。

 

 現状、事情通な政府管轄の機関であるプロジェクトメンバーと今後のための情報交換をというのが今日の用件だが、羽佐奈は密かに”自分達にしか出来ないことを実行に移そう”と既に計画を練っているところだった。


「だから、ホントのお買い得商品っていうのは折込広告に掲載されてるようなものじゃないの。

 あれは十分に在庫を用意して周到に準備されたものであって、私の思う本当にお買い得価格な商品っていうのは棚入れ替えの時に余って割引された商品なの。

 それと、自動販売機でホットとアイスの入れ替え時も狙い目ね。基本は賞味期限切れが近くなって値引きされているものがお得だけど、こういうのもしっかり押さえておくのが大事なの!」


 今日の用事からすれば決して今回の旅路は明るいものではないが、羽佐奈は久しぶりのドライブが余程楽しかったのか、すっかりハイテンションになり、話し始めると段々と熱が入る熱弁ぶりで、ためになるか分からない豆知識を披露していた。


「買い物に行くのも、料理するのも僕の方が多いのに、良く知ってるね……」


 相手をするだけで大変な羽佐奈のハイテンションな様子に呆れながら司は言った。


 作家でデスクワーク主体であるがゆえに家にいることの多い司が主に家事を担当しているのが現状で、料理を作るのは司で、すっかり栄養バランスを考えた家庭料理レシピをマスターしている。


「いやぁ……子育て家庭の知り合いが最近増えてきたから。この手の話題が異様に盛り上がるのよ。だから、家電にしても洋服にしても狙い目の時期っていうのがあって力説されるのよね。まぁ、上級国民にとっては、常に流行に敏感なせいで新作を追い掛けてるからこういう知識は関係ないことだけどね」


 一人目の子どもを五年前に出産し、二人目の子どもを去年に出産した二五歳の羽佐奈は、すっかりママ友が増えてしまっていた。

 産まれた二人の娘はすこぶる健康で羽佐奈の父親にも非常に可愛がられている。

 羽佐奈にとって若くして二人の子どもを産んだことは、幼い頃に母親と死別し孤独の中で自分の事を育ててくれたシングルファーザーの父親への最大限の恩返しでもあった。


 なお、シートベルトを締めて前を向いたまま話す羽佐奈だが、ブレスレットを着けて指にはマニキュアを塗っており、その手には先ほどサービスエリアで購入した、ケチャップたっぷりのフランクフルトが握られていた。


「もう……友梨さん呆れちゃって寝ちゃってるよ」


 元々、羽佐奈がこの中では一番の話し好きということもあるが、話し出すと止まらない性格のせいで、物静かなタイプの友梨はすっかり話しに参加することなく後部座席で眠っていた。

 黒髪のショートヘアーに赤色のベレー帽を被った友梨は立派な大人であるが、眠っていると少し幼く見えた。


「えっ……友梨ってば目開いたままだけど、あれで寝てるんだ……」

「うん、微かに寝息も聞こえてくるから寝てると思うよ。昨日もずっと調査してて帰りも遅かったって言ってたから、疲れてるんだよ」

「それは……そうだと思うけど」


 友梨は異変が始まってから連日舞原市周辺に向かい調査を実施していた。

 それもほとんど一人での単独調査で、バイクに乗って舞原市内に続く道の交通封鎖の状況に加え、舞原市内に通じる抜け道がないかまで地図にメモをしながら調査をしていた。疲労が溜まっているのは当然の事だった。

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