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14少女漂流記  作者: shiori


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第十九章前編「裏切りのロンド」4

 公園で戦う静枝と千尋の下にも生暖かい小雨が降り始めた。

 足元や視界が悪化し、戦いへの影響は避けられないが、ゴーストに囲まれた状況では愚痴も言っていられなかった。


 遠くから見た時はゆらゆらと揺れる黒い影でしかないゴーストだが、近づくと敵を察知したように個体によってそれぞれ違う特徴を持った形状へと変化させる。


 スケルトンタイプや猛犬タイプ、イチギンチャクのような本体に無数の触手を伸ばしてくる不気味な個体など多種多様な形状を有している。

 常人から見れば近づけば近づくほど気味の悪いゴーストの攻撃を二人は防ぎ切り、隙を狙って攻撃を繰り出し、的確に急所を突いて消滅させていく。

 

 何度も素早く飛び上がって回避行動をとりながらゴーストを祓っていく内に、千尋の視界から静枝の姿が消え、目の前の対処を優先せざるおえなくなっていた。



 信じられない事態に襲われたのは、そんな、”一瞬の隙だった”



 唐突に銀色に輝く金属製の鎖が飛び出し千尋の左腕を拘束する。何が起きたのか分からないまま首を動かして原因を確かめようとするが、次々と鎖が千尋の身体に伸び右腕や両足、腰にまで伸び身体を締め付け、そのまま身動きが取れなくなった。


 必死に身体を動かそうとするが固く拘束されビクともしない。

 千尋は首を必死に動かし、静枝の背後に出現したブラックホールのような黒い空間から鎖が出現していることを突き止めた。


「……静枝ちゃんですか? 何のつもりです、外してください!!」


 すぐそばにゴーストの魔の手が迫っている状況での拘束。千尋は焦った声で静枝に訴えかけた。



「残念ですがそれは出来ません、静枝はゴーストですから」

 


 冷たい口調で、静枝はずっと隠してきた自分はゴーストであることを告げた。


「どういうことです……」


 死を間近に感じながら、歯を食いしばって力を振り絞ろうとする千尋は静枝の言葉が信じられなかった。


「タイミングを伺っていたという事です。あなたがこうして一人になり、隙を見せる瞬間を」


「そんな……静枝ちゃんは千尋たちの仲間のはずです! 今までだって助け合ってきた、部活も一緒にやってきた仲間じゃないですか!!」


 淡々と裏切りを告白する静枝、千尋はこれまでの日々が嘘で塗り固められていたものだと信じたくない一心で必死に訴えかける。しかし、静枝は冷淡にも表情一つ変えず、千尋の言葉を否定する。


「違います、私はゴーストです。ここにいるゴースト達も全て私が使役している子達なの。あなた達とは生きる世界が違う、私達は人間を捕食して生きる、貴方達が忌むべき敵なのよ。恨みはないけど、千尋には犠牲になってもらうわよ」


 擬態を得意とする上位種のゴースト、それが浮気静枝の正体だった。

 真実を告げる静枝の言葉に悪寒を覚えるほどに衝撃を受けた千尋。

 だが、静枝にとってはこの反応も予想出来ていたこと。言葉遣いも徐々に遠慮のないものへと変わっていった。


「そんなのおかしいよ……静枝ちゃんは間違ってるよ」


 泣き出したいのを必死に堪えながら千尋は声を震わせた。


「一度死んでゴーストになった私の気持ちなど千尋には分からない。家族も友達もいる幸せな千尋には分からないことよ」


「そんなことない……静枝ちゃんを誰も孤独になんてしない。そんな分からず屋に、屈したりはしません!! 宝石よ……もう一度力を貸して、マギカドライブ起動!!」


 言葉では通じない、そう千尋は判断して宝石の力を開放することに決めた。

 巫女装束の下、胸元に付けているターコイズの宝石が眩い輝きを始め、二度目のマギカドライブの発動に応える。


「くっ!! 一回きりの力ではないのかっ!!」


 解放された宝石の力で発生した風圧に耐えながら、予想外の事態に驚きの声を上げる静枝。容易に千尋を拘束することに成功しただけに、油断していた。


「姉さーーーーーん!! この声を届いてっ!!」


「無駄よ!! あなたのお姉さんは、麻里江さんは私のゴーストと戦っているのよっ!!」


 力いっぱいの声で姉を呼ぶ千尋。対して静枝は感情を剥き出しにして、アリスの神託を受けた魔法使いが放つマギカドライブの脅威を恐れた。


「目を覚まして!! 静枝ちゃん!! こんなことをしても、誰のためにもならないよ!! 

 話しを聞いてくれないなら容赦はしない。宝石よ、千尋の願いに応えて、浄化の一撃を解き放ってっ!! セイントブラスター!!!」


 拘束していた鎖を破り、静枝の気付かぬうちに鬼の仮面を被った千尋。黄金に輝く圧倒的に巨大な棍棒を召喚させ、それを操作すると、迷いなく振り返り静枝に向かって振り下ろした。


 命中すれば一撃でゴーストを浄化させるであろう、強大な魔力が静枝の身体に迫る。だが、静枝は背後の怪しげな黒い空間から大きな怪物の腕を出現させ迎え撃つ。

 繰り出した異形の腕は、巨人が持ち合せているようなサイズ感をしていて、血管の浮き出た青白い不気味さで鋭く長い爪を持ち合せ、見るからに悪魔的な強靭さを感じさせるものだった。


 魔力と魔力がぶつかり合い、辺りを揺らす振動と共に大きな反動が二人を襲う。

 千尋が繰り出した黄金の棍棒は前回と引けを取らない魔力量だったが、異形の腕も引けを取らない力を持ち合せているのか、がっちりと棍棒を押さえつけて離さなかった。


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