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14少女漂流記  作者: shiori


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Tips7「水瀬ひなつ」

 私は水瀬(みなせ)ひなつといいます。凛翔学園の一年生です。私は病弱なせいもあって保健室で過ごすことが多いですし、存在感が薄いので私のことを認識している生徒さんは数少ないと思いますが。


 そんな私が学園で親しい人と言えば保険医の月城先生と睡眠障害があるせいでよく保健室を一緒する静枝ちゃんくらいでしょうか。

 最近は社会調査研究部の方とも挨拶をしてもらえるようになって、学園に通い楽しみが増えましたが、なかなか健康面のせいで毎日通うのは億劫しています。


 虚弱体質な私はインドアな趣味しかないのですが、本を読むことと占いが好きです。占いは星座占いや水晶占いなど色々ありますが私は手相占いが好きです。

 手相から直接分かることだけでなく会話をしたり、その人の体温から伝わってくるものだったり、間接的情報から分かる人柄を知れることが嬉しかったりします。


 さて、自己紹介はこれくらいにして、ここからは私のこれまでの生い立ちについて話したいと思います。


 私は未熟児として生まれました。祝福されて生まれてきたのかは分かりません。しかし、物心ついた頃には母は毎日のように泣いていました。今ならはっきりと分かります、その頃から母は不安症状やうつ症状、酷い時にはヒステリックに声を荒げるパニック症状を引き起こす精神疾患を患っていたのです。


 度々過呼吸になり、登校が難しいほどの病弱で学校になかなか通うことの出来ない私を見て母は次第にそれを呪われているせいだと捉えるようになり、私を巻き込んでよく知らない新興宗教に入り浸っていくようになりました。


 最初は道場に通い仲間が出来て、表面的には正常に見えた母。

 しかし、それも長くは続きませんでした。


 母は周りが段々と見えなくなっていったのです。

 自分の身体の事も、私の身体も事も、全ては信仰の中で解決されるものだと妄信して自分の頭で考えることを辞めてしまったのです。


 再び精神疾患の症状を再発させていく母。

 以前は精神科に通いカウンセリングを受けていたという母でしたが信仰に一途に成り果てた母は、父の病院で診てもらうべきだという言葉も聞く耳を持たず、ただ神への信仰のみを求める人形になっていました。


 私は段々と母が怖くなりました。

 そのことから母と出来るだけ接触を避けるようになり、学校に通うのが億劫な時は図書館に行き、本を読み耽って時間を潰していたのです。


 父と母は毎晩のように喧嘩に明け暮れていました。本気の喧嘩を目の当たりにすると恐ろしさに身体が震えあがります。


 近所迷惑も気にせず怒号が飛び交う中、私は必死に距離を取って目をそらします。


 でも、私が呪われていると、救わなければならないと、そう口にする母の言葉を聞くたびに、私は必死に耳を塞いで、言葉にしようのない罪を抱えるようになってしまいました。


 喧嘩が終わった後にはとても辛い気持ちになります。母は頭痛が苦しいのかダイニングテーブルでじっと座ったまま頭を押さえたり、特には布団に入ったまますすり泣く声が聞えてきます。

 どうしてそんなに苦しいのに父の言葉を聞かないのか、不思議になりますが、それは母にはもうどうすることも出来ないことなのだと思いました。


 私は怒ることも反抗することも怖くて出来ませんでした。それに私がこれ以上拒絶することで母は壊れてしまうのではないか、そんなことを考えて、ただ怖かったのです。


 母が家事の出来ない日は父が買ってきた総菜を食べ、私は出来るだけ自分のことは自分でしようと務めるようになりました。


 そして、私が小学六年生の頃、ついに耐え切れなくなった父は母を殺害しました。

 

 互いに大きな声で叫び合い、衝動的に首を絞めて、それが思いのほか本気で力が入ってしまったのか、本当に殺すつもりだったのか、母は意識を失い、フローリングの上に倒れたまま動かなくなったのです。


 静かになった部屋、力尽き項垂れる父、その日の出来事は鮮烈な記憶として、私に幻覚を引き起こすほどにこびり付いていきました。


 父は母を殺害した罪で刑事裁判にかけられ、私は二度と父と会うことが無くなりました。


 これがきっかけとなり私は近くに住む死んでしまった母の親戚の家に住むことになりました。


 ”私を家に招いた親戚の家族は酷く脅えていました”


 眼帯を着けた薄気味悪い、無感情で笑いもしない私を。

 きっと、母から恐れを抱くほどの妄言を聞かされていたのでしょう。

 子どもである私に今更どうすることも出来ません。

 ただ、余計な混乱や騒ぎを起こさないよう、小さくなっていることしか出来ませんでした。


 親戚との生活は落ち着かないもので、両親はもういなくても元の家に帰りたいと思いました。


 そして、安心とは程遠い日々が続いたのち事件が起こりました。

 親戚との暮らしに嫌気が差して、一人元の家に帰って泊まった時の事です。


 一人になれて、穏やかな気持ちになれるはずでした。

 しかし、あの日の、思い出してはいけないトラウマが蘇り、私は気づけば自傷行為に走っていたのです。


 自傷する私、意識がぼんやりとして、痛みも感じなくなるほどに死へと近づいていく。


 私は生ぬるい暖かさが身体を包み、光がゆっくりと閉じて真っ暗になっていくのを感じ、やっとこの呪われた生に別れを告げる時が来たのだと安堵しました。


 でも、死は訪れてはくれなかった。


 どうして……。


 その時、そう呟かずにはいられなかった。


 最後を覚悟したのに、私の命を引き留めたのは心が壊れて、死んでいるはずの母の魂でした。


 母の魂が、か細い私の体に中に入り込んでいく。


 そして、再び意識が覚醒する。


 私が生きることを望む母の声を聞いた私は意識を取り戻した。


 手に掛けた手首の傷は消えていた。


 そして、瞳からは目の前の視界が霞んでいくほどに涙が溢れていく。


 この片目しか見えない目が、まだ流血ような涙を流し続ける。


 私はまだ生きているのだと、生きなければならないのだと、そう強く意識づけるように。


 私の中に憑依した母はそれから、守護霊になったのか何も言うことはなかった。

 ただ穏やかに私が生きているということを後ろから見守っているようだった。


 母によって狂った人生なのに、母は終わりを望みはしなかった。


 肉体は一つしかない、母も父もここにはいない。


 生きるにはあまりに頼りないこの身体を引きずって生きていくしかない。


 全てを失った世界で私はこれから一人生きていくのだと、それがよく分かった。


 そして、凛翔学園の一年生なった私は学園に通う気持ちを新たにするために、元の家で一人暮らすようになったのです。


 しかし、一番不憫に思って優しくしてくれた祖母が様子を見に来て、時々助けてくれています。だから、完全に一人暮らしが出来ているというのとは違います。


 長くなりましたが、これが私の生い立ちです。


 元々、母の影響からか霊感はありましたが、母の霊を取り込み、母を感じるようになってから、どうしてか夢が現実になる、予知夢を時々見るようになりました。


 不思議なことです、この能力が私が生きていくために母が与えてくれている指標のように感じています。


 便利かといえば決してそうではないけれど、夢を見ることが怖いこともあるけれど、でも、私は未来を感じるこの特性を活かすことが出来れば、こんな私にも生きる価値があるのではと考えています。

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