第十八章「太陽のような君と」7
必然的な避難所の不足や混乱もあり、広い屋敷でずっと潜んでいた静枝は学園までわざわざ訪れた。非常用の物資を求めての事ではない、大事な情報を伝達するためだった。
普段は見掛けない人の姿もあり落ち着かないまま、学園に着いて知り合いを捜していると、ようやく静枝は姉妹神楽を終えて、ゆったりとした時を過ごしている麻里江と千尋、それに雨音の三人の姿を見つけた。
「こちらにいましたか。至急お伝えしたいことがあります」
ベンチに座って非常用のブロック菓子を茶菓子に、三人で気分転換の会話を楽しんでいたところに、いつもの無感情な表情で、真剣に話しかけてくる静枝の姿。三人は一斉に会話を止めて、静枝の方に向き直った。
「桂坂公園にゴーストの群れが?
今になって街中にゴーストが出現するなんて、てんで穏やかじゃないわね…」
静枝から話を聞き、代表して背の高い麻里江が答えた。
ゴーストの出現は異変が始まってから内藤医院などに限られていたが、公園で見かけたという静枝の伝達から現状認識をすると、無視できる情報ではなかった。
「雨音? 先生を捜してこのことを伝えてくれる? 私と千尋は先に現地に向かいます」
自分の目で状況を確認する必要性を感じた麻里江に迷いはなかった。
「ええ、分かったわ。人命救助を優先にね。深追いはしてはダメよ」
仲間である静枝の情報とはいえ、自分達で判断して行動することは独断専行であることに変わりない。
脅威のほどが未知である以上、雨音は二人の身を案じてしまってならなかった。
「もちろん、静枝もそれでいいかしら?」
「はい、危険が広がる前に対処しましょう」
ゴーストとの戦いに慣れている以上、判断は早かった。
焦った様子の見えない静枝と共に、姉妹神楽を終えたばかりの麻里江と千尋は巫女装束のまま桂坂公園へと向かった。
「こうしてはいられない、私も先生に伝えないと」
頭を働かせ、黒江の居場所を推測しながら、雨音は最善を尽くすためにベンチを離れた。
唐突なゴーストの出現、また大きく事態は動き出そうとしていた。




