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14少女漂流記  作者: shiori


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第二章「導かれる者たち」6

 一階の端の方に位置する保健室に私は辿り着くと、静かに扉を開いて中に入った。


 キツイ消毒液の匂い漂う人を引き付けない現場かと思ったが、そんなことはなく、フローラルな香りが漂う、清潔感のある場所のようであった。


「あら~これは稗田先生ではないですか。いらっしゃい」


 陽気な挨拶で私を迎えてくれる金髪の外国人、そういえばアメリカ人だったかしら。

 赤ちゃんの頭くらいありそうな大きな胸の印象があまりに強すぎて、挨拶したことがあるのにもう忘れてしまいそうになっていた。


「お邪魔してすみません、月城先生。一限目は授業がないため放浪の旅をしていました」

「アハハハハッ! ニッポン人はジョークがお上手ね」

「ありがとうございます。先程、守代先生とお会いしまして」

「アハハハハッ! ミスターモリシロ! あの色気ムンムン鬼畜ロリコン男ね。あの男がどうかしましたかぁ?」


 守代先生の名前を出すと途端にハイテンションになる月城先生。いや、最初から陽気な人だと思ったが、一段とハイになってヤバイ薬物でも吸引しているのではと疑いたくなるほどの異常な反応であった。


「いえ、喫煙場所を探していまして、もしかしたら月城先生がご存知なのではと」

「オウ! もちろんです! この学園で唯一の喫煙場所の鍵はワタシが持っていますから」

「本当ですか?!」

 

 刻々とせりあがって来る喫煙欲が限界へと近づいていく心理状態の中、月城先生の言葉は朗報であった。


「実にイイ顔ですね! その欲しくてたまらないって表情、うんと尽くしてあげたくなりますよ~。

 いいでしょう、案内しますから、ささっとついて来てください」


 鼻息荒く白衣姿の月城先生は言い、仲間を見つけて楽しくなった様子だ。

 このまま私を喫煙場所まで連れて行ってくれるようで、保健室を飛び出し先導して案内してくれる。


 早足で階段を昇っていく胸だけでなくお尻も大きな月城先生の後を追って、辿り着いた場所は屋上に続く扉の前だった。

 月城先生は「ハーイ!、この先あるのが憩いの場所でーす!」と笑顔で私に言って、手に持った鍵で施錠された固い扉を開いた。


 強い春風と共に広い屋上の姿が眼前に広がっていく。


「屋上の鍵を持っているのは用務員室のものを除いてワタシと校長先生だけよ。もうすっかり口が恋しいようね、気持ちはよく分かりますヨー!」


「そうでしたか……一応、ちゃんとした喫煙場所はあったのですね」


 特定野外喫煙場所の設置が自治体によっては認められている関係で病院や役所でも屋上に喫煙所を設置することが増えてる現実がある。

 タバコから出る煙の影響が出ないことや、通常立ち入らない場所に設置すること、標識を掲示しているなど、各種ルールを守れば設置することが出来る。

 車の中や敷地内で規律を破って吸わないための措置というのがよく言われているが、社会のルールを守るためには喫煙者にとっても過ごしやすい社会が必要であるという考えだと言えるだろう。

 

「それじゃあごゆっくり、キーは美しい新任教諭のあなたにお貸ししまーす!」

「……先生はよろしいのです?」


「実は子どもが出来まして、絶賛禁煙中なのでーす!」


 月城先生はお腹をさすり胸を張って、自慢げに私に言った。


「それは……おめでとうございます」


 完全に月城先生のペースに圧倒される私は、その表情から溢れる幸福の意味を知った。


「そういうわけで、シーユークロエ! ちなみに、ミスターモリシロは自分の根城にしている美術準備室で喫煙する悪い子でーす! 稗田先生はマネしちゃいけませんよー! あなたが赴任早々飛ばされることになるのは、ご免ですからね」


 私が「はぁ……」と返事にならない声を上げている間に月城先生は忙しいのか分からないが、落ち着きなく屋上から姿を消した。

 上機嫌なのは子どもが出来たからなのかもしれないと余計な事を私は思い浮べた。


 月城先生は片言な日本語であるがここに赴任してからの期間は長いらしい。本名を月城エリスといい、結婚三年目のエネルギッシュな保健教諭である。


 ようやくタバコが吸える場所に辿り着いた私は、胸ポケットからタバコとライターを取り出し火を付けると、青い空を眺めながら煙を吹かした。

 ニコチンが体内に吸収されるとスッと心が落ち着き、身体から余計な力が自然と抜けていく。



 この街の異変はこの屋上から見える裏山に隕石が落下してからだと言われている。都市伝説のようだが、予告ない隕石の落下はインパクトがあったのかかなり噂も過激なものが広がり、フェイクニュースなどが増え、住民に不安が広がってしまったのは事実だった。


 こうした不穏なニュースによる心理的作用は、不安定な精神状態にある人ほど顕著に異常行動へと繋がっていく。


 ゴーストの出現が異常な規模で発生し始めたのにはこういった要因が孕んでいると夫は推測し、私はその実情の調査も兼ねてこの凛翔学園に赴任してきた。



「―――まぁ……退屈しそうにないわね、この教師生活も」


 多くの出会いをこの短い期間に経験した私は、煙を吹きながら思った。


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