Tips6「最後の祝祭」4
一方、凛翔学園に戻り、アンナマリーは自然と暖炉のように暖かい焚火の明かりを一人、ベンチに座り見つめていた。
人混みを苦手として、大勢の輪の中に入らず遠くから見つめる。アンナマリーは日本に来ても、そんな孤高な部分は変わっていなかった。
黄昏るようにぼんやりとしているアンナマリーを奈月は見つけると、表情をパッと明るくして駆け寄った。
「マリーちゃんみっけ! また怪我して帰って来てる……せっかくの綺麗な顔が台無しだよ」
持って生まれた端正な顔立ちをした美貌が傷を負っている。奈月はそう思って心配のあまり覗き込むようにアンナマリーのことを見つめた。
院長の手当てにより包帯や絆創膏の貼られた姿は誰から見ても痛々しいものだった。
「誰も気にしないよ」
内藤医院の戦闘での失態や身体の痛みに酷く落ち込んでいたわけではなかったが、アンナマリーはぼんやりとしたまま奈月に言った。
「あたしも先生も心配してる、院長先生だって。もっと自分の大切にしないとダメだよ」
「相変わらず、説教がましいな、奈月は」
明るく話しかける奈月、物静かなことに変わりないがアンナマリーは次第に息を吹き返したように奈月と視線を一致させた。
アンナマリーは蓮のことを愛してやまない前向きな奈月を眩しく思っていたが、奈月もアンナマリーのことを純粋さや外見の美しさから眩しく思っていた。
「まだ帰ってきて何も食べてないんでしょ? 早く行こうよ!」
アンナマリーと出会い、すっかり世話焼きになった奈月がアンナマリーの手を掴む。
奈月には厳しい戦いを繰り返していく度に、アンナマリーが俯いていた昔に戻っていっているような怖さを感じてならなかった。
奈月の良心を誰よりもよく知るアンナマリーは心の中で喜び、誰かが自分のそばに寄り添っていてくれることに安堵すると、不器用なりに引っ張られるようにベンチから立ち上がった。
(……施設にいた頃にも奈月のような子はいたはずなのに、何だか遠い思い出のよう)
辛い過去が、古い記憶に靄を掛けたままにしてしまっている。
だから、アンナマリーはこんな風に手を引かれている自分を懐かしいと感じながらも、記憶から同じような過去を正確に思い出すことが出来なかった。
いつもの調子となって二人がやってきた場所はカレーのスパイシーな香りが漂う凛音の前だった。
日が暮れて夜になっても、凛音の明るさは変わらず、次々に訪れる避難所の人々に笑顔でカレーライスを振舞っていた。
「アンナマリーさんもどうぞ食べてください、美味しいですよ」
奈月に続けて、アンナマリーにも笑顔で炊き出し料理を振舞う凛音。自分達とは違った価値観を持ったグループであるため、敵対心を長く持っていたアンナマリーだったが、手渡されたカレーライスを手に食欲を刺激され、謝意をしてその場を離れた。
「日本人はお節介な奴が多いな」
「まぁそういうところはあるけど、もう少しマリーちゃんは素直になってもいいと思うよ」
「奈月は誰それ構わず欲に任せてがっつきすぎたと思うけど……でも、茜って言ったか、あいつとは決着を付かないとな」
テーブルのある椅子に座り、カレーライスを食しながら二人話す。
リリスやヴァンパイアとの戦闘を忘れられないアンナマリーは、茜との決着を望んでいるのだった。
「懲りないね、いつからマリーちゃんは戦闘狂になっちゃったんだろ」
それが生きがいとばかりに傷ついても傷ついても、強くなろうとするアンナマリー。
コンビを組む奈月はそれをずっと見てきたが、もう他に興味を移してあげる手段も見つからなくなっているところだった。




