第十七章「内藤医院奪還作戦」7
アンナマリーは前回不完全燃焼のままに終わったヴァンパイアとの再戦に燃えていた。
内藤医院は上層階に進むごとに混沌さを増し、屍人となって襲い掛かってくるゴースト達にアンナマリーは進行を阻まれた。
「近寄るんじゃないよっ!! 気色悪いっ!!」
両手を伸ばし、口を開いて涎を垂らしながら歯をむき出しにして向かってくる屍人に対し、体勢を整え槍の一閃を放ち、振り払っていく。
完全に人としての感情を失っているにもかかわらず、アンナマリーの振り払う攻撃には反応して回避行動をとる屍人の姿は実に本能的に動く動物のようでありながら、気味の悪さは彷徨うゾンビのようであった。
アンナマリーは槍での攻撃では苦戦して対処に時間がかかり、数体同時に迫られると残弾に限りがありながらも惜しみなく黄金銃に持ち替え、引き金を引いた。
銃弾が鳴り響き、胸や頭に命中すると屍人はゆっくりと倒れ、そのまま血を流しながら動作を止めた。
風通しが悪く、息が詰まりそうな死臭に嫌気が差しながら、アンナマリーは進行路を確保すると、いちいち対処していればキリがない屍人を無視して次の階へと上がった。
六階まで上がり、いよいよ見知った気配を感じ取ったアンナマリーは一層緊迫感を高めて最も気配を強く感じる部屋を開け放って、ついに標的の姿を捉えた。
「随分と手間取らせやがって……覚悟は出来ているんだろうな?」
マントを羽織った銀髪の男、上位種のゴーストであるヴァンパイアが潜んでいた部屋はセキュリティールームだった。
薄暗い部屋の中でいくつものモニター画面が非常用電源で映されている。
アンナマリーが抵抗させないよう魔銃を向け声を掛けると、後ろ向きだったヴァンパイアは振り向き赤く染まった恐ろしい瞳をぎらつかせた。
戦闘に入るには広いとは言えない一室だったが、アンナマリーは怯むことなく視線を送ってくる標的に銃弾を撃ち放った。
ゴーストには絶大な威力を発揮する魔銃の一撃。
秒速600m以上の弾頭が真っすぐにヴァンパイアの身体に向かっていく。
だが、命中する直前、弾頭は手をかざして発現させた見えないバリアに阻まれ、無残にも砕け散った。
「そうそう同じ攻撃は通用しませんよ。
綺麗な目をしているというのに物騒ですね、魔法使いというのは……。
だが、それがまた独占欲を掻き立てる。
いいでしょう、気に入りました。貴方の魂は私が頂くとしましょう」
ぎらついた視線を送り、挑発とも取れる言葉でアンナマリーを歓迎するヴァンパイアのゴースト。
屍人とはあまりに異なる高い知性を持った底の見えない恐怖を感じる相手。
戦いを始めてしまった以上、危険だと分かっていても決着を付けないわけにはいかない。
アンナマリーはその場から動き出さないヴァンパイアの行動に痺れを切らし、槍に持ち替えて一気に襲い掛かった。
俊敏な動き放たれた一閃であったが、それをヴァンパイアはしなやかな動きで躱し、高い動体視力を駆使してそのまま槍を掴んだ。
「くっ!!」
強い力で槍を掴まれたアンナマリーは振り払うことが出来ず苦悶に声を漏らした。
そうしている間にもヴァンパイアは鋭い爪を持った左手で胸元を狙った。
だが、生死を分ける一瞬に見えた一撃は胸元に光る宝石によって防がれた。
「なにっ?!」
突如として溢れてくる光の波動にヴァンパイアは驚きおののいた。
蓮から託された、身体を守護するために発動する宝石の輝きだった。
「救われた命を……無駄にするような生き方は、うちには出来ないんだよっ!!」
激震が走るほどの強い言葉で威嚇し、ヴァンパイアの握る手を懸命に振り払うと、ヴァンパイアの腹をグッと力を込めて槍で貫いた。
「ぐはっ!!」
痛みと衝撃で口から血を吐き出すヴァンパイア。
鍛錬されたアンナマリーの器用な槍捌きは効果十分で、身体を貫通した一撃でヴァンパイアの抵抗が止まった。
アンナマリーは瀕死を伴う効果を確認し槍を引き抜くと、そのままとどめを刺そうと黄金銃に持ち替え、魔銃の一撃を放とうと構えた。
「このまま消えな、死にぞこないのゴースト」
吐き捨てるようにアンナマリーは言うと、眉間にしわを寄せ、拳銃を握る右手に力を込めた。
だが、これで決着がついたかと思った次の瞬間、ヴァンパイアから流れるオーラがより黒く醜いものへと変わり始めた。
感覚で危険を察知したアンナマリーは何が起こっているのか分からず、歯を食いしばって一歩下がった。
すると、ヴァンパイアは手をかざし、黒いブラックホールのようなものを呼び出し、手のひらから病院内に漂う魂を吸収し始めた。
アンナマリーは危険を感じ取り、姿勢を落として銃弾を放つが、銃声が響き渡るのみで、ヴァンパイアには届かなかった。
「化け物はやっぱり往生際悪く化け物じみてるってことかい……」
アンナマリーは魔銃が弾切れになり、神経を尖らせて余裕のないまま言葉を零した。




