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14少女漂流記  作者: shiori


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第十七章「内藤医院奪還作戦」6

 前方を走行する白のセダンを追い掛け、内藤医院の院長、内藤房穂(ないとうふさほ)の運転する車は内藤医院に到着した。

 白のハイエースバン、福祉車両は車椅子のまま乗り込むことができるのが特徴で、院長は普段からこの車を愛用し、運転していた。


「お前も女の子なのだから、怪我をするような戦いを繰り返すでないぞ。生傷を毎度も増やしてやって来るのを診る身にもなってくれ」


 院長は助手席に座るアンナマリーに言った。昨日火傷を負い包帯を巻いている左手、院長は今朝にも自分で手当ての出来ないアンナマリーのためにその包帯を取り替えていた。

 後部座席に座る玉姫は余計なことを言ってアンナマリーを刺激しないよう、二人の様子を見守り、ただ静かに外の景色を見ながら黙っていた。

 

「じいさん、それは外敵に言ってくれ。それに、うちは絶対に帰って来てるだろ? 心配ばっかすんなよ、いい歳なんだから」


 院長に対して直接感謝の言葉を伝えられる性格ではないアンナマリーは照れ臭さでぶっきらぼうに言葉を返した。だが、引き取られて以来、長くお世話になってきた恩義は感じているだけに、話す声色は奈月と話す時のように実に柔らかかった。


 玉姫は二人のやり取りを見ていると自分がわざわざ口出しをする必要はないかと考えた。


「まぁ、小言を言っても仕方ないか。さて、幽霊退治に行くのか?」


 車を停止させると院長はアンナマリーを見て言った。

 金髪碧眼の美しい容姿をしたアンナマリー。戦闘時の凛々しい姿は華麗に咲き乱れる女騎士のようだ。だが、その性格は口が悪く好戦的で、外見の美しさからは想像できないものであった。


「取り戻したいんだろ? だったら、戦わないと」


 一端の戦士のような物の言い方をすると、アンナマリーは一番に車を降りて、内藤医院へと駆け出して行った。


「どうしてだろうな……こういう時だけ、アンナマリーが生き生きしているのは。他のことには興味を示さないのに、なぜ……」


 それは院長にとっての長年の悩みでもあった。

 アンナマリーは院長から見ても生きることへの執着がなかった。

 苦しくても、傷ついても、何事もなかったように平然として治療を受けていた。


 それは、これまでの人生で通常の人間であれば生きることを諦めるほどの、度重なる痛みに耐えてきた証拠だった。


 だから、戦いで傷ついても平気な顔をして帰ってくるのだ。

 

「超能力研究機関で育ったあの子にとって、自分の力を存分に振るえることが、一番の生きがいなんでしょうね」


 玉姫はグッと手を強く握りながら院長に言った。何のために厳しい訓練に耐えてきたのか、それは戦うためだ。戦っている中でこそ、厳しい訓練の日々が報われるのだと、玉姫にはアンナマリーのことがそんな風に見えていた。


 自分達とはあまりに違う過酷な日々を送ってここまでやってきたアンナマリーを同情してしまうと共に、玉姫もまた院長と同様にアンナマリーの身を守りたいと願っている一人だった。


「人の生き方としては間違っていると思うが、そうなのだろうな。

 それでも、成長してくれたことには喜ばねばならん。

 あの子を必要とする世界こそが、あの子にとっての救いのかもしれない」


 皮肉ではある、戦うべき相手であるゴーストの存在がアンナマリーに生きる力を与えている。

 それでも、院長は凛翔学園に入学し、奈月や蓮と出会って学園生活を送るアンナマリーが少しは年相応の少女の生き方に近づいていることを、嬉しく思うのだった。


「はい、まだ人類はゴーストの存在すら認知できていないのですから。

 彼女を頼ってあげるのが、私たちの役目なのかもしれませんね。

 さて、私たちも遅れないように行きましょう」


 玉姫の言葉に勇気づけられた院長はエンジンを止め、残された自分の役目を感じながら、車を降りた。


 全員が合流して、アンナマリーを追って内藤医院へと足を踏み入れていく。

 出入り口に張られた結界はほとんど切れかかっており、玉姫は結界の様子を確認してから追いかけると言葉を残した。

 

 内藤医院のエントランスホールは停電の影響で薄暗く、視界が悪く状況が見渡せない状況だった。


「茜、アンナマリーはヴァンパイアを捜して上の階に向かったはずよ。

 千尋を連れて先に行ってちょうだい。

 私と雨音は生存者がいないか、探しながら向かうわ」


 黒江は油断ならない不穏な空気が漂う中、茜に言った。

 それを聞いた茜は迷うことなく千尋の手を引いて、上の階へと向かって行った。

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