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14少女漂流記  作者: shiori


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第十七章「内藤医院奪還作戦」5

 夜が近づくにつれ、徐々に暗くなっていく道路を院長の車両に先行して走行する。白から黒へと緩やかに移り変わっていく空がフロントガラスに映り込む。私は鬱屈した感情を振り払おうとサイドウインドウを開きひんやりとした風を浴びた。


 学園でただの教師として静観しているよりも、こうしてハンドルを握っている方が気が紛れて、今の状況にも集中することが出来るのは、実に不思議な心地だった。


 一緒に乗車する茜と雨音は自作しているいつもの戦闘服に身を包み既に気合を入れており、千尋は巫女装束に身を包んで気持ちが入っているようだった。


 三人が戦いへの準備を整えている中、こうして車を運転することで少しでも私も戦いに参加できている実感を持てることは、気休め程度に過ぎないがありがたかった。


 街並みは地震の影響で信号が停止している箇所や木が倒れているのも見受けられ、古い家屋は半壊している場合もあり、深刻な津波などの発生はないものの震災の大きさを物語っていた。

 

 避難を呼びかける車両も走ってはいるが、どれも自動運転ばかりで避難所への誘導などを行うことはなく、私たちにとってはただ通り過ぎていくだけの障害物でしかなかった。


「警備の人が回っているおかげで、巡回している範囲ではコンビニやスーパーでの窃盗の被害などはないようでしたが、無人になった家を狙って火事場泥棒をしている人はいましたね」

 

 茜と雨音、千尋は先ほどまで街に出て見回りをしていたこともあり、走行している車中では情報共有がてらに苦労話を聞かせてくれた。


 こういった災害時には混乱が発生するのがつきものだ。

 その中でも、無人であることを狙った窃盗や市民同士の小競り合いにはなかなか対応してきれない部分がある。


 警察や消防などが各方面に散らばり対応に追われている現状では手が回らないことだろう。


 監視の目がなければ犯罪は広がっていく、それは災害時などの物資が限られた事態になれば、顕著になっていくものだ。


「内藤医院のような深刻なゴーストの被害はないようですけど、夜間に野犬に襲われたって人もいるようで、ヴァンパイアの仕業かもしれないです」


 雨音が心配そうに報告してくれる。通信機器が使えない影響で情報の錯綜はありそうだ。遺体安置所の設置を求められた以上、犠牲者は見えていないだけでかなり多くなっているのかもしれない。


「先生、大変な戦闘になるとは思いますが、凛音がカレーを作って待ってくれているようなので、頑張りましょうね」


 隣に座る茜が私に言う。常に前向きに振舞おうとする茜。私に限らず、凛音に対しても親愛の感情を抱いているように見えて、仲が良いのはいいことだが、いつか一線を超えてしまわないかと私の心情は複雑になった。


「あの子はまた……大人しく出来ないんだから……」


 つい愚痴のように呟いてしまう。だが、落ち込んで前を向けないよりも、ひたむきに何かに取り組んでいる方が凛音のためでもあるのかもしれない。


「確かに意気込んでいました。自分も力になりたいって」


 後ろの席から小柄な千尋も言葉をくれた。千尋もこうして私たちに付いてきている身であるので、凛音の気持ちがよく分かるのだろう。

 共感しあう者同士、共存するために仲が深まっているのが分かった。


「一応作戦は立てておいたわ。アンナマリーさんはヴァンパイアとの再戦に向かうと思うの。一人じゃ危険を伴うだろうから、茜は千尋を連れてアンナマリーさんの進む方向に向かい敵を殲滅しながら追いかけてちょうだい。

 私と雨音は院長と一緒に行動して生存者を発見次第、その都度保護していくわ。

 玉姫さんについては病院の構造も理解してくれているから、臨機応変に対応してもらうのがいいでしょう」


 あまり熟考せずに決めた作戦であったが異論はなかった。

 そして、自動車で移動すること十分程度、内藤医院までやってきた私たちは後方から追いかけてきてくれた院長の自動車と共に作戦を開始した。

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