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14少女漂流記  作者: shiori


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第十七章「内藤医院奪還作戦」2

 夕方になり、茜たちは無事千尋を連れて学園まで戻り、守代先生達も同じく戻って来た。守代先生はこの非常時にまだ営業を続けている飲食店を探し回って来たそうで、ちゃっかりお腹を満たしての帰還だった。

 アンナマリーが非常食を食べるのを嫌がったからだとおっしゃってはいたが、私としては早く帰ってきてほしい心境だった。


「茜、千尋の様子はどうだったかしら?」


 私は部室の前で戻って来ていた茜に話しかけた。街まで出かけたのは雨音や麻里江、静枝も一緒だったこともあって戦力的に安心していたが、怪我もなく大きな問題は起きなかったようだ。


「霊体とのシンクロは順調に進んでいて、本人も違和感は感じないようです。融合の際に取り込まれた霊体が大人しいのも本人の性格に合っているのかもしれません」


 茜の説明は可憐の時以上に迷いのない口ぶりだった。

 おそらく千尋本人に確認してもさして相違はないだろう。


「そう、安心したわ。これからも千尋のことをよろしく」


 少し前の話しになるが、千尋の魔法使いへの覚醒は想定されるケースとしてアリスと検討したことがあり、その時に取り入れる霊体となる霊魂は千尋と相性の合うものを入手済みだった。

 臓器移植の際、ドナーを確保するような準備に似ているが、それが千尋と適応して問題なく機能していることは一安心出来る心境だ。


「もちろんです。麻里江が過保護になりすぎないことの方が今は心配ですけど」


 昨日あれだけのことがあったのに、茜は少し落ち着いたような苦笑いを浮かべていて、望月姉妹のやり取りにほっこりさせられていたようだ。

 戦闘スタイルに関しては茜も麻里江と千尋の二人で検討することを支持していて、ゴースト相手にどんな戦闘をするのか今から楽しみなようだった。


「茜、まだ未確定だけど、内藤医院の奪還作戦を今日にも実行に移すかもしれないから、少し休んでおいて」


「はい、まだあそこには生存者もいるかもしれませんし……あたしも行きたいです」


 茜の積極的な言葉が心に染み行くように響く。危険な戦いになることを承知で作戦に参加する意思を示す茜。私はこうしてまた茜に頼り戦地に向かわせようとしている。たとえ醜悪な魔女と罵られても否定は出来ないのかもしれない。


「ありがとう、茜はいつも頼りになるわね。それじゃあ、先程帰って来た守代先生と話しをしてくるから、部室でゆっくりね」


「はい、行ってらっしゃい、先生……」


 茜が穏やかな表情で私を見送ってくれる。部室にいるブラウンとひと時でも過ごせばリラックスできるだろうと私は思った。

 病院に生存者がいる可能性は低い、それでも希望を捨てないのは、とても茜らしく誇らしかった。

 私は母親のように慕ってくれる茜から離れて、守代先生と話しを付けるため、先程耳打ちをされて待ち合わせ場所に指定された学園長室まで向かった。


 校舎を歩き、学園長室を目指す。昼過ぎまでは多くの生徒がいて、賑やかな雰囲気だった校舎は静けさに包まれていた。多くの生徒は付属にある避難所などで家族と合流して避難生活を始めている。自宅に戻った生徒もいるにはいるが、その割合がどの程度かは私にもよく分からなかった。


 気が重たくなる中、学園長室の前までやってくる。部屋の中から一切の音は漏れて来ず、防音がしっかりしているようだ。


「”秘密の話しをするにはもってこい”ということかしら……」


 心身に蓄積された疲労が声を洩れさせた。

 学園長と守代先生相手に話しをする以上、今後を左右する重要な話しになるに違いない。そのことが私の胃をキリキリと痛めつけてくるのだった。


 陽の光が今日も遠い、そんなことを現実逃避でもするかのように思いながら、私は学園長室の扉をノックし、部屋へと入った。


 学園長室に入ると、焙煎された香ばしいコーヒーの香りが、煙草の臭いをかき消すように強く漂っていた。

 

 私の入室に気付き、立ち上がって一瞥する二人。共にネクタイを着用する姿を見ると、自然と背筋が伸びる心境になった。


「お待たせしました。守代先生もご苦労様です」


 私は沈黙すれば一気に息が詰まるような雰囲気になることを恐れ、最初に出掛けていた守代先生を労った。


「いいえ、大した収穫のないまま帰ってくることになりました。

 現状、厳しさを増すばかりです」


 いつもは飄々としていて妙に揶揄(からか)ってきて、冗談も口にする守代先生だが、学園長を前にしていることもあり、真剣そのものだった。


 守代先生の報告を学園長は先に聞いていたようだが、私も改めて聞かされた。

 舞原市の外へと続くルートを探る為、下水道を歩いてきたという守代先生。

 そこで出会ったのは、メフィストフェレスを名乗る新たな上位種のゴーストだった。

 守代先生の見解ではこの街全体を魔力を駆使したファイアウォールが覆っていることはほぼ間違いなく、そのメフィストフェレスと名乗ったゴーストは巨大な結界から外に脱走されないよう守護しているという。にわかに信じがたいことだが、この異変がゴースト達による策謀である可能性が濃厚になってきた現状であるとのことだった。


 未練や後悔、恨みや妬みなどを持った死者の残り香から発生するゴースト。それらを利用している上位の存在であるゴーストの犯行であるなら、人が対抗できる範疇をすでに超えていると考えるべきところだ。

 

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