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14少女漂流記  作者: shiori


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第十七章「内藤医院奪還作戦」1

 昼下がり、生徒会などが教職員と協力して生活物資の管理を手伝う中、一般生徒の多くは避難所へと向かった家族と合流して余震などに備え始めていた。


 私は千尋を魔法使いへと覚醒させ、超能力を扱えるように処置した。

 その後、千尋は街への見回りに向かうという茜たちに同行し、初陣へと向かった。街中でのゴーストの出現は今のところ確認出来ていないので、茜たちが見回りをしながらレクチャーをしてくれるなら、幾分か安心だった。


 守代先生達は舞原市の外側に向かう方法を模索しており、午前中から出掛けてしまった。私はようやく手ぶらになって屋上で煙草を吸う時間を得られたところだった。


 可憐はいつまでも保健室に置いておくわけにはいかず、保護者の下に帰した。その際は月城先生にも同席してもらったが、とても気分のいいものではなかった。この異変が始まってから、一番思い出したくない出来事となったのは言うまでもない。


 今度は千尋を覚醒させたことで、私の荷が下りることはなくなり、危険と隣り合わせの日々がこれからも続いていくことに変わりなかった。


 どんよりとした雲が覆う忌まわしい空を眺めながら、白い煙を吐き出していると、白衣を着た大らかな小太りの男性、内藤医院の院長、内藤房穂(ないとうふさほ)氏が私の前にやって来た。


「稗田先生、こちらにいらっしゃいましたか」

「院長先生……わざわざ私のところに何用ですか?」


 遠慮がちに話しかけてくる院長。よくこの場所に辿り着いたものだ。私は昨日の夜が初対面ということもあり、何と呼べばいいのか迷いながら用件を聞いた。


「先生には辛い思いをさせてしまったのは承知でお願い申し上げます。私が院長を務める内藤医院を取り戻してほしいのです。簡単なことでないことは承知しておりますが、是非ご検討ください」


 私よりもずっと年上の院長が丁寧な言葉で言うと、頭を下げて願い出た。

 訪ねて来た時点で、魔法使いの少女たちの力を借りたい用件なのではないかと嫌な予感はしていた。


「稗田先生……是非、私からもお願いします」

 

 屋上の扉を開き今度姿を現したのは、透き通った繊細な声をした内藤玉姫さんだった。

 院長に声を掛ける間もなく登場した玉姫さん。今日は私服姿をしていて、メイクも整えて現れた姿はまた印象の違う女子大生のような若々しく綺麗な雰囲気を纏っている。


「玉姫さんまで……私も病院は住民にとっても重要なインフラだと存じております。お気持ちはわかりますが、昨日の今日です。内藤医院の現場を見てきたわけではないのですが。早急に取り戻す必要があるのですか?」


 内藤医院での戦闘では新たな上位種のゴースト、ヴァンパイアのような銀髪の男が猛威を振るっていたと聞いていた。前回に苦戦しているとあっては相応の戦力が必要になって来る。私は状況を見極めなければならないと考えた。


「そうですね……現時点では一時的な結界を掛けたに過ぎず、元凶のゴーストも深手にはなっていないはずです。今度は街中に被害をもたらすような事態も危機として考えなければならなくなります。早めに倒さねばならないと考えています。それに、生存者が残っている可能性もあります。正直に言えば一刻の猶予もないと思っています」


 生存者がいる保証はないが、話しを聞く限り、現実的に考えて早めの対処が求められるのは間違いなさそうだった。


「……分かりました。守代先生や茜たちが帰還したら、検討します。それまでお待ちいただけますか?」


 私はリリス以来の激戦となる予感を感じ、心が痛みながら二人に確認した。

 両者ともに頷き、私の言葉に納得してくれたようだった。


 屋上から二人が立ち去り、私はふと一つの答えに辿り着いた。

 今日になって二人が内藤医院を取り戻したいと言い出したのは、きっと昨日は可憐との別れがあったからなのだろう。

 これは復讐ではない……ただ、自分たちが生き残るために必要なことだと、二人はそう言いたかったのだろう。


 あまりにも受け入れがたい可憐の死。その直後にまた戦闘になるようなことを言われれば私だって辛い。だから、二人がこのタイミングまで待ってくれていたと考えるのが、自然な推理と言えるだろう。

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