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14少女漂流記  作者: shiori


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第十六章「震える街」7

 怪しい佇まいをしている相手に蓮は一歩前に出た。

 すると後ろから浮かれた奈月の声が聞えた。


「こんな人気のないところでイケメンが二人見つめ合って何も起きないはずはなく……」


 溢れ出る興奮を堪えるように胸を抑えながら煩悩を口にする奈月。確かにいかにも奈月好みな容姿を不審者もしているが、この発言にはさすがのアンナマリーも恥ずかしくなった。


「おーい、奈月……正気に戻りなさいよ、一人は生きてないわよ」


 目がハートマークになって見惚れてしまっている奈月を正気に戻そうと、アンナマリーは肩を揺すり声を掛けた。


 明らかに生気を感じない冷たさを持った男、不審な動きをすればすぐに魔力を行使できるよう、アンナマリーは目を離さないように後方から努めた。


「不思議と興味が湧いた、君ほど先を見据えて行動できる人間はそうそういまい。君の名を聞いておこうか」

「守代蓮だ」

「俺の名はカステル、しかし、メフィストフェレスと名乗った方が分かりやすいかな」


 道を塞ぐ男は不審者であることに変わりはないが自己紹介をした。

 しかし、自己紹介をしながら蓮は足止めをされているような無言の圧を感じ取った。


「ファウスト伝説……光を愛せざる者」


 アンナマリーは瞳を大きく開いて男を見つめ小声で呟く。空想が具現化したような優れた容姿と知能、一筋縄ではいかないと感じ取った。


「ゴーストでありながら随分と頭が回るようだが……現世の霊体ではないようだな、リリスと同じか」


 これまでの経験からリリスのようなゴーストであると判断した蓮。いつ殺意を向けられるか分からない相手を前に話しは続けられた。


「それはご想像にお任せするよ」


 怪しくほくそ笑みながら、白いスーツを右手で掴む仕草をする男。


「この先に用があるのだが、通してもらおうか」


 本能的な部分でこの場は立ち去るべきだと感じたが、蓮はその本能を遮り、この街から脱出する手掛かりを得るために理性を保った。



「あぁ……残念だが、ついさっき道を塞いだところだ。

 迷い込んだ猫が間違って冥界に連れていかれないようにというわけだ」



 はっきりとした拒絶を口にしたカステルと名乗る男。

 それに一番に反応したのは後方から見ていたアンナマリーだった。


「ゴーストなら容赦はしないっ!」


 道を塞いでくる男の誠意ない言葉に痺れを切らしたアンナマリーが一気に魔力を開放して神速で前面に飛び出した。


 蓮はそれを見て”マリー”と大きな声を上げ、呼び止めようとするが、一度標的に向かってしまったアンナマリーを止めることは出来ず、二人は衝突した。


 アンナマリーは健康的な美脚で足蹴りを勢いよく繰り出すが、男が真っすぐに手を伸ばすと、見えない壁に阻まれ、アンナマリーの身体は宙を舞って奈月のいる位置の後ろまで一気に吹き飛ばされた。


 一瞬の出来事で驚愕することしか出来ない蓮と奈月。

 予想以上に危険な戦闘力を持ち合せていることはすぐに分かった。


(くっ!! どうするっ!)


 次にどう動くべきか迷う蓮は反射的に拳銃を取り出し、抵抗の意思を見せようと男に銃口を向けていた。


「無駄だよ……その引き金を引いてもこのバリアは突破できない。

 今の君たちでは力不足だよ。大人しく地上に戻ればいい。

 君にはこの地獄を生き残る理由があるはずだ、ここで命を投げ捨てるべきではないよ」


 冷たく言ってのける男は白いスーツからコンバットマグナムを取り出し対抗するように銃口を向ける。

 さらに空気が重くなり、緊迫感を増すと蓮は一歩も動けず拳銃を握る手に力が入った。


「それなら、まさかお前がこの結界を作り出したのか?

 目的はなんだ? このまま壁に閉じ込めて大量虐殺でもするつもりか?」


 迫る危機に冷静さを抑えられず感情的に変わっていく蓮。

 対するカステルと名乗った男は余裕の表情を崩さなかった。


「結界は俺が張ったものではないよ、俺の役目は街を覆う結界を守護することだからな。


 まぁいいさ……君はなかなか物分かりが悪いようだから。少し話しておこう。


 グレートリセット、それが我々の目的とするところだよ。

 この街はその目的の実験場になった、計画のためのサンプルに選ばれたのだよ」


「つまりはゴーストによる大量殺戮を続けるつもりか……」


 こうしている間にも犠牲者は増え続け、多く人が苦しみ続けている。

 悪しき目的のために、この異変が始まったことを知った蓮は決して許すことの出来ない感情に支配された。


「ゴーストの存在を受け入れぬまま既存の価値観に固執し続ければ、いずれそうなるだろうな。


 これは実験だ。君たちの言うところの知恵と勇気を振り絞り、精一杯抵抗を続けるといい。

 そうしてくれれば、今後のための替えの利かない実験データになる」


 凶器を向けたまま淡々と自身の目的を話すカステル。

 蓮に匹敵する長身の男から滲み出ている迫力は普通の人間であれば怯えさせるに十分なものだった。


「生意気な顔をして、勝手なことを言ってんじゃねぇよっ!!」


 後ろから見ていたアンナマリーが黄金銃を構え、怒りを露わにして発砲した。

 慣れた手つきでトリガーを引き、怒号のように鳴り響く銃声。しかし、銃弾は男のシールドによって阻まれ、逆に一方的な銃撃が男から放たれた。


 危険を察知していた奈月が両手を前にして蓮の前に立ち、ファイアウォールを展開させて、繰り返し発砲される銃撃を懸命に魔力を行使して防ぎ続ける。


 蓮はこれ以上、交戦を続けるのは危険と判断すると、防御の体制を続ける奈月の腰を掴み、アンナマリーに一旦この場を退くように声を掛けて、奈月の身体を軽々と持ち上げて立ち去った。


 カステルと名乗った男から後退し、死角へと逃げ込むとようやく銃声は鳴り止み、安全が確保された。


「メフィストフェレス……厄介な敵だな」


 命の危険からようやく逃れると、蓮は思わず呟いた。

 目的のためなら大量殺戮も何とも思わない危険なゴースト。

 狭い下水道では相手にしづらかったが、いずれもう一度相手にしなければならないと思うと蓮は憂鬱になった。


「ゴーストには変わらないんだろ? 倒すべき敵だよ」


 この場で仕留めきれなかったことを悔やみながら、アンナマリーも連鎖するようにはっきりとした覚悟で声を荒げた。


 新たに出現した危険な上位種のゴースト。

 その対抗策も見出せぬまま後退を余儀なくされ、舞原市からの脱出法を探ることも頓挫することになってしまった。


 先程通ろうとした下水道の先に何があるのかを確かめることが出来ないまま、蓮達は地上へと戻るため、ここまで来た道を再びとぼとぼと歩いた。

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