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14少女漂流記  作者: shiori


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第十五章「明けない夜」4

 守代先生が凛翔学園の駐車場まで車で帰って来たのは、緊急会合から帰って来た学園長に報告を終えて、学園長室を出た後だった。


 今後の状況が見えない中、既に疲れの色を見せていた学園長。

 他校との緊急会合は各々の状況認識の違いから否応にも長引き、意見交換は難航したようだ。

 それぞれが情報を持ち寄っても、結論を出せるだけの状況ではないのは良く分かる。

 およそ事態が悪化した時を想定した懸念事項でも話されたのだろう。気分がよくないのもよく分かるというものだ。

 

 そんなことを考えていると学園長の憂鬱さが伝染したように私も身体が重く感じ、激しい眠気が襲ってくるほどだった。


「守代先生……」


 車のエンジンを切り、左右のヘッドライトを消して車から降りてくる守代先生に私は駆け寄って声を掛けた。


「稗田先生、遅くなって申し訳ない」


 守代先生の服は所々汚れていたが、無事な様子だった。


「いいえ……それは平気です。学園長も先ほど帰ってきて報告を済ませたところなので」


 私がそう答えると守代先生の反応は薄く疲れている様子が垣間見えた。

 「報告ご苦労様です」と丁寧に言葉を発した後に、後部座席で意識を失っている人物を見て私は絶句した。


「か、可憐……」


 思わず声が零れた。それほどに想定外の光景だった。


「市役所の状況を確認している際に内藤医院で怪物が出たと情報を受けて急行してみたが、一歩到着が遅かったようだ。病院の方も被害者が多く、問題は解決していない……」


 声を落として淡々と言葉を並べる守代先生。

 普段は飄々としているが、目の前に息をしていない生徒がいるという状況に、心を痛めているのがよく分かった。



「稗田先生……ですね? 私は去年まで社会調査研究部の部長をしていた内藤玉姫(ないとうたまひ)です。


 立花可憐(たちばなかれん)さんは新種のゴーストとの戦闘で魂を抜かれてしまい、もう……助かりません。


 すみません、大切な生徒さんをこんな目に……。

 私の判断ミスです、謝罪いたします」



 後部座席から降りてきた長い黒髪をした看護師姿の女性は大きくお辞儀をして、私に自己紹介と報告をしてくれた。

 内藤玉姫と自己紹介した彼女は腕や太股まで白い肌をしていて汚れを知らないように一見見えるが、激しい戦闘があったのか薄ピンク色の制服はみすぼらしいほどに酷く汚れていた。

 だが、ゴーストとの交戦で疲れているのは同じなのに、悔やみながらも口調はしっかりとしていた。


「一人で行ってしまったから心配していたけど……そう……可憐が」


 言葉にしてもまるで現実感がなかった。


 会うたびに元気な姿で声を掛けてくれた可憐。


 みんなに愛され、年相応の人懐っこさやお調子者なところもあり、一年生でありながらムードメーカーにもなっていた。


 可憐が助からないという、玉姫からの言葉はとても信じがたいものだった。


「受け入れるしかないのね……」


 魔法使いに覚醒した可憐の魂を抜かれるということがどれほど絶望的な死を連想させるかを分からない私ではない。

 時間と共に冷たくなっていく可憐の身体に触れると、もうこの世にいないのと同じだと理解せざるおえなかった。


「こんな時間になってしまいましたが、彼女を部室に連れて行ってもいいですか?」


「構わないけど、みんなまだ部室に残ったままなのよ、私は早く家に帰るように行ったのだけど……。

 どうやら可憐は想い人の無事を確認したら戻ってくると言って出て行ったみたいだから……生徒達は帰ってくるのを待っているみたいなの」


 心が沈み、喉が渇いていくのを感じながら私は声を振り絞って伝えた。


「そうでしたか……そんな予感はしていました。

 茜の声がここからでも聞こえてくる気がして」

 

 彼女も魔法使いであったと聞いている。茜と親しかったことも。

 テレパシー能力も持っているだろうから、気配を感じ取るくらいはこの距離でも出来るのかもしれない。


「稗田先生、私は学園長と話しをして今日は二人を送ります。

 そちらも生徒達をよろしくお願いします」


「ええ、分かったわ。守代先生もお疲れ様です」


 私の言葉を聞くと、奈月とアンナマリーを連れて校舎に歩いていく。

 いつになく真剣で茶々一つ入れない真っすぐな守代先生だった。

 

 可憐の死を実感できないまま、私は可憐を背負う出会ったばかりの玉姫と共に、社会調査研究部の部室まで本格的な夜へと移り変わった校舎を歩いた。

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