第十五章「明けない夜」3
新たに出現した上位種のゴーストとの激闘は決着を迎えることなく終わった。
恐らく人間の身体を乗っ取って擬態して活動していたのか、血を吸う悪霊、ヴァンパイアの性質を持っていた。
透明化してしまった時点で追撃するのは難しく、姿を消したことで蓮たちの退却が決まった。
脅威は去ったがアンナマリーは火傷をしており、すぐに治療が必要だった。
玉姫は可憐をずっと背負ったままで、長時間の戦闘で魔力も体力も疲弊していた。
これ以上の戦闘は出来ないと決断するのに時間はいらなかった。
外出用の黒のジャケットに身を包んだ長身の蓮を先頭に内藤医院を出ると、奈月が駆け寄り、アンナマリーの怪我の具合を心配した。
心配する奈月にアンナマリーは大したことないと目をそらしたが、優しい奈月は間を置くことなく応急手当を始めた。
途中から内藤医院の院長、内藤房穂も駆けつけ、一緒に患部を見て治療を始めると、アンナマリーは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに目のやり場を見失っていた。
丁寧に包帯を腕に巻き付けられ、二人に囲まれるとさすがに大人しくなるアンナマリー。血は繋がっていないとはいえ、院長はアンナマリーを引き取った人物であり、一緒に暮らす家族だ。不器用なアンナマリーだが蓮から見ても信頼できる絆が生まれていると実感する場面だった。
親戚関係にある玉姫は少し遠くからそんな和やかな場面を穏やかな表情で見つめた。
さすがに歳が近いこともあり、玉姫はアンナマリーに対してお姉さんぶることも家族のように親しくすることも出来なかったが、同じ魔法使いとしての覚醒を果たしている者同士、アンナマリーに親近感を抱いている。
治療が終わると蓮や玉姫の提案が一致し、一旦凛翔学園に戻る流れとなった。
「ファイアウォールを展開してるから、しばらくは中にいる使い魔にされた吸血鬼は出て来れないと思う。ずっとこのままにしておくのは無理だから対策は考えないといけないけど」
奈月の努力もあって、立ち入り禁止となったが内藤医院から直接ゾンビのように変異した怪物が出てくる危険は回避された。
「あのヴァンパイアの上位種も深手を負った状態で暴れ出すことはないだろう……」
蓮の放った銃弾の威力はゴースト相手には効果的だ。蓮の言葉に周りも安心することが出来た。
今なお内藤医院の周囲には人だかりが出来ているが、警察や残った病院の職員が協力して、住民を落ち着かせようと声を掛けていた。
依然として空は分厚い雲に覆われ、陽の光が届くことのないまま、さらに暗く長い夜を迎えようとしていた。
蓮達はアンナマリーの応急手当が終わったところで自動車に乗り込み、目を覚まさないまま身体が冷たくなっていく可憐を後部座席に乗せ、凛翔学園へと自動車を走らせた。




