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14少女漂流記  作者: shiori


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第十四章「滅びゆく世界の檻で」5

 ―――可憐が内藤医院に向かっていた頃、守代蓮はアンナマリーと奈月を連れて舞原市と隣向かいになっている市の境目近くまで走行していた。


「やはり、霧が掛かって向こうが見えなくなっているようだな」


 手塚金義(てづかかねよし)巡査が話していた通り、交通封鎖も順調に始まっているようだった。蓮は一旦側道に停車して交通封鎖の様子を車内から窺う。

 道路工事というわけでもないのに警備員が足止めをさせている。緊急時とはいえ目を疑うが、それだけ警察の手が足りていないがための緊急時の対応と言えるだろう。


「先生、歩いてギリギリのところまで行ってみる?」


 このまま隣の市へと向かうのは難しいと分かったところで助手席に座る奈月が蓮に声を掛けた。

 蓮はそれを聞いて一旦、Uターンをして警備員の監視の届かない林道の側で車を駐車させた。

 三人は揃って車から降りると霧で先が見えない木々の奥を見つめ、恐る恐る中へと足を踏み入れた。

 足場の悪い林道は落ち葉でいっぱいになっており、一歩進むごとにくしゃり、と乾いた音が鳴った。


「奥に進むと余計に霧が深くなってまるで樹海のようね」


 先頭を歩くアンナマリーが言った。ここを抜けて市外に出るのは至難の業だと三人は感じ取った。


「死体でも地面に埋まっていそうだな」

「気味の悪いことを言わないでください、先生……」

 

 蓮にはわざとか本気は分からないが、奈月が怖がった様子で蓮の腕にしがみ付いた。


「はぁ……来てみたところ、空はもちろんだけど地上から市外に抜けるのも難しそうね。帰って来た人がいないっていう話がホントなら、引き返した方がよさそうね」


 溜息を付きながら立ち尽くすアンナマリーは言った。


「その方がよさそうだが、どうやら魔力を持つ者には負荷が強そうだな」

「やっぱりそっか……霧が近づいてくると頭がひりひりするというか、何か頭痛がしてくるんだよね。やっぱり危険だよマリーちゃん、これ以上は」


 奈月は手をすりすりと合わせながら、嫌な感覚を覚えて言った。


「残念だね、特異な性質を帯びたファイアウォールって説は濃厚だと分かったけど、これまでだね」


 アンナマリーはこれほど広範囲なファイアウォールの発動には懐疑的だったが、実際にここまでやって来て間近で魔力の気配を感じ取ると信じざるおえなかった。


「あぁ、次は市役所に向かう。市長がいないとなると、混乱が広がってる様が見られるだろうからな」


 タバコを吸う暇もなく、真剣な表情で再び車に乗り込む蓮。


「先生……何か悪だくみしてる悪魔のような顔してるよ」

「気のせいだろう。行くぞ、二人とも」


 蓮が気にせず言うと、アンナマリーと奈月も車に乗り込んだ。

 ハンドルを握り、アクセルを踏み込むと黒のセダンが再び公道を走り始め、舞原市役所へと向かった。


 地理的にも中心部に位置する舞原市役所に到着すると、完全に扉は閉まり、中には一般人は入れないようになっていた。


「これはいよいよ信憑性が増してきたな」

「どのみち、市民の相手をする余裕は役所にないと思うけど」

 

 遠くから市役所の様子を眺めていると、内藤医院の救急車が何台も市役所の駐車場に止まっていくのが見えた。


「なんだろう、うちがちょっと見てくる」


 アンナマリーが車を降りて二人の反応を待たずに行ってしまった。

 そして、しばらくして戻って来たアンナマリーは救急車に乗っていた人々が病院から非常事態が発生して避難してきたところであると分かった。


「随分匂うね。先生行ってみる?」


 特に感情を込めることなく、アンナマリーは蓮に言った。


「そうだな。お前も心配だろうから、確認しに行くか」


 アンナマリーは内藤医院の院長が所有する本宅で共に暮らしている。

 いきなり車を降りてすぐさま救急車へと駆け寄って行ったことから明らかであったが、内にある心の動きではアンナマリーが家族の心配をしていることを蓮は察した。

 一緒に暮らす家族が無事であるかを確認する意味も込めて、蓮たちは内藤医院へと向かうこととなった。


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