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89 真夏の夜の夢【後編】

王子様は、公爵令嬢の婚約者を、他の男に浮気したふしだらな悪女だからと、婚約破棄を言い渡しました。すると、横合いから変な女が入ってきて、こう言いました。


浮気相手(アレ)は男ではありません。女です。


なんだそりゃ?!である。



まじまじと浮気相手の『ロイ』もといロザリーを見るが、普通に背の高い引き締まった体躯の男にしか見えない。いや、彼(?)が護衛という職業なのは、見た目や雰囲気的に頷けるが。しかし、見れば見るほど怪しい。アレ、本当に女か??


「おまえの主張は理解した。ならば証拠を見せよ!」


ライオネルは言った後で、「お、なかなかイイ案じゃないか」と、その顔に得意げな笑みを浮かべた。しかし…


「じゃ、脱げばいいな!ここで」


いともあっさりぶっ飛んだ提案をされ、ライオネルは一瞬思考停止に陥った。


「ちなみに、ロザリーは服に幻惑魔法を付与しているから、パンツまで全部脱いだら今の俺みたいに女に戻るが、ここで全裸になれって言うんだな?」


確かに姿を変える魔法が解ければ、真の姿が現れるだろう。でも…



それ、俺が衆目の中で女性(?)を無理矢理脱がせたことにならないかな??



答次第では己の評価が地に堕ちるどころか地を突き破るんじゃ?、と野生の勘が訴えてくる。それに、いくら相手が格下の身分でも、モラルというものは存在するのだ。王太子だからといって、遊び半分ででも庶民の女を衆目の中全裸に剥いたら、当然非難囂々となるわけで…


動揺を気取られぬように、目だけ動かして会場を見渡せば、険しい視線がいくつも己に向けられているのがわかってしまった。


あ、でもここじゃなく別室で女の部下にでも確認させれば、問題は解決するのでは…?


「別室で…」


「ぃよっし!()()()()()()()だ!とりあえず、俺から脱ぐか~」


しかし、ライオネルが口を開きかけたのを威勢よく遮って、サイラスがむんずと己のドレスを掴んだ。


どーしてそうなる!?


()()()()()()()だけど、ロザリーちゃん一人だけ脱ぐなんて、可哀想過ぎるもんな~」


いや、俺まだ「脱げ」って言ってない。

おまえに「脱げ」とも言ってない。


……ん?

そもそも俺は最初から「脱げ」って言ってない気が…



ライオネルが混乱する間にも、キラキラした飾り靴が転がり、ストッキングが宙を舞い、手袋が床に落ち…


「包帯?!怪我をしているの?!」

群衆の誰かが、女の左手の包帯に気づいて声をあげた。


…ライオネルに突き刺さる眼差しが増えるのと同時に、群衆の中で『護衛』という女の自称が真実味を増した。

女性でも護衛なら、怪我も多いはずだ。その怪我をおして職務に明け暮れ、仲間を庇うために己が泥を被ろうと――


衆目の中で脱ぐという愚行に及んでいるにも関わらず、彼女に注がれる眼差しは一気に同情的なものに変わった。


そんな中、あれよあれよという間に華奢な白い肩が露わに…

会場がどめよき、ライオネルに非難と敵意に満ちた視線がビシバシズキュンと突き刺さった。


「おいっ!!やめろストーッップ!!」


叫んだ声に王太子の威厳など欠片もなかった。ライオネルは、チキンレースに敗北した。


◆◆◆


婚約破棄劇場は、バカ王子の敗北で幕を閉じた。危うく罪なき女の子を全裸に剝きかけ、婚約破棄どころじゃなくなった、と言うのが正しいか。問題のバカ王子は、身分の高そうな中年のご婦人方に詰め寄られていた。


はぁ~、チキンレースに勝ててよかった。


「サイラス…!」


アナベル様が愁眉を開いて駆け寄ってきた。私は今、アルの了解を得てドレスを脱ぎ、男装して大広間に戻ってきている。ドレスのままいても悪目立ちするだけだしね。


「あなた!無茶をしすぎよ!」


「だって暴挙に出なきゃ、ロイの正体バレちゃうし。だ~いじょうぶだって!ド庶民だし、傷つく評判もないし!」


ほんと、バカ王子が別室でロイの正体を確かめさせようと言い出した時はヒヤッとしたよ。けどチキンレースには勝てたし、問題ナッシング!


「でも…」


アナベル様は申し訳なさそうにしているけれど。


私はただ、友達を失いたくなかっただけだよ。戦争反対の古参派に潰れて欲しくもないしね。結局は自分のためにやったんだ。


「ロイ、ごめんな。他にいい案が浮かばなかったんだ」


窮地を脱するためとはいえ、彼を『ロザリーちゃん』にしてしまったのだ。そりゃ、怒るよね…。私は、アナベル様の後ろに無言で佇むロイに謝った。


「この、ド阿呆が」


「まったくだ」


ロイは憮然とし、アルの額には青筋が浮いている。


「アル、ごめん。せっかくのドレスを」


私にはもったいないくらい綺麗なドレスだったのに、悪い使い方をしてしまったね。


「いや、服のことじゃなくてだな…」


謝る私に、アルが苦い顔で言いかけたときだ。


「ニミュエ公爵令嬢、」

王国騎士を従えた女官がやってきて、アナベル様の前に跪いた。





「国王陛下が話?私に?」


跪いた女官は、頭を垂れたままつらつらと説明した。


「恐れながら、衆目の前であらぬことを叫んだ殿下のことを謝罪したいと」


国王陛下がさっきの茶番劇の謝罪――見れば、壇上から国王陛下の姿が消えている。


「皆の前では配慮に欠けると。公爵閣下及びアナベル嬢に内密で謝罪をと、仰せでございます」


「わかったわ」


アナベルは頷いた。恐らく、父あたりが抗議したのだろう。大広間(ここ)で堂々と王太子の発言を撤回するのは却って騒ぎを蒸し返すからと言い訳して、別室で会うことになったと。要は秘密裏に、国王陛下を引っぱり出した、ということだ。


(お父様のことですもの。口だけの謝罪では済まさず、その場で婚約継続の書類に陛下の拇印を無理矢理にでも捺させるとか…それで手を打つんでしょうね)


そんなことを思いながら、アナベルは先導する女官の後をついていった。


しかし。


「待って。馬車に乗る必要はないはずよ?」


人気のない庭園に寄せられた馬車にアナベルが眉をひそめた刹那、彼女を先導してきた女官がパタリと倒れた。同時に、先ほどまで無言でついてきてきた王国騎士がアナベルを押さえ込む。


「?!」


「ふふ。それが、あるのよ」


疑問に答えたのは、予想外にも可愛らしい少女の声だった。


◆◆◆


「ンふふぅ~!いち、に、さん、だあぁ~!!」


今、私は噂の第一王女サマに絡まれている。


見た目に騙されたっ…!というのが、率直な感想だ。赤みの強い紫色の艶やかな髪をサイドに寄せた大人っぽい髪型で、飾り気のないシンプルなドレスでお人形のように椅子に腰かけていた同じ人物とは思えない。


「ぐるんぐるんぐる~~ん!!」


十二歳くらいだろうか。セットした髪が崩れるのも構わず、私の右手を持ってご機嫌で勢いよく回っていらっしゃる。時々足が(もつ)れて転びそうになるので、見てるこっちは気が気じゃない。つーか、なんで私に?!


「回って回って回ってェ~~ラ~ララァ~♪イエ~~!」


…誰か彼女を止めてくれ。危なっかしいし!


気のせいかな。深夜の繁華街のゴミ捨て場にぐでぇ~となって、泥酔して懐メロを大声で歌うサラリーマンと重なる。


助けを求めるように周りを見たら、王女サマ付の侍女らしき数人が目に入った。ちょっと!ご主人様がご乱心だよっ!


「「「……。」」」


目を逸らされた。おい。


「ンフフフゥ♡アタシの王子様ァ~♪」


むぎゅうう~~


フウフウ言ってるのは疲れたの?

ほっぺ赤いし…大丈夫か?!


ねえ!お宅の王女サマが問題行動!あと、なんか無理してるっぽい!誰かっ!

あと、リアル王子様ならさっき怖い顔したドレスのおばさんたちに連れて行かれたよ~


「ああ~ン、胸が硬ァ~い」


…お子様だから許すけど!

素直なコメントありがとよッ(怒)!


「メイィ~?いつものやるからカモ~ン♪」


ご機嫌な王女サマが何か言ってる……私の胸にほぼ寄っかかって、頬ずりしながら。


「ありがとぉ~」


ササッと寄ってきた侍女さんからくたびれたウサギのぬいぐるみを受け取った王女サマ。侍女さんは、役目を終えるやまたサササッと元の位置に戻った。


え?助けてくれないの??と、思ったら王女サマは私の右手をがっちり掴み、グイグイ引いて…ふらつくので結局私が彼女を支え…大広間の中央へ。え?え?何??


「はぁ~い!ちゅうもーく!!」

王女サマは大声で叫び、ぬいぐるみを高々と掲げた。


「ウサたんをォ~~、ファイヤー!!」


途端に火に包まれるぬいぐるみ。くたびれたそれは一瞬で灰になった。はらはらと舞い散る、元ぬいぐるみの灰。


「でもってぇ~、フリーーズ!!」


床に散らばった灰を中心に、ざっと半径五メートルの範囲に薄氷が張る。どちらも王女サマが魔法でやったのだ。


「アハハハハ!!」


ケタケタと笑うイカレた王女サマの周りからサァーッと人が退いた。ナニこの子?!


「ねぇ…」

私の胸に顔を埋めたままの王女サマが囁いた。


「アンタも転生者よね?」


「え…」


表情の削げ落ちた私の顔を、得体の知れない王族はにんまりと確信に満ちた眼差しで見上げた。


◆◆◆


「サアラ…大丈夫か?」


アルから聞いた話によると、ペレアス国第一王女イヴァンジェリンは国一番のうつけ者で知られる王族だという。国王陛下や王太子の目を盗んでの酔狂なパフォーマンスは日常茶飯事、あまりにもぶっ飛んだことばかりするので、彼女に甘い汁を吸おうと擦り寄る人間は皆無だとか。


いや…あの子はうつけじゃない。


ドン引きパフォーマンスの後、少しだけ会話して。別れ際に「飴チャンあげるぅ~」、と押しつけられた紙屑には…


話がしたい。明日一人で、私の宮へ来て。

PS 王妃も転生者。ノエル・ベイリンは続編ヒロイン。関わると死ぬ。


走り書き――日本語で書いてあったのだから。

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