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45 呪術師と採寸

季節は夏を迎えていた。


メドラウドからやってきた人々は、あれからさらに開拓し、整地して広くなった地に仮設の住居を建て、すでに居留地は稼働し始めている。

帝国人の人達は、護衛半分、職人半分、役人少々、商人少々という内訳だ。そして彼らの頂点に立つのが……


「ギデオン様……」


野獣公は帰らなかった。

本人曰く、この地が気に入ったという。


「鎧を着ねばよいのだろう!なに、そんなモノなくとも不自由などないわ!森には入らぬ故、案ずるな!!」


すっかり狩人の格好で、原野に分け入り、狩りを楽しむようになってしまった。一応、居留地の長としての仕事もなさっている。事務仕事の大半を連れてきた役人さんに任せ、本人は決済のサインをするだけだけど。


それから…


「おう、サイラスとやら!おまえに結界魔法を教えてやってくれと甥から頼まれたんだった!」


結界魔法?そんなものあるの?ふおぅ…やっぱしファンタジーだな!この世界!



結界魔法は、ある程度の魔力さえあれば使えるらしい。読んで字の如く、物理攻撃や魔法攻撃を防ぐ魔法とのこと。

もうちょっと早く知りたかった。知ってたら私、水蜘蛛にやられずに済んだんじゃん…


「込められる魔力によって結界の強度が変わるの?」


「そうだ。広範囲に展開すれば、それだけ魔力を使うからな。強固な結界は難しくなる。まあ、おまえさんはまだ子供だしな、自分の周りにぐるっと結界を作る練習だな」


ちなみに、物理攻撃ならよほど大きなものをぶつけられない限り結界は破れないが、魔法攻撃は、相手の攻撃魔法に込められた魔力の方が勝れば、結界は破られてしまうという。


「魔力のデカい方が勝つんだ?」


「そうなるな」


ふーん。

今も記憶に鮮烈に残るのは、あの奴隷オークションで見た紅蓮の炎。ああいうのは、術者より高い魔力で結界を作らないと防げないのか。


「ほい、その辺にちょいと作ってみろ」


「?」


野獣公は地面に足で線を引き、そこに結界を構築してみろという。言われるがまま、覚えたばかりの結界魔法を発動する。見た目はほとんど変化はない。結界って透明なんだ。だから、イメージし辛くて苦手な人が多いんだとか。色つけちゃいけないのか、と尋ねたところ、「そんなことしたら結界張ってるのが相手に丸わかりだろうが」と言われた。結界は、見えない盾であるべき、なんだそう。


「よし。じゃ、そのまま少し離れてろよ?」

野獣公は言うと、愛用の戦闘斧を構え…


「!!」


私の結界魔法めがけて振り下ろした。

バリン、と私の結界が砕け散る。うっわ~……簡単に壊れちゃった。


「物理攻撃は防げるが、例外もある」

悪戯げに笑って、野獣公は戦闘斧の柄をコツコツと叩いた。


「コイツにはな、ちょっとした魔力を付与してある。だから、魔力量でおまえより上のわしの攻撃が勝ったわけだ」


「へえ~」


物理攻撃でも魔力を付与すれば魔法攻撃になるってことかな。厄介だ。


◆◆◆


サイラスが去った後。

野獣公ギデオンは、無表情でその背を見送った。先程結界魔法について教えるために、戦闘斧でサイラスの作った結界を破ってみせたのだが。


(あやつ…思いの外魔力量が多いな)


斬りつけたギデオンにしかわからなかったが、戦闘斧を結界にぶつけたとき、常にはない手応えがあったのだ。つまり、それだけ結界が頑丈だったということ。


(ふむ。まだわし程ではないが、アレは成長すると化けるかもしれんな)


たまには事務机に座った方がよいかもしれない。


いつもならそのまま狩りに出かける予定をキャンセルして、ギデオンは居留地に新たに建てられた『別荘』に足を向けた。


◆◆◆


教えて貰った結界魔法は、さっそく村の皆にも教えた。なんせ夏の森は虫、蛇、蠍…あとグラートンも、物理攻撃してくる奴の宝庫だ。今までひたすら躱すだったのが、少しくらい楽になるだろう。イメージし辛いなら、色をつけてもいい。相手は魔物か虫だ。結界が透明である必要などない。


そうして居留地と植物紙のやり取りもしながら、エリンギマンズに混じって紙漉きもしながら過ごしていたら、久しぶりにメドラウドから飛竜がやってきた。


「へ?俺??」


飛竜でやってきたのは、七十は越えていそうなお婆さんと、そのお付きの人達だった。その人達は私に用があって来たという。はて?


「あなたがアルフレッド様のご友人のサイラス様ですね。私は、メドラウド公にお仕えする呪術師のアーリーンと申します」


ド庶民の若造相手に、アーリーンと名乗ったお婆さんはずいぶん腰の低い挨拶をしてくれた。


「サイラスで。様はなんか…」


ヘンな感じがする。

アーリーンお婆さんは、着ている物からして絶対私より身分が上だし。そのアーリーンお婆さんがちょいちょいと手招きするので、傍に行くと…


「ちょっとこれに触ってごらん」


前世の占い師に付きもののアイテム、水晶玉にそっくりな透明な丸い石を差し出された。言われるがままに触ると、


「ふえ?!」


水晶玉っぽいものの色がみるみる変わっていく。澄んだ水色になったかと思うと、そこに黒い靄みたいなモノがチラチラと混じりこむ。


「もう、よろしいですよ。ありがとう」


「へ?あ、はあ…どうも」


ニコニコとアーリーンお婆さんに言われて、手を離すと、水晶玉擬きは元の透明なそれに戻った。何コレ??


「あなたの魔力は、風、そして、闇」


「え?!」


「人は基本的に水、風、火、土、光、闇の全属性の魔法を使えるけど、使える魔法というのは、ちょっと焚き火をしたり、コップ一杯の水を出したり、夜に足元を光りで照らしたり…小さなことしかできないの。けれど、適する属性の魔法であれば、雷を落としたり、土の巨人を作り動かしたりできる――」


ごく稀に全属性に適する魔力を持つ者もいるけどね、とアーリーンお婆さんは微笑んだ。


「あなたの魔力は、風魔法と闇魔法に適しているわ。雷を出せるんじゃなくて?」


確かに雷撃魔法はよく使う。なんとなくだけど、炎や水を出すよりやりやすいのだ。ちなみに、アーリーンお婆さん曰く、魔力の質と適性は生涯変わらないらしい。


その後、アーリーンお婆さんはにこにこしながら、医者のように私の腕や首筋に触れ、唐突にこう言った。


「ちょっと採寸をしたいの。いいかしら?」


◆◆◆


場所を移して、ここは居留地内の新・『別荘』の一室。

男性陣は追い出された。室内には、私とアーリーンお婆さんとそのお付きの女性達、後は義母さんと、興味津々と言った様子でついてきたティナと……カリスタさん。うぐぅ。ダライアスの部下のカリスタさんには性別をバラしたくないんだけど…


「言わないわよ、下らない」


私がソワソワしている理由を察したのか、カリスタさんが先に言った。


「骨格見れば一発でわかるわよ」


さいですか……ヘコむよォ。


肩を落とす私の耳に、


「なあ、なんでわしらは外に出された?アーリーン様が脱ぐのか??」


扉の向こうから、追い出されたことに疑問符を飛ばす野獣公の声が聞こえてきた。あ、よかった。約一名私の正体に気づいてない人がいる。


「アハハ、まさか。脱ぐとしたら、あの黒髪のボンッキュッボンッな熟女じゃないかね?」


おい、誰だ。カリスタさんを熟女っつったヤツ!

ふわぁ!殺気?!カリスタさん、抑えてぇ!!



気を取り直して。


アーリーンお婆さんのお付きの女性達に下着に剥かれた私は、言われるがまま手をあげたりおろしたり、回れと言われて回ったり…。ティナが面白がって、真横で私の真似をして遊んでいる。


「あの…何で採寸なんか?」


私、ド庶民の男だからドレスなんか着ないよ?

怪訝な顔をする私に答えたのは、アーリーンお婆さんだった。


「アルフレッド様が気にしておいででした。自分の誘いが元であなたの服をダメにしてしまったから、新しい服を作って欲しいと頼まれたの」


「そうですか…アルが」


真面目なアルらしいといえばらしいか。


マントとシャツをダメにしてしまった私は、今、ヴィクターのシャツを借りている。当然大きく、まるでワンピースみたいだ。身体の凹凸を隠しきれないから、シャツの下にサラシを巻いて誤魔化している。確かに服の脱ぎ着は面倒だけど、慣れればなんてことないんだけどね。貧乏ド田舎村では、大人のぶかぶかな服を着ている子供なんてざらにいるし。


採寸を終えると、アーリーンお婆さんはお付きの女性の一人を仕立屋に行かせた。さっそく居留地内で作るらしい。なんか…身にあまるものをいただいた気分。


「あの…ありがとうございます」


頭を下げる私に柔らかい笑みを向け、


「お礼ならアルフレッド様に」


と、アーリーンお婆さんは言うと、そのまま飛竜に乗ってメドラウドへとんぼ返りしてしまった。


そして、なんとたった一日で私の服は仕立てあがった。前のより数段質のいいマントと、軍服みたいな深緑色のかっちりとしたシャツ。丈夫そうだね。しかも揃いのズボンまでつけてくれた。


アル!本当にありがとう!大事に着るよ。


◆◆◆


メドラウドにとんぼ返りした呪術師は、地に降りたつや矍鑠(かくしゃく)とした足取りで当主の元へ向かった。


「《隔離》」


凛とした詠唱で、空間が現から切り離される――結界の上位魔法だ。


「それで、あの娘はどうだった」


当主の問いに、忠実な呪術師アーリーンは頭を垂れ、報告した。


「あの子の魔力の本質は、風魔法。闇魔法は後天的なものでしょうが。あの子は加護持ち…いえ、闇魔法ですから『呪い』持ち、ですね」


ノーマンは頷いた。そこまでは、薄々ノーマン自身も気づいている。彼女の背後には『魔の森』がいる、と。


「それから、採寸を口実にあの子の身体を見た侍女が、胸と背中にうっすらとですが傷痕を見つけました」


「なんと…!」


聞けば、傷痕の位置からして、身体を貫通する傷を受けたと思われるという。あの子供がそれほどの傷を受けて、果たして生還することなどできるのか。答は否だ。


「微かですが、古代魔法……恐らく蘇生魔法の気配も感じました。あの子は…」


「わかった」


そこまでわかれば十分だ。

あの娘も己が息子も瀕死の重傷を負い、何らかの方法で蘇生したのだ。息子は口を割らないため、詳細は推し量ることもできないが。ただ口を閉ざすのはよいことだ。失われた蘇生魔法など、その存在が知られればどうなるか。人間の欲ほど恐ろしいものなどないのだ。


「このことは、他言無用だ」


「御意」


呪術師に魔法を解くよう命じると、光の粒子が舞い、それらが消えるとそこはもう当主の執務室に戻っていた。


「ああ、そうだ」


去り際に、ノーマンは呪術師に問いかけた。


「口実にした仕立ての贈り主は誰と言った?」


「恐れながら、アルフレッド坊ちゃまの名を」


呪術師の答にメドラウド公は淡く笑んだ。


「それで、よい」

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