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40 一緒にスイーツを

アルの押しに負けて、私たちはモルゲンにやってきた。イライジャさんが戻ってきたタイミングで、荷馬車に乗せてもらったのだ。

ちなみにティナは村でお留守番。こないだスリに絡まれたときも怖がってたし、イヤリング(魔除け)があるから大丈夫だと説き伏せて置いてきた。


「手、つなぐぞ。はぐれるな?」


「はーい」


私はむしろアルがふらふら迷子にならないか心配だけど。

しかしアルは思いの外しっかりした足取りで私をとある店の前に連れていった。


「ここ…カフェ、だよな?」


アイアンレース縁取る小洒落た看板。扉の前に佇むお仕着せの店員。私たちの前で、上等な服を着たご婦人方が店員に扉を開けてもらい、店の中に入っていく。この世界で、カフェとはこういった上流階級のための店だ。貧乏人には縁がない。


……何しに来た??


疑問符を浮かべる私の腕を引き、アルは「入るぞ、」と店員に声をかけようとする。私は慌てて止めた。


「どうした?」


「どうした?じゃないって!」


こんな高級な店に、どこからどう見ても貧乏人な私が入れるわけがないでしょーが。そこの店員のおにーさんにつまみ出されるよ。


「大丈夫だ」


「いや、大丈夫じゃないって」


嫌だよ、優しくつまみ出してくれる人なんかいないんだからね?最低でも拳骨……トリプルアイスクリームを頭にプレゼントされるんだから。


渋る私に構わず、アルは店員のおにーさんに声をかけた。


「友達と入りたい。いつもの、頼めるか?」


なるほど常連さんなんですね?けど、私はこの店からしたらゴミ以下…やっぱりトリプルアイ


「かしこまりました」


いや!かしこまらないで?!トリプルアイスクリームは嫌だっ!


「どうぞこちらへ。いつもの個室を空けてございます」


「ありがとう」


「はへ?」


コシツ…?ドウゾコチラヘって何語だっけ??


「ほら、こっちだ」


アルに手を引かれて、私はついに未知の領域に踏みこんでしまった。あの店員さんがスマートな足取りで席まで案内してくれる。他の客にできる限り見られないルートを進むとは…おにーさんプロだね。セレブ感パねぇ…


小さな二人掛けのテーブルがセットされた個室に「どうぞ」と通されたアルと私。決して狭くはない部屋だ。従業員用休憩室でも取調室でもない、ちゃんとしたお客サマ向けの部屋。当たり前のように、椅子を引いてもらって着席して…


私、明日死ぬのかな?


ここのところ街に出るとほぼ百パースリに遭遇するし。

恨みも買いまくったよな…。

こないだエルフのこそ泥をやっつけたばかりだし。ちょっと前にはヴィヴィアンのとある商会を潰したしね。


…思い返すといっぱいやらかしてるわ、私。


「おまえ…気分でも悪いのか?」

遠い目をする私をどう思ったのか、アルが怪訝な顔をした。


「ちょっと…人生振り返ってた」


「……は?」


なぜ今このタイミングで??と、アルが首を傾げたとき。


「お待たせいたしました」

あの店員さんがやってきて、テーブルに何かを置いた。


「フレッシュブルーベリーと苺のレアチーズタルト、クリームとミントを添えてごさいます。お飲み物はキームンをご用意いたしました」


「ん」


いや、アルフレッドさんよ、「ん」って何だよ「ん」って!

勘だけど、その紅茶、すっごく高いぞ!


恐る恐る金で縁取られたカップに口をつけると、クセのあるスモーキーな香りの中に蘭のような芳香が鼻腔をくすぐった。


「クセがあるけど、美味しい…花みたいな香りがしますね」

それに渋みがあまりなくて、甘味がある。

紅茶のことはよくわからないけど、日本でこういう旨味と甘味があるお茶の代表格って、玉露だよね。茶葉の収穫前に覆いを被せて日光を遮ると、渋みが少なくて甘味のあるお茶になるんだっけ?うろ覚えだけど。


「産地はあまり日が照らないところ?」


私の問いに店員のおにーさんは、僅かに目を見開いた後で肯いた。


「日が照らないとこの紅茶の味と関係あるのか?」

アルが疑問符を浮かべる。


「お茶ってね、日光を遮って育てると渋みが少なくて甘みのあるお茶になるんだよ」

緑茶も紅茶も同じだね、と言うとアルは「りょくちゃ?」と首を傾げた。


やっぱり異世界に緑茶はないか…。

けど、日本人としては飲みたいなぁ…緑茶。


日照の悪さではウィリスもなかなかのレベルだし、イライジャさんにチャノキが手に入らないか聞いてみようかな。緑茶だから、紅茶と違って茶葉を発酵させない…うん、詳しいことはわかんないや。テレビかなんかで聞きかじった程度の知識だし。


アルにしきりに勧められて、私はいかにも高級です、と主張している金縁のお皿に目をやった。フレッシュブルーベリーと苺のレアチーズタルト――雪のようなクリームの上に鮮やかな赤と紫がぎっしりと見目よく飾られている。前世で食べたことがあるから味は知っている。けれど、今世では上流階級しか食べられない超高級品なわけで…


「きき…緊張するぅ」


「なんで食べ物に緊張するんだ??」


「アル、ド庶民の金銭感覚を考えてみて欲しい…」


貧乏人、しかも私、子供。全財産は、以前セドリックのところで手伝いをしたお駄賃のみ。しかも、市場のちびっ子と仲良くなるために半分以上使ったから、銅貨が数枚しかありませんよ!…言ったら虚しくなってきた。


「ま、食え」


軽いねぇ!アルフレッドさん!


私は今一度、芸術作品のようなタルトに目をやった。


「………。」


今世初のケーキだ。もしかしたら、一生に一度かもしれない。クッ…!でもっ!食べ物だし、見つめていても仕方がないわけで…

ゴクリと唾を飲み込んで、私は震える手でタルトにフォークを入れた。一口ぶんをゆっくり口に運ぶ。


「………。」

甘酸っぱくてクリーミーな味が口の中に広がった。


「美味しい…!!」


知ってる味だよ?知ってる味だけど!でも、私の語彙を瞬殺するくらいの甘味と酸味と多幸感。フォークが止まらない。

気がついたら、お皿のタルトは綺麗になくなっていた。

はうッ…!つい、がっついて味わうの忘れたぁ!


◆◆◆


目の前で、彼女が幸せいっぱいの顔でケーキを食べている。

うん、連れてきてよかった。アルフレッドは、向かいに座る友人――『サイラス』と男の名を名乗る少女を満足げに眺めていた。


彼…いや彼女は、普段はあくまでも『男』として振る舞っている。自分のことを『俺』と言い、男言葉を使い――

アルフレッド相手にも気さくに接してくれはするものの、初めて会った日のように無防備に『彼女』を晒してくれはしない。馴れ馴れしい言動とは真反対に、彼女は警戒心が強くて、何かと理由をつけては森に姿を隠してしまう。それは、アルフレッドに対してだけではなく、村人に対しても、彼女はどこかで一線を引いているように思えた。


秘密――。


やはり、父が言うように『魔の森の児』だからだろうか。でも――


「俺が倒れたら…休んでたら…せっかくのチャンスが潰れるんだ。村を守るために!絶対!約束は果たさなきゃいけないんだっ!!」


一線を引いているのかと思えば、村人のために、倒れるまで必死になっているのも見た。アルフレッドからは想像もつかないたくさんのモノを彼女は一人で抱え、背負っている。


仲良くなりたい。けれど、今のこの『友達』関係では何かが足りない。彼女の背負うモノを少しでも軽くしたい。彼女に頼られたい。

それは、身の程知らずな願いなのだろうか。


「なあ…おまえが心を許すに、俺では足りないのか?」


アルフレッドの独り言は、ケーキに夢中な彼女には届かない――


◆◆◆


また、あの子供が来た。


身なりのよいガキと店に入ったのを見た。油断して出てきたところを狙おう。今日こそあのイヤリングを奪わねば…。あの子供を生きたまま手中に――それが《あの方》の願いなのだから。

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