42:神頼みも度が過ぎると滑稽でしょうね
戦の最前線は、魔法の力が宿る剣を装備した騎士達が守っている――だとか。
女神だけが頼りなのだ――とか。
皆が平和のために頑張っている――とか。
前口上が終わったところで、騎士団長の話はすべて退屈だ。
少なくとも、イルディアはこの手の話もその話し方も好まなかった。
「たいくっつぅー!」
早々に砦を抜けて大きな馬車に乗せられたイルディアは、
傍らにアルストがいなければ、大きな声を上げて暴れ狂っているところだった。
「おやめください」
なのに、アルストがぴしゃりといさめて来たから、
イルディアは、不満いっぱいに頬を膨らませた。
「だって退屈なんだもん。何あの変なヒゲ、鏡とか見たことないのかなっ」
「イルディア様」
「女神女神女神ってさぁ、任せる気満々のクセに自分達で全部決めようとするし!」
「イルディア様」
「僕はやだって言ってるのに、なんでまた馬車なのっ、移送陣が使えないって何!」
不満たらたらのイルディアの愚痴が止まらない。
アルストは、はぁーと深い溜め息をついた。
本来であれば砦と前線を結んでいた移送陣があったはず。
しかし。それが、どうやら敵側の妨害によって使えなくなっているらしい。
移送陣ひとつ守るための対策すら取れない騎士団に苛立ちを覚えたのは、アルストも同じだ。
どいつもこいつも、――そう。騎士団も神官達も大差などない。
自分達ができるのは、せいぜい女神が到着するまで持ち堪えることだと。
そう信じて疑わず、自らで状況を打破しようとはしない。
(……くだらない)
アルストも困難に立ち向かおうとするタイプではない。
だが、全ての解決を他人に委ねることを良しとするタイプでもなかった。
「――サディスト」
「サフィストだよ。なに?」
居心地が悪そうに縮こまって乗っていたサフィストは、
アルストからの呼びかけで、やっと呼吸を許された心地になった。
「前線は今のところ守られている、とか」
「え? あ、あー、それね。そう。魔法の障壁で、何とかね」
頼りない話だと思ったアルストは、眉間の皺を深くした。
それではまるで急ごしらえだ。長期間の防衛を前提としていない。
女神の到着が遅れている以上、前線の騎士達の疲労はピークに達しているに違いない。
アルストが大きな溜め息を漏らすと、最も広く作られた後ろの座席から「なに?」と声が飛んだ。
「どうしたの、アルストー。アルストも退屈? 僕と遊ぶ?」
「遊びません」
「疲れてる? 肩とか揉んであげよっか?」
「お気遣いなく」
アルストは後ろを振り返ることすらなく、ひらひらと手を振った。
そのあまりのぞんざいな扱いにサフィストが苦笑して、
「一応、女神様だよ」
と、耳打ちをしてみせるものの、アルストが態度を改めることはなかった。
「退屈で死んじゃうよ!」
不満たっぷりに騒ぎ立てるイルディアの声を聞きながら、
アルストは外の様子に気を配り始めていた。
いよいよ、戦場が近付いて来る。
神官であるアルストには戦の経験どころか、
都から離れた荒野に出ることも初めての体験だった。
特に大人になってからは、聖都から離れることなどなかったのだ。
こんなところまで来る予定ではなかった。
アルストがまた溜め息をつきかけたとき、
急に馬が声を上げ、馬車が大きく揺らいで止まった。
そして声が届いた。
「貴様、何者だ!」
「道を開けろ!」
護衛としてついている騎士達の声に続き、鎧と剣がぶつかる音が響いた。
交戦――というには、様子がおかしい。
腰に下げた剣に触れたサフィストを制して、アルストは首を振る。
闇雲に飛び出したところで意味がない。
「――邪魔立てするな。雑魚どもが。……トワイライトを差し出せ」
騎士達の声が聞こえなくなり、
明らかに彼らとは異なる声だけが届いた。




