35:女神を独り占めなどと贅沢な
馬車の列が進む道は、広い街道だ。
騎士の馬に囲まれて進む馬車の中で外を眺めて、アルストは肩を竦めた。
これでは、護衛していますと言わんばかりだ。
あまり好ましくない。
魔王率いる敵勢が女神を直接狙うのかどうかは、
アルストの持つ情報の中には存在しなかった。
だが、危惧すべきであることくらい、戦の素人であるアルストでもわかる。
「アルスト? どーしたの?」
柔らかなシルクの寝台で寝転がっていたイルディアが、
思案げにしているアルストに、ゆったりと声を掛けた。
「守るべきものを見誤らないように考えておりました」
「うん? どういうこと?」
「女神は我々を守り、我々は女神を守る――それが教えです」
「うん」
アルストが言葉を放てば、イルディアはゆったりと頷いてみせた。
「……では、我々とは何を示すのでしょうか」
人間全て――であると解釈されている。
そして、神官として学ぶ場合もそのように教えられた。
しかし、アルストにはそうは思えなかった。
女神に対する我々とは、神官か、騎士か、人間全てか。
「あなたには、騎士を守る術があるのでしょうか」
アルストの低い呟きに、イルディアは目を丸くした。
そして、ふふっと笑みを浮かべた。
「サフィストのことが心配なの?」
「いいえ。今は騎士の話をしています」
「素直になっちゃえばいいのにぃー」
ころんと寝返りを打ってうつ伏せになったイルディアは、
両手で頬杖をついて、
「僕は愛を司るんだよ。君の愛する人だって、僕が守ってあげる」
「はあ、では、サディストは死にますね」
「ほんっとに素直じゃないよねぇー」
笑みを深めたイルディアは、こてんと首をかしげた。
「だから、君も僕を愛してよ」
こっちに来て、と。
誘っても、アルストは来ない。
だが、イルディアは諦めもせずに毎夜のように誘う。
「あいにくですが」
その度にアルストは淡々と言うのだ。
「愛の女神を独り占めするわけにはいきませんので」
「けちっ!」




