33:女神がもたらすもの、か
女神の持つ力は、愛の力。
その力を行使することで、女神は人々を守るという。
しかし、守るための力を使うには、まず人々に愛を与える必要がある――
そこまでは、いわば教科書に記載がある程度の知識だった。
(問題は、武器の方だが……)
イルディアは愛の対象によっては、魅了が掛かりにくい場合もあると言っていた。
アルストはそれを思い出しながらも、頭の中で否定した。
(掛からない訳では、ない)
イルディアは、愛の女神――もとい神。
彼女――もとい彼の愛は万物に注がれる。
だからこそ、全ての生きとし生けるものは女神に服従する。
愛は人間の根底に存在する。
どのような形をしているのかは不問。
あらゆる人間の奥底に、愛を求め、愛を欲し、愛したがり、愛されたがり、愛に飢える部分がある。
(愛の名のもとに、女神は人々の全てを
武器として盾として、扱うことができるというわけだ)
アルストは眉を寄せた。
かつてあったとされる戦にも、犠牲者はいたはずだ。
それが誰であったのか、どのような人数だったのか、そんなものは語られない。
残されているのは、愛の女神が戦を勝利に導いた――結果に過ぎない。
愛の女神は勝利の女神なのか。
それとも、屍の山と引き換えに勝利を呼び込む死神か。
溜め息をついたアルストは、女神の呼び声に応じて踵を返した。




