26:強烈なアピールは疲れるだけじゃないですか?
妙に息苦しいと思って目を覚ましたら、自分の上に美少女がいた。
「……」
訂正、美少──、何だお前。
アルストは、自分の上ですやすやと眠るイルディアを見て、盛大に溜め息をついた。
誰かに見られでもしたら、あらぬ誤解は必至。
しかし、イルディアはぐっすりと寝入っている。
(誰だ! 女神に睡眠など必要ないと言ったのは!)
アルストは大声を上げたいところを、ぐっと堪えて溜め息にした。
薄いカーテンの向こうから差し込む朝の光は、まだ薄く頼りない。
身体と寝具の間に潜り込み、胸板を枕にして寝入るイルディアがいつ来たのか。
アルストには、何の覚えもなかった。
(……当然だ)
アルストは、片手で頭を押さえた。
彼にとって"頭が痛い"とは、まさにこのことだった。
何故にイルディアがここにいるのか。
いるにしても、どうして眠っているのか。
眠っているにしても、なぜわざわざここなのか。
もう一度、深々と溜め息をついたアルストは、改めてイルディアを見た。
本当にお手本のようにすやすやと寝入っている。
人の上でいい気なもんだと、アルストはまた溜め息をついた。
薄い朝の光を受ける金の髪が、白肌に触れて緩やかに波打って広がっている。
軽くすくい上げてみれば、掌には柔らかな絹糸のような感触があった。
毛羽立った部分もなく、不自然な折れ曲がりや枝毛もない。
そもそも痛んでいる箇所すら、なさそうだ。
しげしげと髪を検分したアルストは、我に返って天井を仰いだ。
「イルディア様」
アルストはひとまず起こすことにした。
理由があるにしろないにしろ、このままでは落ち着かなかった。
「ん……」
しかし、イルディアは小さな声を漏らしただけだった。
わずかに身じろぎをして、頬をすり寄せ直してからまたすやすやと寝息を立てる。
(だから誰だよ、女神に睡眠は必要ないとか言ったやつは!)
こんなにも熟睡されて、睡眠が必要ないなどとは思えなかった。
アルストは困った。
猛烈に困った。
このままでは、起き上がることもできない。
だが、二度寝をするにはあまりにも状態が際どかった。
「イルディア様」
アルストは、再び声をかけた。
揺り動かすことはしないが、自分の体を揺らして振動を伝えてみる。
「んぅー……や……」
拒絶された。
「……」
アルストは再び天井を見て、そして次に寝台を見て、上掛けの布をめくった。
そして、ゆっくりと身体を斜めにして、イルディアの身体を寝台の中央に落とした。
無事に抜け出すことに成功すれば、アルストはさっさと寝台から降りた。
「──ったく……何を考えているんだか」
落とされたイルディアは、少し動いたものの心地良さそうに枕を抱いて眠っている。
そのまま歩き出しそうになってから踵を返したアルストは、
イルディアの上に布をかけてやってから、部屋を後にした。
早朝だから、だろう。
建物内はシンと静まり返っていて、人の姿は見られない。
アルストは数秒だけ考えて、部屋を出て右に進んでいった。




