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25:いまどき野郎のツンデレなんて流行らないぜ?

 ──奇跡の丘。騎士団の詰め所。中間地点。


 移送陣が設置されている場所は限られている。

 王都に聖都、聖職者の支部、そして女神に関連する場所だ。


 奇跡の丘などとわかりやすい呼び名のついたこの場所は、

 かつては荒廃していた土地だったが、女神が蘇らせた──と文献には記されている。


 女神に関連した場所などとざっくり分類されていて、アルストとしては


(適当だな)


 という印象の記述が教えの書に載っていたことは記憶に新しい。


 移動の中継地として選ばれた丘には、イデア騎士団の詰め所があった。

 イデア騎士団は王都が抱える騎士団のうちでも最高峰の実力者揃い。

 女神の名前が由来となった単語を背負う騎士団には、信仰心が厚い者が多かった。

 

 つまり、二重の意味でちょうど良かったというわけだ。

 詰め所とはいえ清潔で真新しい建物には、"女神の寝所"と呼ばれる格式高い一室まで存在していた。


「──いや、もっとちゃんと説明して欲しいんだけどな?」


 広々とした一室にイルディアを放り込んだあと、アルストは与えられた部屋へと戻っていた。

 靴を脱いでベッドに転がる彼に対して、出っ張った窓枠に座るサフィストは苦笑いを浮かべている。


「あの子が女神だっていうのは、わかったよ」

「そうだろうな」

「だけど、ほら。もっと説明してほしいなー、って」

「護衛であるお前は、女神と付き人を戦地に連れて行く。それ以上の情報などいるのか」

「冷たい……お前、女神様にも冷たいだろ」


 聖都の一室と比較すれば、少し簡素。

 だが、それでも清潔でしっかりと整えられた寝所には違いない。

 イルディアがどのように思っているのかは知らないが、アルストは待遇に問題はないと見なしていた。


「神官がそんなのでいいのか?」

「……説明はいらないんだな?」

「お前ずるいぞっ!」


 アルストはとうとう、就寝しますと言わんばかりに頭を枕に乗せた。

 窓際からサフィストが駆け寄ってきても、お構いなしだ。


「愛の手駒ってのは、どういう意味なんだ?」


 問いを受けながら、アルストは目を閉じた。

 もちろん、眠るつもりなどない。

 空には、まだ満月がいる。


「信仰心のないやつだな。常識だぞ」

「俺は神官じゃないからいいんだよ」


 ベッドに腰を下ろしたサフィストは、目を閉じたアルストをじと目で眺めた。

 もちろん、アルストには見えていない。

 だが、伝わっているだろうと思ってのことだった。


 一分近く沈黙したあとで、アルストは渋々口を開いた。


「女神イルディアは、愛の女神だ」

「いや、それくらい知ってるけど……」

「女神が司る愛の力は、魔法すら上回る。だが、愛は無機物ではない。必ず命が必要となる」

「魔王の戦力が魔物であるように、女神にも俺たちが必要だってことだろ?」

「ああ。愛の力は循環する。女神の愛で強化された者達が戦い傷つけば、女神は愛をもって癒す」

「それって、なんかやらしいよな」

「黙ってろ」


 サフィストの横槍に、アルストはとうとう目を開いて睨み付けた。


 アルストはそもそも信仰心から神官を目指したわけではない。

 だが、根底には真面目さがある。正直者ではないが、真面目人間だ。

 話の腰を折られることは、どうにも許せなかった。


「女神に捧げられる愛が強く、そして多ければ、女神の力もそれらに比例して強くなる。

 我々から女神が受け取った愛の力は、戦う者達を癒し、そして守る力ともなる。

 お前が女神を愛して守れば、女神もまたお前を愛して守り、傷を癒し、強さを与えるというわけだ」


 愛は循環する。

 父と母。親から子に。子がまた伴侶に。あるいは友に。

 愛はついえることなく、必ずどこかで巡り巡るものだという。


 その教えに対してアルストは猜疑的だが、真っ向から否定するわけでもない。


「それなら負けないはずだな。愛の騎士ってわけだ。いいね、女神のナイト様ってか」

「お前は何も考えてないな」


 笑うサフィストに向かい、アルストは眉間の皺を深くした。


 手駒。

 アルストからすれば、手駒と呼ぶにふさわしかった。


(……戦に犠牲はつきものだ)


 いくら女神がついているとはいえ、全く犠牲を払わずに済むとは思えない。

 それは、この幼馴染についても同じだ。

 いつどこで、どのように、どうなるのか。わかったものではなかった。


「……サディスト」

「サフィストだよ」

「お前は付き人を守っていればいい」

「え、お前最悪じゃん……」


 呆れた様子のサフィストから視線を外したアルストは、また目を閉じた。


 付き人は女神から離れない。

 その付き人を守るということは、同じく女神から離れないということだ。


 恐らくは、それが最も安全だろう。アルストはそう考えた。

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