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7.前世、私を殺した男が溺愛してくる(6)

    ◇ ◇ ◇



 気が付くと、見慣れた天蓋が見えた。シンプルな木製の枠に白い薄衣がかけられたこのベッドは、シャルロットが毎日眠っているものだ。


「シャルロット! 気付いたか」


 慌てたような声が聞こえて視線を横に投げると、なぜかベッドの脇にある椅子にはエディロンが座っていた。


「あれ? わたくし……」


(どうしてベッドに寝ているのかしら? なんで、エディロン様がここに?)


 よくわからず額に手を当てて考え、城下で暴れ牛に襲われそうになった記憶が甦る。最後、絶体絶命になったところをエディロンが助けてくれたのではなかっただろうか?


「医師に診させたところ、大きな怪我はないそうだ。驚いて一時的に気を失っただけで、擦り傷も一週間もあれば綺麗になるだろうと」


 エディロンはシャルロットの手を取ると、その甲にキスを落とす。


「子供達はもちろん、全員無事だ。牛は俺が殺してしまったから、持ち主には新しい牛を代わりに渡す手配をした。もちろん、今度同じように牛でトラブルを起こしたら牛を飼うことは許さないとお灸を据えておいた」

「…………」


 エディロンの説明を聞きながら、シャルロットは暫し考える。そして、段々状況が理解できてきて顔を青くした。


(……うそっ! もしかして、全部夢じゃなかった!?)


 あんな都合のよいタイミングでエディロンが現れるわけがないと思っていたので、完全に夢だと思っていた。


(ど、どうしましょう……)


 意識を失う直前、好きですと言ってしまった気がする。


 あの部分は夢?

 できれば夢であってほしい。


「ご迷惑をおかけしました」

「いや。間に合ってよかった。あと少し遅かったらと思うと、ぞっとする」

「一歩間違えば、陛下が危険でした。大怪我したかもしれないのに」

「俺は、あなたのほうが大切だ」

「……っ!」


 エディロンがシャルロットの存在を確かめるように、握っていた手を自分の頬に当てる。胸がまたぎゅっと苦しくなる。


「シャルロット」


 エディロンがこちらを見つめる。

 まっすぐに見つめられ、シャルロットはどきっとした。エディロンが何か、とても大事なことを言おうとしていると感じたのだ。


「もう一度言う。俺の妃になってほしい」


 真摯な瞳に射貫かれ、胸をぎゅっと掴まれるような感覚。シャルロットはエディロンに握られていない側の手を自分の胸に当てる。


「……む、無理です」


 シャルロットはふるふると首を左右に振る。

 シャルロットは結婚すると、その日に死ぬ。どう頑張っても、エディロンの妃にはなれない。なれたとしても、結婚式の日が終るまでの数時間だけだ。


 それを聞いたエディロンはぐっと眉間に皺を寄せた。

 片手を包む大きな手に、力が籠る。


「なぜだ。俺達の結婚は国と国が決めたことだから障碍はない。俺はあなたを愛している。それに、シャルロットも俺が好きだと言っていた」


(ゆ、夢じゃなかった!)


 どうか好きですと告白した部分だけでも夢であってほしいと思っていたけれど、ばっちりと聞かれていたようだ。


 ──愛している。


 そう言われて喜びで胸が震えるのに、同時にどうしようもない絶望感が襲ってくる。


「でも、無理なのです」


 シャルロットはもう一度同じ言葉を告げる。


「それでは納得できない。何が理由で無理なんだ? それがわからない限り、俺はあなたを諦めきれない」

「それは……」


 シャルロットは口ごもる。


「以前も言っただろう。あなたが抱える秘密ごと、俺が愛してやる」


 ──あなたが抱える秘密ごと。


 確かにエディロンは以前、そう言った。その意味はまだ聞けていないけれど。


(やっぱり、エディロン様はわたくしのループの秘密を知っていらっしゃるの?)


 どうすればいいのかと頭が混乱してきて、シャルロットは自分にかかっている布団のシーツを所在なく見つめる。

 エディロンの求婚に頷きたいと思う自分がいる一方、一度目の人生の絶望感を思い出してしまい、もう二度とあんな目に遭いたくないという自己防衛の気持ちが湧き起こるのだ。


 でも本当は、叶うことなら──。


「シャルロット。俺を見ろ」


 ハッとして顔を上げてから、顔を上げたことを後悔した。

 エディロンの金色の瞳は、シャルロットにとって不思議な魅力がある。一度目が合うと囚われてしまい、目が離せない。


「わ、わたくし……」


 つうっと目から涙がこぼれ落ちる。


「わたくしには陛下の妃になれないわけがあります」


 エディロンはシャルロットの頬に触れると、その涙を指で拭った。


「…………。それは、あなたが本当はシャルロット王女ではないからか?」

「……はい?」


 空耳だろうか。

 シャルロットが本当はシャルロット王女ではない?

 予想外のエディロンの言葉に、シャルロットは思わず目をまん丸にする。


「違うのか?」


 エディロンはシャルロットの反応に、どうやら間違っていると気づいたようで今度は困惑した様子だ。


「違います。わたくしは間違いなく、エリス国第一王女のシャルロット=オードランです」

「…………」

「…………」


 ふたりを沈黙が包む。


(え? どういうこと?)


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