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4.六度目の人生を謳歌します(6)


 綺麗に剥かれたスナーシャを皿に載せてエディロンの前に置くと、エディロンはじっとそれを見つめる。


「お召しにならないのですか?」

「…………」

「あっ。もしかして、毒見が必要ですか?」


 エディロンは、国王だ。毒を盛られることを恐れているのではないかと思ったシャルロットは、そのお皿からひとつを摘み上げると、自分の口に入れる。ジュワッと甘い果汁が染み出る。


「うーん、美味しい」


 懐かしい味がした。二度目の人生では、ラフィエ国に滞在中に幾度なくこれを食べたものだ。


「さあさあ、陛下もどうぞ」

「そういうことではなかったのだが……」


 なぜか呆れたようにこちらを見るエディロンの様子に、シャルロットは首を傾げる。エディロンはカットしてあるスナーシャをフォークで取ると、じっとそれを見つめる。そして、おもむろに口に入れた。


「……美味いな」

「でしょう! 絶対に陛下は好きだと思いました」

「なぜそう思ったんだ?」

「なんとなくです」


 本当は、前世の記憶でこういう瑞々しいフルーツが好きであることを知っていたからだけれどそれを言う必要はない。シャルロットはエディロンの問いかけに、適当に答える。


「エリス国ではこれが日常的に出てくるのか?」

「いいえ。スナーシャはラフィエ国の名産品です。内陸のからっとして日中と夜の寒暖差が大きい気候でないと、美味しく育たないのです。ダナース国との国境付近でも一部地域で栽培しているそうですよ。これは、それを仕入れたらしいです」


 シャルロットはすらすらと答えると、また一口スナーシャを囓る。

 口の中にじゅわっと甘い果汁が広がった。




 一方のエディロンは会話しながらもじっとシャルロットを観察していた。


 セザールが先ほど持ってきた報告書に書かれたシャルロット=オードランは引きこもりがちで性格は内気。いつも俯き顔を隠し、ボソボソと聞き取るのが困難なしゃべり方をする女性だ。


 しかし、目の前のシャルロットは毎日のように外出するほど活動的で、はきはきとしていて快活だ。どう見ても内向的とは言い難い。

 それに、エリス国では見かけることがないというスナーシャというフルーツについて詳しいことも不思議だったし、ナイフを器用に使えるのも違和感があった。王女として育ってきたのならば、普通は使えなさそうなものだ。


「ところで、陛下はなぜここに?」


 正面に座るシャルロットが不思議そうにこちらを見つめる。


「愛らしい婚約者に会いに来たと言ったら喜んでくれるかな?」

「そんな嘘はいりません。本当の理由を仰ってください」


 シャルロットはムッとしたように口を尖らせる。

 陰気で俯きがちどころか、とても表情豊かだ。


「つれないな」


 エディロンはフッと笑う。


「本題はこれだ」


 ポケットから一枚の書類を出すと、それを見た瞬間シャルロットの表情が変わった。


「これ……建国二十周年の記念祝賀パーティーですね?」

「そうだ。よくわかったな?」


 エディロンが持ってきた書類には、社交パーティーが行われる旨と日付しか書かれていなかった。


「ダナース国は社交パーティーを開く文化があまりありません。今の時期に王宮主催のパーティーを開くとしたら、それしか考えられません」


(なかなか鋭い洞察力だな)


 エディロンは内心で舌を巻く。一方のシャルロットは、何かを考え込むように口元に手を当てたままじっと動きを止めている。形のよい眉が少し寄っている。


「これに、俺の婚約者として参加してもらう。いいな?」

「もちろんです。そういうお約束ですから」


 シャルロットは真剣な表情で頷く。

 その後も、何かを言いよどむような仕草をしていたが、何かを決心したのかまっすぐにエディロンを見つめてきた。


「陛下。お願いがあります」

「お願い?」

「今度のパーティーのおもてなしについて、わたくしにお任せいただけませんか?」


 シャルロットは胸に片手を当てると、はっきりとそう言った。


「なんだと?」


 エディロンは驚いて目を見開く。


 シャルロットは少し緊張しているのか、その面持ちは固い。

 しかし、こちらをまっすぐに見つめる瞳は真剣そのものだった。

 


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