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4.六度目の人生を謳歌します(3)


「お嬢様、よくご存じですね。今の時期は特に甘くて美味しいですよ」


 シャルロットとケイシーの視線に気付いた八百屋の店主が声をかけてくる。


「スナーシャをどこかで栽培しているの?」

「ラフィエ国から輸入したものを最近取り扱うようになったんですよ。道路が整備された上に関所で足止めされることがなくなって、運ぶ日数がかからなくなったから」


 店主は陽気に笑う。


「よかったらどうだい?」

「いただこうかしら」


 シャルロットはつられるように相好を崩す。

 城下に来てまず最初に、シャルロットは貴族御用達の高級ブティックに立ち寄り刺繍の品々を売ってきた。今は少しだけ自由に使えるお金がある。

 結局、シャルロットはふたつのスナーシャの実を購入した。


 その後も歩きながら店を眺めていると、珍しいものが色々と売られていることに気付く。


(これは、勢いもあるはずよね)


 ダナース国は野蛮な平民が作った張りぼての新興国家だが、経済的な勢いがあり軍事力も強いので無視できない存在。

 それがダナース国の周辺国からの評価であり、だからこそエリス国王もダナース国から政略結婚の打診があった際に断ることは難しいと判断した。


(野蛮・張りぼてというのは同意しかねるけど、経済的な勢いがあるのは間違いないわ)


 過去何カ国か訪問したシャルロットからしても、ここは町全体が活気づいているのを感じる。

 シャルロットは大通りを眺める。行き交う多くの人々の表情は生き生きとしていた。


(きっと、陛下は為政者としては有能なのね)


 かつて愛した男であり、自分を殺した男でもあるエディロン。思い返せば、シャルロットはエディロン自身のことをほとんど何も知らないことに気付く。


 ──為政者として優秀。


 だからこそ、彼は政略結婚で最も多くの恩恵が得られる相手──エリス国に王女を娶ることを打診した。


(じゃあ、あのときわたくしを殺したのにも意味があったのかしら?)


 シャルロットはなぜ彼が一度目の人生で自分を殺したのかもう一度考えてみる。

 けれど、どんなに考えてもやっぱりわからなかった。



    ◇ ◇ ◇



 執務室で書類を眺めていたエディロンは、思わぬ情報に顔を上げた。


「なんだと? シャルロットが?」

「はい。我が国に来て以降、頻繁に城下に抜け出しています」


 今さっき情報を持ってきたセザールが頷く。それは、シャルロットが頻繁に城を抜け出しているというものだ。


「一体どこに?」

「御者の話では、いつも行き先はグランバザール通りだと」

「あそこか」


 グランバザール通りは、ダナース国の王都でも最も栄えている場所のひとつだ。貴族向けの高級ブティックが軒を連ねている。おおかた、ドレスやアクセサリーでも見に行ったのだろうと思った。


 シャルロットに対して、エディロンは特に行動の制限をしていない。

 ダナース国の国民はレスカンテ国時代、長きにわたり当時の政権により不当な弾圧を受けていた。そのためダナース国では国民の自由の保障には特に力を入れており、それはエディロンの婚約者であるシャルロットに対しても言えることだからだ。


 だが、頻繁と聞いて別のことが気になった──。


「彼女には、俺が言ったとおりの予算を?」

「もちろん。それ以上でも、それ以下でもありません」

「そんなにしょっちゅう買い物していて、足りるのか? ツケは払わないぞ」


 エリス国の王女を迎えるにあたり、エディロンは彼女の生活のために必要な額を予算としてしっかり確保した。王妃として生活するには交際費などそれなりの額が必要になるだろうと判断してのことだ。


 しかし、それはあくまでも『必要な額』であり、『湯水のように使える額』ではない。そんなことをすれば国民の血税を私的な贅沢に使ったレスカンテ国の王族達と同じになってしまう。


 シャルロットが国税を使って必要以上の贅沢をするなどのおかしな行動をすれば、エディロンはもちろん、現政権への不満に繋がる可能性があるのだ。


「今のところ、財務省からツケ払いの連絡はないですね」


 眉根を寄せるエディロンに対し、セザールは肩を竦めて見せる。


「それと、シャルロット様について調べていた件の情報がまとまりました」


 セザールは持っていた書類をエディロンに見せるように持ち上げる。 


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