22、ダチの友情を利用しようとする奴は、モテない男の風上にもおけねぇぞ!
……ふぁ~あ、こんなに天気のいい日は昼寝がしてぇなぁ。翔矢は授業合間の休み時間に大きな欠伸をしながら椅子を立った。
二時間目は科学だ。教科書の準備をしながら、昨日のことをぼんやりと思い出す。純と音和に連れて行かれた店で携帯が二度目の音を鳴らしたのは、翔矢が食後のデザートを楽しんでいた時だった。
音和は険しい顔で携帯画面を確認すると、翔矢達に食べたら帰れと言い残して、店を飛び出して行った。あの女の場合は休日出勤になるんじゃね? 翔矢はなけなしの同情を向けて、言われた通りにデザートまで完食してから、美琴を伴って店を後にした。
小癪なことに純が飯代を多めに金を置いていってたらしく、翔矢達は支払いに困ることはなかった。しかし自宅まで距離があるために、足のない二人はタクシーを呼んで自力で帰宅することになったのである。もちろんタクシー代は今度会った時に純へと請求するつもりだ。あのナンパ野郎に必ず払わせてやるぜ!
細やかな仕返しを企みながら廊下に出ると、熱視線が背中に突き刺さってくる。二つの足音が忙しなく追いかけてきているのだ。こっちにも面倒事が転がってやがるな。朝からスルーしていたが、いい加減我慢したくねぇ。仕方なく振り返れば、好奇心に輝いた目とじっとりした目が翔矢を待ち構えていた。
「朝からなんだよ? 言いたいことがあるならはっきり言えや!」
「なんだって、ねぇ?」
「そうだよ、なぁ?」
「とぼけた顔を見合わせるな。腹立つわ!」
「じゃあ、聞かせてもらうけど、昨日のあれはなんだったわけ?」
「さぁ吐け、翔矢。あの後二人とどこに行ったんだ!?」
「そうそう。そこのとこを詳しく」
タイミングを計っていたのか、朝からそわそわしていた和希と広香が鼻息荒く纏わりついてくる。一気にうっとうしくなりやがった! 背中にのしかかってくる和希を払い落としながら答えてやる。
「一緒に飯を食っただけだ。美琴が先に連行されてたからな、そんな状態でオレに拒否権なんかねぇだろ?」
適当に答えていると、周囲の女子から向けられる視線が強くなった。昨日、あの場にいた女子が聞き耳を立てていたのだろう。なんでオレがハイエナから狙われなきゃならねぇんだ!? お前らイケメンが大好きなのかよ。
だからと言ってうちの親がまさかヒーローやってて、人類の敵ってのが存在して、そいつらと戦ってんだわ。ネット世界で! なんてことを言うつもりはない。そんなことを信じる人間はいねぇだろ。オレでもまず先に相手の頭を疑うぜ。もし、あっさり信じる奴がいたら、そいつはよほどのアホか、人並外れた究極のお人好しくらいのものだろう。
廊下を挟んですぐ傍にある階段を下り始めると、追いかけてきた二人が両脇に並ぶ。
「じゃあさ、あの二人とどんな関係なんだ? 学校も違うし学年も違うだろ。普通に知り合う機会なんてないよな?」
「今度親父の会社でバイトすることになったんだよ。で、あいつ等はそのバイト先の先輩。オレだってこの間会ったばっかりだぜ。向こうは親父を知ってるからオレと美琴に興味があるってだけだろ。……あっ、飯は美味かったわ」
「飯の味なんてどうでもいいんだよ! 理由はなんであれ、あんな美人に誘われるなんて最高だろ! 羨まし過ぎて殺意が湧く!」
「あ~もう面倒くせぇ。どんだけ女に飢えてんだ、お前?」
「羨ま死ぬくらいだ!!」
「止めとけ。あの女は男を足蹴にするほどプライド高けぇし、どう考えても猛獣だぞ?」
「女王様タイプなんだなっ? 最っ高じゃん! 美人になら踏まれてもイイ!!」
「キモッ。ちょっとこっち近づかないでくれる?」
鼻の穴を膨らませて両肩を掴んで翔矢を揺さぶる和希を見て、広香がドン引きして後ずさる。しっかし、こいつこんなに女好きだったか? ……いや、違うな。派手な美人を見てのぼせあがってるだけだ、たぶん。だがしかし、許せんことが一つある!
「ダチを利用しようたぁ、なにごとだ! このボケ!」
「いってぇっ!?」
後頭部を景気よく手で張り飛ばす。ちったぁ、正気になったかよ? 両手で頭を抱えてうずくまる 和希を見下ろす。
「いい度胸だなぁ、和希? オレの友情を利用しようたぁ、モテねぇ男の風上にも置けんやつだ! だいたいな、あの女は世間から見れば美人で魅力的なんだろ? だったら彼氏とか普通にいるんじゃね? 妄想するのは勝手だけどよ、自分のものに出来るわけじゃねぇんだから、ギャーギャー騒ぐなよ」
「止めろよぉ、オレの心を折ろうとするな! せめて出会わせてくれてもいいだろ!?」
「あ? オレにあの女を紹介しろっていうんか? ふざけんなよ」
「なにとぞお願いします、翔矢様!」
「しねぇ。つーか、頼むにも態度ってもんがあるよなぁ? 言う言葉も違うぜぇ? ほれ『翔矢様、ダチを利用したゲスなわたくしにお慈悲をください』と土下座をセットで頼むべきだろ?」
「笑顔が邪悪過ぎる! お前はどこの魔王様だよ!?」
「それよりさ、今日の放課後久しぶりにゲームセンター行かない? そこでアイス食べるのもありでしょ」
「追い打ちぃ!? だから、オレは金欠だって」
「自販のアイスならそんな高くないじゃん。それともコンビニで高いの頼んじゃう? 私達はその方が嬉しいけど。ねっ、翔矢」
「いい考えだな。採用!」
行きつけのゲームセンターは対戦ゲームならお金をかけずに遊べるのが魅力だ。貴士の破産しかけの財布でもそんなに痛くはないだろう。その分はアイスに使わせてやろうではないか。
ふははは、あはははと黒い笑い声を出す翔矢と広香に、和希が青い顔で九十度のお辞儀を披露した。
「ご勘弁ください! オレの財布はもう瀕死です!」
「じゃ、そういうことで」
「いや、どういうことなの!? ごめんって、本当に金がねぇんだって!」
「わかったわかった。安いのね。心の広い友達でよかったじゃん? じゃ、いつものあれで、対戦しよう。今度こそ翔矢に勝ってやるんだから!」
広香が拳を握って気合を入れている。いつもとあるゲームだけは翔矢の一人勝ちをしているので、その意気込みは十分だ。
「勝てるといいなぁ?」
翔矢はにやっと返して、理科準備室のドアを開けた。




