第3章-28 抜け出したVIPたち
第三章
二十八 抜け出したVIPたち
「迷子って……じゃあ、ここで待っていても来ないって事だよな?」
「そうだね。迷子だからね」
衝撃のあまり、ついつい当たり前のことを問いかけて、当たり前の答えを貰ってしまう。
一応、ピエトロを動揺させないように、敢えてアメジスト語で話を続ける。
直ぐに遊んでくれ無さそうだと察したピエトロは一人で砂を掘り始めている。
何か、一人で遊ぶのが慣れている感じだな。
とにかく、少し離れたところで遊びに集中してくれているので、ルーカの方へ向き直る。
「交番ってあるのかな?」
「交番?」
ああ、この世界だと交番では通じないのか。
この世界で言うところだと……
「えっとー、衛兵とかに迷子を預かって貰えるのかな?」
「衛兵か、どうだろう? 比較的大きな村だし、衛兵はある程度居るだろうけどね。あまり迷子の世話をするイメージは無いけど……。多分、村の子供だったら、事情を話せば引き受けて貰えるんじゃないかな?」
「ああ、村の子供では無さそうだもんな」
「と言うか、ヴィオちゃんも分かってると思うけど、この子、どう見ても帝国人だしね。……出かけに見た両親の様子からして、駆け出しの商人って所だろうね。わざわざ国外旅行をする富裕層には見えなかったし」
確かに、ちょっとしか見てないけど、若い両親で別に高そうな服は着てなかった気がする。
商人と言うほどの大きい荷物は抱えていたかなぁ?
一瞬だからそこまでは覚えてないや。
それにしても、今、ルーカがビックリすることをサラッと言わなかったか?
「え? 国外の子供だから預かって貰えないの?」
オレの質問に、ルーカが言葉を選んだ様子で説明を始める。
「う~ん、と言うかね、基本的に帝国を含め国外の者が商売を許可されているのは国境の山道麓の街だけなの。大きな商会とかで特別な許可を貰っていれば、話は変わってくるけど、そういう感じでは無いだろうね」
「つまり、無許可でこの村まで来てしまっている可能性が高いから、迂闊に衛兵には預けられないって事?」
アメジスト王国の厳しい面を知らないであろうお姫様に、多分気を遣ってくれたルーカはオレの直球の質問に驚いた表情を向けてきた。
オレ自身は、異世界の男子高校生だし、いくら平和な国出身とは言え、国境がある以上、色んなルールがあることは、少しは分かっているつもりだ。
「そうだね。しかも、この子がアメジスト語を全く理解していないところからして、両親もそこまで話せないんじゃないかな? あっちも探すのに手こずっているのかも」
「そんな……。とにかく、衛兵に預けるのが難しいとしても、迷子の問い合わせくらい来てないか、聞くだけ聞いた方が良いと思う!」
空の赤さが徐々に広がってきている。
いくらある程度賑やかな村とは言え、そもそもこの世界の夜は元の世界に比べて凄く暗い。
暗くなったら人捜しの難易度は嫌でも上がってしまうだろう。
その前に出来ることをやっておかないと。
「じゃあ、少し商店街の方に戻る事になるけど、行ってみよう。……ピエトロ、そろそろ出発するよ。お父さんとお母さんの所へ行こう」
最後の声かけの部分だけ帝国語に切り替えて、ルーカが砂場で遊んでいるピエトロに声をかける。
「ヤダ、マダ遊ビタイ!」
「全く、ワガママ言ってる場合じゃないよ」
急いだ方が良さそうなこともあり、ルーカがピエトロの側に寄って目を合わせる。
だけど、ピエトロは下を向き、視線を逸らせてしまう。
「ダッテ、ズット遊ビタカッタ」
「ピエトロ……」
泣きそうな声だったので、思わず側に駆け寄ろうとすると、ルーカに掌で制止される。
本人に喋らせろって事なのかな?
少し待つと、ピエトロはちょっとだけ声を落ち着けて、ゆっくり話し始めた。
「パパト ママハ イツモ忙シクテ、遊ンデクレナカッタ。ヤット一緒ニ出カケタラ、何言ッテルカ分カラナイ場所……」
そっか、小さい子供相手だから細かいことを説明せずに国境を渡ってしまったのか。
確かに、ある日突然言葉の通じない場所に来たら混乱するよな。
それに、子供なんだからたくさん遊びたいよな。
だけど、オレが声を上げる前にルーカが口を開いた。
「分かった。それじゃあ、あと一回だけ小山から滑ろう。僕が一緒に滑るからさ、そしたらお家の人の所に行くよ」
「ウン!」
ルーカの提案にピエトロが元気よく返事をする。
小山に歩き出すルーカの袖をそっと引っ張る。
「ルーカ、良いの?」
思わずアメジスト語でルーカに問いかけてしまう。
「どうして?」
「いや、子供が苦手なのかなぁ……って」
気付いていたのか……と、気まずそうに微笑まれる。
そりゃあ、今まで全然遊びに参加しなかったしね。
ノリの良いルーカにしては珍しいと思ってしまうよ。
「あー、まぁ、得意ではないけど」
「私が滑るよ。子供と遊ぶの好きだし」
正直、久しぶりに遊ぶのは普通に楽しい。
城の庭に色々作ったら、幼い弟妹達も喜んでくれるんじゃないかな?
「いや、いいよ」
「でも……」
わざわざ子供が苦手なルーカがやらなくても良いのに……と言葉を続けようとしたが、ルーカがオレの唇にそっと人差し指を当てる。
「スカート、気をつけてはくれたんだろうけど、結構危うかったよ。ちょっと風も出てきたし、夕方になると酒の入った輩も増えるからさ、僕に任せて。それに、大きい人間と滑った方がスピードも出るし、満足できるでしょ」
「オ兄チャン、早ク早ク!」
「ああ、今行くよ!」
確かに小柄なオレと滑るより、細身とは言え高身長だし、しっかり身体も鍛えて体幹もしっかりしているルーカと滑った方が遙かにスピードが出てピエトロも満足そうに笑い声を上げた。
◆ ◆ ◆
「あれ? 一人しか居ないのか?」
「ん? 可愛いお嬢ちゃん何か用かい?」
衛兵の駐屯所は市場から商店街に戻り、少し歩いたところにあった。
中規模な交番ほどの大きさだというのに、意外なことに中に居たのは若い衛兵一人だけだった。
「あのー、迷子の問い合わせって来ていますか?」
「迷子? ああ、その子供? どうだろうな? 今日は何でも凄いVIPが村に来たとかで、衛兵も殆どそっちに出払っているからな。あまり細かいことには手が回っていないんだ」
「そっ……そうなんですか」
それって、もしかしなくてもオレのことだよな。
ルーカと気まずそうに目を合わせる。
ルーカだってロッソの護衛とは言え、帝国からの客人だ。
しかも、帝国第一騎士団副長な訳だし、VIPの一人だろうな。
後は、第二王子ベージュもVIPだと考えると、VIP四人中二人はここに居るわけか。
ちょっと申し訳ない気持ちになるな。
なんて、ほんの少しだけ反省していると、衛兵はジロジロとオレと手を繋いでいるピエトロを眺め始めた。
「あれ? この辺の子供じゃ無いな」
「ネェ、オ姉チャン、コノ人 何?」
不躾な視線にまだ幼いピエトロは怯えたようにオレの太ももを掴む。
ピエトロの帝国語に衛兵は少し驚いた様子で頭を掻く。
「あれ? しかも、国外の子供? だったら、ここじゃ無くて教会に行った方が良いかもな」
「どういう事ですか?」
急に教会なんて言われたので、聞き返すと、衛兵は面倒くさそうに更に頭を掻く。
「市場ではたまに居るんだよ、捨て子」
「捨て子?」
「流石に国外の子供は珍しいけどな。そういう子供達は教会に行くことに……」
「ヴィオちゃん、行くよ。これ以上ここにいてもしょうがない。親を探すよ」
衛兵の話を最後まで聞かずにオレとピエトロの手を引いて駐屯所を後にする。
「お嬢ちゃん、それより俺、あと少しで仕事終わるんだけど、この後食事でも……ひぇ!」
何か後ろから衛兵の声が聞こえたけど、ルーカがそちらを一瞬振り替えると、怯えたような声を上げてしまった。
「でも、捨て子って……」
そっか、この世界ではそういう事があるんだな。
オレの居た世界だってニュースとかでは聞いたことはあるけど、あまり身近では耳にしたことは無かった。
「子供を捨てる親はああいう表情で子供に話しかけないよ」
駐屯所から出て少ししたところで、相変わらず歩きながらルーカがポツリと呟いた。
それって、出かけの時の様子だよな。
確かに、優しそうなお父さんとお母さんだったと思う。
ちょっと見ただけだけどさ。
でも、どうしてルーカはそんなに確信を持って言えるんだよ?
気になるんだけど、オレとピエトロの手を引いてズンズンと市場に戻るルーカの後ろ姿を見て、何だかどんな声をかけたら良いのか分からなくなってしまった。




