第3章-25 知ってるんだから、子供扱いするな!
第三章
二十五 知ってるんだから、子供扱いするな!
「ぎゃー! ルーカ! 近いってば!」
大きな木に背中を押しつけられ、ルーカの綺麗すぎる翡翠色の瞳に自分の慌てふためいた顔がよく映る。
「もぅ、可愛い声なのに、よくそこまで色気のなさを表現できるね」
呆れたように吐かれたため息が、唇にかかる。
「よっ余計なお世話だよ」
「う~ん、喋られると雰囲気出ないし、塞いじゃおっかなぁ」
って、ごくごく自然に指先で顎を掴まれてるんだけど……。
あまりのことに身体が全然動かない――
「ママー! アノ人達、何シテルノ?」
「「!!」」
――唇が触れそうになる寸前、突如背後から子供の声がした。
振り向くと、親子連れが困ったような顔でこちらを見ていた。
「シッ、見チャイケマセン」
「ホラ、先ヲ急グゾ」
元々この身体の持ち主であるお姫様が語学の知識があったので、何を言っているかは分かるが、これはアメジスト王国公用語では無い。
隣の帝国語だ。
しかも、かなり訛っているから、帝国の中でも比較的地方からの商人か旅人だろう。
若い両親に、小さい男の子……五歳くらいかな?
両親の方と目が合ったら、慌てて市場の方へ早足で行ってしまった。
「イチャイチャするには目立ちすぎる場所だったね」
若干、気まずそうにルーカが身体を離す。
「同感です」
「どっか暗がりに行こうか?」
「どうしてそうなるんだよ!? オレは買い食いとかしたいの!」
「全く。本当に色気が無いねぇ」
困ったように腰に手を当てる姿も、雑誌の表紙のようで腹立たしい。
「本当に余計なお世話だよ。大体、ルーカはどうしてオレ……じゃない、私にこんな風にちょっかい出すの?」
「ん? 可愛いからだけど」
「いやいや、確かに顔は可愛いけどね」
「うわっ、自分で言っちゃう?」
「だから顔はって言ってんじゃん」
このお姫様に負けず劣らず整った顔立ちのルーカにだから、こう言っても差し支えないだろう。
「それも自分で言っちゃうんだね。でもさ、顔だけでも充分すぎるくらい可愛いけど?」
「けど、ルーカって別に私に興味ないでしょ?」
「どうしてそう思うの?」
そう問い返されて、一瞬言葉が詰まる。
顎に手を当てて、考えながらしどろもどろ答える。
「上手く言えないんだけど……全部ロッソの為って感じがするの……かな?」
自分で言っていてもよく分からないんだけど。
何だろうな?
「ふふっ、子供なのに聡すぎると要らない苦労をしちゃうよ」
よく分からない答えだったのに、ルーカは困ったように微笑む。
「子供って言うな!」
「だから恋人って設定で行くって言ってるでしょ? ほら、行くよ」
「分かったよ!」
差し出された手を掴み、やっと市場へと向かう。
◆ ◆ ◆
村と言ってもかなり道路は整備されているし、市場へ向かう前に通る商店街はカフェやお洒落なお店もあり街と言っても差し支えないくらいだ。
「途中で立ち寄った村とは全然違うね」
オレ自身がゆっくり見ることが出来たのは、橋を一緒に直したタシャとトマスの村だけだけど、他の幾つかの村も馬車の中から様子を窺っていた。
どの村もこのノルド村よりかなり貧しく見えた。
「そうだね。流石に国境に当たる山道麓の街に比べれば小さいけど、アメジスト王国北部では二番目に栄えている場所だろうね」
そりゃあ、山道麓の街は北の森で覆われているアメジスト王国北部の中で唯一国外へと通じる山道があるんだから、栄えるだろう。
だって、ここに居る帝国騎士であるルーカやロッソ達を始め、国外から来る人たちは基本的にそこを通るしか無いんだから。
じゃあ、国境にある山道麓の街の次はこのノルド村を通るのか?
――答えはNOだ。
だって、山道麓の街はアメジスト王国の北西にある街だ。
そこから、北部中央にあるこのノルド村まで東に進んで、そこから南下して王都へと皆が移動するなら、途中の村だってもっと栄えて良い筈だ。
そう、王都から出発して大きな街に着いたとき、北へ向かう道は田舎道、対して西へ向かう道はしっかり舗装されていた。
つまり、国境を渡ってきた人たちは、基本的に西部回りで王都にやってくるのだ。
じゃあ、何でここまで立派な村なんだろう?
思い当たるのは……
「第四王妃様の故郷だから?」
「おっ、中々良い目の付け所だね。第四王妃様は養子に入って貴族の令嬢って事になっているけど、この村出身なのは有名だからね。それなりにリターンはあるわけよ」
「ルーカ、帝国の人なのに詳しいな」
「そりゃあ、何も調べないで他の国に長期滞在できないでしょ?」
「そうかも知れないけどさ。っつーか、他にも理由有ったりする?」
「おや、良い勘してるね」
やっぱり。
中々良い目の付け所だね……とは言っていたけど、ハッキリ正解とは言われてないからな。
「でも、何だろうな?」
全く思いつかないな。
困った。
「答え知りたい?」
「待って、自分で考えるから!」
これでも、中学までは優等生だったんだし、直ぐに答えは聞くまい。
「そう? まぁ、思いついたら教えてよ。あっ、市場に着いたよ。結構賑わっているね」
「わぁ! すっげー! 祭りみたい!」
割と上品な雰囲気だった商店街を抜けると、広場に出た。
そこには所狭しと屋台が並んでいた。
串焼き屋や、麺類など、ご飯系のお店から、飴などデザート系、他にも衣服や食器、雑貨まで目に入っただけでも多岐にわたる。
身体はお姫様になってしまったが、心は男子高校生!
まずは肉からでしょ!
手を繋いでのんびり歩いている場合じゃない。
ルーカの手を放し、足早に串焼き屋に向かう。
「ちょっと、ヴィオちゃん!」
「直ぐ買ってくるから、ルーカは座ってて!」
広場の南側には公園が有り、石で作られた囲いをベンチ代わりに多くの人が腰掛けて食べたり、語り合ったりしている。
人混みをかき分けて串焼き屋に着くと、店先には手書きのメニューが並んでいる。
正直、料理名はよく分からないので、オススメを二本注文。
だって、ルーカは付き合いで付いてきてくれている訳だし、これ位はお礼しないとね。
うん、オレってば気が利くじゃないか。
「ほら、二本で120イェンだよ」
髭面の店主が手際よく肉を焼いて差し出してくる。
「え? 120円?」
「ああ、120イェン」
イェンって言うのは、この国のお金の単位なのか。
発音は元々の世界のものに近いけど……転生して大分経つのに、初めて知ったなぁ。
ん?
初めてって……そうだ!
オレ、金持ってなじゃん!
「お嬢ちゃん、ほら、次の客も待ってるから早くしてくれよ!」
「あっ……あの……」
「120イェンね、はい」
手持ちが無いと謝ろうとしたら、後ろから声が聞こえた。
「ルーカ!?」
振り向くと、座って待っていてとお願いしたルーカが手を伸ばし、店主に硬貨を支払っていた。
「ヴィオちゃん、買い物にはお金が要るんだよ?」
「それくらい知って……」
くそぅ!
知ってるんだけど、忘れてたんだよ!
城でも道中でもお金なんて使わなかったから!
しかも、奢ってあげようと思って串焼きを二本注文したのに、結局奢られてしまったじゃないか。
「知らないのは仕方ないけど、これから覚えていこうね」
「くっ!」
だから、知ってるんだってば!
小さい子供に説明するように優しく言うな。
知ってるんだよ、マジで!




