第3章-14 橋、作っちゃう?
第三章
十四 橋、作っちゃう?
「これは、橋が流されているな」
ロッソが馬を慎重に操り、川の側へ近づく。
覗き込むと確かに、石橋の基礎部分が残っているし、周囲に橋の残骸と思われるものがチラホラしている。
「そこまで広い川じゃ無いけど、流石に飛び越えるのは無理そうだし……」
「おい、騎士団長殿。どうする? 川上の橋まで回り道をするのか?」
ロッソが後ろに振り返り、アメジスト王国騎士団長に問いかける。
ロッソだって帝国の騎士団長だから、色々ややこしいんだけど、まぁ、こう呼ぶのが一番無難なのかな?
それにしても、ロッソがこっちの騎士団長に指示を仰ぐなんてちょっと意外。
一応、王国領内だからそうしているのかな?
「そうでありますな……」
「「川上の橋もダメだよ!」」
騎士団長が判断に迷っていると、川上の方から大きな声が聞こえてきた。
丁度木の陰でよく見え無かったが、目をこらすと少年が二人、駆け寄ってきている。
「君たちは?」
「僕はタシャ」
「僕はトマス」
「「この川を渡った先の村に住んでいます」」
騎士団長が問いかけると、二人の少年は元気よく挨拶をして、頭を下げる。
近くで見たら二人はそっくり。
双子なんだろう。
焦げ茶色の髪の毛にクリクリッとした同じ色の瞳。
年の頃はオレやエミリィちゃんよりちょっと年下……中一くらいに見える。
背中には二人とも身体に似合わないくらいの大きな荷物を背負っている。
「タシャにトマス。川上の橋もダメとはどういう事なんだね?」
「あっちの橋も先日の集中豪雨で壊れていました」
「修理は始まっていますが、あっちの方が橋ももっと大きいので暫く時間がかかると言われました」
騎士団長の質問にタシャとトマスが順番に答える。
「それでは、君たちの村でこの橋の修復をするのか?」
「そうしたいのはやまやまなんですが……」
「大人の男は皆出稼ぎに出ていて、今、村に残っている男の中で、隠居を除いて一番年上なのが僕たちなんです」
「そうなのか……」
困ったな……と言わんばかりに騎士団長が黙り込んでしまう。
タシャとトマスは、体格的にオレよりは少しでかいけど、エミリィちゃんよりはまだ小さいくらい。
とてもじゃないけど、石の橋は直せないだろう。
「川上の修理が終わった後にこっちの橋を直して貰うのか?」
王国騎士団長が黙ってしまったので、ロッソが少年達に問いかける。
「そうするしか無いんだと思うのですが……」
「村にとってはこの橋が命綱で、僕たちが南の町で仕入れてきたものを残った女子供が待っているんです」
背負っている大荷物は仕入れてきたものだったのか。
食べ物とかだったら、急がなきゃいけないだろうし、どうしたら……。
「よし、作るか」
悩んでいるオレの後ろでロッソが軽い口調で言ってのける。
「レッ、レオーネ殿!? その様なことをしている場合ではありませんぞ」
「その様なこと?」
王国騎士団長の言葉にロッソの顔色が一瞬変わったその時――
「早く目的地に着きたいからこそ、この橋を修理した方が良いと思いますよ。騎士団長殿」
――王国騎士団長の後方から川沿いまで辿り着いたルーカが声を上げた。
ルーカの言葉でロッソが落ち着きを取り戻したようで、表情も戻っている。
「ファルコ殿、それは一体……」
そうそう、ルーカってルーカ=ファルコって名前なんだよね。
いっつもファーストネームだから忘れちゃいそうになるよ。
「川上の橋の修理は時間がかかると、この少年達も言っていますし、こちらの橋は完全に崩壊しているわけではありません。幸いにも土台も残っているし、使っていた石も幾つかは川辺に残っています。恐らく作ってしまった方が早いでしょう」
「……成程。確かに一理ありますな。少年達よ、元の橋はどのような形だったのだ?」
「あっ……はい。えーっと、確か……」
少年達が木の棒で橋の絵を描き始める。
いつの間にかオレたちは皆、馬から下りて少年の描く絵を眺め始めた。
「アーチ状の石橋か……」
「石材がもしかしたら足りないかもね」
「切り出すか、それとも川沿いで適当に集めてバランスを取るか……」
しゃがんで少年達の絵を見ながら、ロッソとルーカが難しい顔をしている。
しっかし、石造りのアーチ橋か。
良いねぇ、歴史的。
確か中世ヨーロッパでもアーチ橋が結構メジャーだったんだよね。
そんで、その後……
「扁平アーチ……」
「ヴィオーラ、今、何て言った?」
急にまた呼び捨てに戻っていて、ちょっと驚いてしまう。
この少年達に安易にオレの身分を明かさないようにという配慮なのか?
「え? あっ……、岩が足りないなら、アーチの角度をもっと緩くして、水平に近づけた扁平アーチ橋を作れば良いんじゃ無いかな?」
「アーチの角度を緩くだと?」
「ああ。構造的にしっかり外に向けて力が加わるように作れば、少ない岩でもいける筈だけど……」
「その力の計算は出来るのか?」
「構造計算のこと? 流石にそこまでは……」
こんな事なら、本当に高校でも真面目に勉強を続けておけば良かったよ。
扁平アーチ橋も中学の時に何かで読んだ知識だしなぁ。
な~んて、ちょっと人生を反省していると、そんなオレの気持ちなんてつゆ知らずのロッソは、スクッと立ち上がると真っ直ぐ第二馬車へ向かう。
「おーい、ベージュ様~。仕事だ」
窓をコンコンと叩くと、目の下を真っ黒にしたベージュが顔を出した。
やっぱりロッソはオレやベージュが王族だって分からないように喋ってくれているようだ。
「何だ、お前か。ボクは忙しいんだ。大した話では無いのなら……」
「従来のアーチ橋より水平に近づけた扁平アーチ橋と言う技術があるらしいが、構造が分からない。計算出来るか? ……いや、すまない。そんなの急には無理だよな?」
ロッソがそう言うと、ベージュは勢いよく馬車のドアを開いた。
「誰に言っているんだい?」




