第2章-14 彼の異変
第二章
十四 彼の異変
「え? 医療や薬品に詳しい方ですか? それは、変態……では無くて、ベージュ様が一番ではないですか?」
「そうですわよぅ、ヴィオ様が無口な頃から仲が宜しいのですから、よくご存知でおいででしょう?」
「ええ、まぁ、そうなんですけど、念のために……」
ここは中庭にある第四王妃イザベラ様と第五王妃ローザ様のサロン。
丸いテーブルは以前訪れたときと同じ席。
今日も美味しそうなお菓子が沢山並んでいる。
紅茶はダージリン。
王妃達のメイドとエミリィちゃんは、少し離れたところで控えている。
決して暢気にティーパーティーに参加した訳では無い。
前を向いて真相を突き止めようと決心はしたんだけど、やっぱりいきなりベージュに詰め寄るのは気が引けてしまい、こうして情報収集をしているというわけだ。
……我ながら情けない。
しかし、イザベラ様、何気にベージュのこと変態って呼んでなかったか?
あのシスコン第二王子が変態なのは、周知の事実なんだな。
そりゃあそうか。
妹が話しかけてきただけで、鼻血吹いて倒れるんだもんなぁ。
「あっ、でもぉ、最近はネーロ様との方が仲良しなのかしらぁ?」
ローザ様がニヤニヤしながら詰め寄ってくる。
流石王妃様、耳が早いな。
「なっ、何のことでしょうか?」
こっちから尻尾を出す必要も無いので、一応とぼけてみる。
「そういう小芝居はいりませんわよ」
「それでぇ、ネーロ様は御寝所ではどういう感じなんですのぉ? あの方、一見物腰は柔らかいけど、強引そうな気がするんですよねぇ」
イザベラ様がピシャッと逃げ道を塞いで、ローザ様が追い詰めてくる。
うむ、相変わらずいいコンビネーションですね。
出来れば、オレ以外に披露して頂きたいものだ。
そして、あの完璧兄ちゃんね。
確かに強引でしたよ。
壁ドンされて、ベッドに引っ張られて、服は引っぺがされ……。
あれ?
オレ、よく無事だったな。
ある意味、既に無事では無いのかも。
まぁ、この二人の王妃に言っても大喜びしそうだから言わねぇけど。
「あのですねー、兄妹に何を期待されているんですか? 何にも無いですよ」
「まぁ、庶民ならまずありませんけどね。王族ですと、場合によっては有り得ますでしょ?」
「イザベラ様、ご冗談がキツいですよ。大体、ネーロお兄様は私のことをそういう対象では全然見てませんから」
申し分ないサイズの胸なのに、ブラ丸出しにしてずっと商売の事を考えているんだもんなぁ。
有り得ん。
オレだったら、ガン見ですよ。
っても、ホント不思議なんだけど、自分の魂が入ってしまっているせいなのか、お姫様の胸とか見てもそんなにドキドキはしないんだよな。
マジで勿体ないんだけどさ。
でも、こんなに可愛い姿を見ていちいちドキドキしていたら、オレも生活していられないか。
そう言う意味では女性慣れをしてきたのかも知れない。
変な意味で。
「あらぁ、そういう対象で見ているか確認できる出来事でもあったんですかぁ?」
「ありませんってば!」
おっとりして見えるけど、ローザ様って結構鋭いんだよな。
そりゃあ、ある程度鋭くなきゃ王宮ではやっていけないのかも知れないけどさ。
ほんと、この第四王妃様と第五王妃様は面白いんだけど怖いなぁ。
「あっ、そうですわ。兄妹婚といえば、ベージュ様のお話しでしたわね」
「違いますよ、イザベラ様。私は全然兄妹婚の話なんてしていませんからね。医療や薬学に詳しい人を探していたら、ベージュお兄様の名前が出てきたんですよ」
「あら? そうだったかしら? それにしても最近、ベージュ様ったらあまりお元気が無さそうで少し気にはなっておりましたのよ」
「え? そうなんですか?」
「そうよぅ。丁度、ヴィオ様がお元気になったのと入れ替わり、お元気が無くなってきたような気がするわぁ。ヴィオ様が明るくなられたのを一番喜びそうだったのにぃ……」
それは全然分からなかったな。
そもそも、オレがお姫様の身体に入る前と比べるのは無理か。
お姫様だって、今は寝室の鏡から出て来られないし。
それに、オレの前でも鼻血吹き出したり、やたら絡んできたり、正直テンション高めに感じたけど……そうか、あれでも以前より大人しめなんだな。
うわぁ、お姫様、嫌じゃ無かったのかな?
「それと、あまりヴィオ様にご心配掛けるのも心苦しいのですが、ベージュ様のお酒を嗜む量が増えたような気がしますの」
「お酒ですか?」
意外な言葉に驚くオレに、イザベラ様が続ける。
「ええ、食事の時、私はベージュ様と座席が向かいですし、息子の第三王子は隣に座っておりますけれど、ランチの時間でもお酒の匂いを感じるときがあると息子が言っておりましたわ。それで、私も少し気にしてみたら、朝食でもお酒が残っているような時がどんどん増えておりました」
「あまりベージュお兄様がお酒好きだという印象は無いのですけど……」
「そうですわね。国王陛下やネーロ様はお酒が強いですけど、ベージュ様は殆ど嗜みませんわ。式典の乾杯とか、必要なときくらいですわね」
「ヴィオ様の婚約が決まりそうで、ショックなのかしらぁ?」
ローザ様がクッキーを一つまみしながら呟く。
「こら、ローザったら。そんなこと言ったら、ヴィオ様が余計に気に病んでしまうじゃない」
「でもぉ、お酒の話をした段階で、もう心配しちゃうわよぉ。それより、正式に婚約が決まって色々忙しくなる前にお話しして元気になって貰った方が良いんじゃなぁい? 兄妹なんだしぃ」
「それもそうねぇ。元々ベージュ様はヴィオ様をとっても可愛がっていらっしゃったものね」
やっぱりこういう身分の人たちが嫁ぐと、元の家族とは中々会えないんだろうな。
いつもは直ぐにからかってくる二人の王妃が、お姫様とベージュの仲を心配してくれているのは伝わってきた。
二人も急に王宮に上がることが決まったみたいだし、家族とゆっくりお別れが出来なかったのかもな。
ってか、オレもボヤボヤしているとロッソや誰かと婚約して嫁ぐことになるのか。
それも困るなぁ。
でも、婚約もまぁ、今は候補がロッソだけで、他の人はペンディングになっているみたいだし。
ロッソもそんなにお姫様を気に入って、結婚を急いでいるのかな?
いっつも変な、ちょっかいばかり出してきて、まともな話があまり出来ていないんだよなぁ。
そろそろ戻ってくる頃なのに、まだ戻ってこないし……。
鏡の中のお姫様とも方針を相談した上で、あのエロ騎士が戻ってきたらちゃんと話をした方が良いな。
だけど、一度に沢山のことは片付けられないし、取り敢えず今はベージュの事を考えよう。
イザベラ様とローザ様が言うには、ベージュはヴィオの身体にオレが入った頃から元気が無くなっていった。
それに加えて、どんどん酒量が増えてきている。
急に性格が変わった妹を心配しているって考えるのが普通だろう。
それか、ローザ様が言うように、ロッソとの婚約話が少しだけ進んでしまっているから寂しいとか。
でも、果たしてそうなんだろうか?
すっごく嫌な想像だけど、毒だか何だかをあの時の紅茶に入れたのがベージュだったら、それを飲んだはずなのに、一見何とも無い妹を見てどう思うだろうか?
不安にはなると思う。
しかも、大人しかった姫がこんな感じになってしまっているし。
自分のせいだと思うよな。
それに、ロッソも言ってたけど、そんなにヤバい毒は混入していなさそうだということだった。
ということは、別にお姫様を毒殺しようとか思っていたわけでは無いんだろう。
じゃあ、どうして――
「あらあらぁ? ヴィオ様、ティータイム中に考え込むのは悪い癖ですわよぅ」
「あっ、ローザ様、ごめんなさい。そうですよね」
「うふふ、ちゃんとお話しすれば大丈夫よぅ。それより」
――むにゅっ
「このコルセットは何なのですのぉ? さっきからずっと気になっていましたわぁ」
「ぎゃー! だから、いきなり胸を鷲づかみにしないでください!」
騒ぐオレに構うこと無く、胸をまさぐられる。
因みに、色んな男共に散々色々されてきた気がするけど、胸を鷲づかみにしてくるのはこの王妃達だけだな。
ホント、女子のコミュニケーション怖すぎ。
もっとキャッキャウフフしているものかと思ったけど、違うからね。
隙あらば胸を鷲づかみにされるからね。
「えぇ? 何これぇ? コルセットじゃ無いのぉ? イザベラ、後ろのボタン外してぇ」
ローザ様が言うと同時にイザベラ様がワンピースのボタンを外してくる。
ってか、イザベラ様も外すの早すぎ。
あの完璧長兄といい、大人って皆、服を脱がすのがこんなに早いの?
それとも、オレの周りだけ?
そして、どうしてオレは脱がされるばっかりなの?
どっちかっていうと、可愛い女の子の服を脱がせたいんだよー!
恥じらう顔が見たいのに、どうしてオレばっかり恥ずかしがらなきゃいけないんだよー!
「あら? これ、コルセットの上の部分だけなんだわ!」
「勝手にボタンを外さないでってばー!」
「凄いわぁ、これどうしたのですかぁ?」
ああ、オレが叫んでもマジでお構いなしなのね。
しかも、エミリィちゃんもオレのフォローに来ようとして、王妃様達のメイドに強引なおもてなし受け始めているし……。
もう、ブラのことをちゃんと説明して、とっとと服を着せて貰おう。
「コルセットが苦手だから、エミリィに作って貰ったんですよ。もし、興味がおありでしたら、ネーロ兄様がこのブラジャーを商品化するって張り切っていましたから、言えば先に手に入ると思いますよ」
「え? ネーロ様にお見せになったのですか?」
イザベラ様が目を丸くする。
「うっ、見せたわけでは無いですよ!」
「じゃあぁ、見られちゃったのですかぁ?」
ローザ様、顔がメッチャにやけてますけど?
「何でも良いじゃないですか!」
「「ちゃんとお話し頂くまで、帰しませんよ」」
こうして息ぴったりの王妃達に追い詰められるのであった。
この前も思ったんだけど、取り敢えず、服を着せて欲しい。




