第2章-12 大口注文入りました
第二章
十二 大口注文入りました
「あっ、エミリィ、ちょっと待って」
「わっ! ヴィオ様!?」
執務室の中を見てエミリィちゃんも一瞬でヤバい状況は分かったらしい。
後ろ手で直ぐさま扉を閉めて他の人からは見えないようにする。
しかし、扉を閉めるだけで精一杯だったようだ。
エミリィちゃんは真っ黒な瞳を見開いて、驚きで固まってしまっている。
そりゃあそうだろう。
次期国王の執務室のデスクで、次期国王が背後から姫君を抱きしめていて、しかも服ははだけて、ブラも外されかかっていて……。
アウトだな。
色んな意味で。
まず兄妹って時点で既にスリーアウト感がある。
この国では兄妹でも結婚制限が無いらしいから、仮にギリギリセーフだったとしても、真っ昼間から執務室でこの有様。
爛れすぎている。
ドロドロな昼ドラもビックリだよ。
この脱がされかかっているのがオレで無ければ、是が非でも写真か動画を希望するが、自分だと思うといい加減切なくなってきた。
「ふむ。確かにこうやって引っかけるだけというのは、利便性が向上しているな」
固まるエミリィちゃんと慌てるオレの様子を気にすることも無く、ネーロはホックの形状を確認して、いとも簡単にかけ直す。
あー、はいはい。
イケメン様はホックをかけるのもそつが無いですね。
取り敢えず、これ以上脱がされる感じでは無くなって安心したよ。
まだ、ネーロの膝の間だし、全然安心できる状況では無いけどさ。
「エミリィ」
「はっ、はい。ネーロ様、これは一体……」
「このブラジャーというものは、お前が作ったのか?」
エミリィちゃんがこの爛れた光景を問いただそうとしてくれたのに、ネーロはブラの肩紐の作りを調べながら逆に質問を始めた。
「左様です。ヴィオ様のアイディアを元に自分が製作しました」
エミリィちゃんもまさか自分に質問が及ぶとは思っていなかったようで、驚いた様子で返事をする。
エミリィちゃんの返事を聞き、ネーロは納得したように頷く。
「確か、お前の実家は服屋だったか。丁寧で良い仕事をしているな」
「ありがとうございます」
あれ?
何か良い雰囲気になってるけど、オレまだブラ丸出しだからね。
背中も胸もめっちゃスースーしてるからね。
オレが今、抱きしめている方の立場なら、こんな可愛らしい姿で放っておかないけどなぁ。
ぶっちゃけ、取り敢えずガン見するけどなぁ。
ってか、エミリィちゃんの実家の情報まで押さえてるのかよ。
次期国王、恐るべし。
オレも、楽な下着とか作って貰う際に初めて知ったというのに。
「ところで、このホックというのは三つも必要なのか? 三つだと付け外しが面倒になるだろう」
「だから、また外そうとするな!」
ホックを触るネーロに文句を言うが全然聞いていない。
ホック周りの布を引っ張って伸縮性を確認し始める。
「それはお胸の大きさによります。ヴィオ様くらいのサイズですと、やはりホックは三つ無いと不安定になりますね。一般的な大きさなら一つか二つで十分かと存じます」
「エミリィも普通に話を進めてるけどさ、この状況ヤバいと思わない?」
「……ヴィオ様、自分が言うのも気が引けますが、隙が多いのですよ。あの帝国騎士達とは違ってネーロ様からはあまり邪なオーラは感じませんし、この機会に反省してください」
うぅ、エミリィちゃんめ……。
裁縫技術を褒められたからって、ネーロの味方かよ。
ぐすん……。
けれど確かに、この長兄はオレをあまりというか全然異性としては見ていない気はする。
どちらかと言うと、からかいがいのあるオモチャ扱いだ。
まぁ、兄妹なんだし、その方が健全なんだけどさ。
ただ、からかい方が全然健全じゃ無いんだよ!
早く服を着せろ!!
「成程、それからコルセットに比べると随分シンプルなデザインだが、もう少し工夫できるか?」
あれ?
まだブラ談義が続くの?
しかも話が具体的な感じになってるけど?
オレだってブラは好きだけどさ、勿論、付けるのじゃ無くて、見るのが。
でも、未だかつてこんなに真剣にブラについて考えたことがあるだろうか?
っつーか、ブラも付けるのじゃ無くて見るのが好きってさ、もう外す事を諦めてるよね?
いやいやいやいや、諦めてないってば!
早く問題を解決して、イケメンに再転生して今度こそブラを外す立場になりたいよ、全く。
「元々、カップ……お胸の部分に刺繍を入れたり、レースを施そうかと思ったのですが、ヴィオ様はシンプルな方がお好きと言うことでしたので、ご希望があればそのようにすることも可能です」
「ほぅ。カップに刺繍やレース。……それは良い考えだ」
「ちょっ、どこ触ってるんだよ!?」
驚くオレに構うこと無く、話が進んでいく。
カップの際をメッチャ触ってますけど!?
際だからセーフって思っているのかも知れないけど、アウトなんですけど?
というか、オレだって触る方が良いの!
毎回言ってるけどさ、女の子とイチャつきたいの!
「成程、背中の部分とカップでは布の織り方が違うから、この様な立体的な作りになっているのか」
「ネーロ様、流石です」
「流石じゃ無いですよ! 早く指を離してくださいってば!」
「……ヴィオ」
ネーロが背中越しにオレの顎を掴み、顔だけ後ろを振り向かせる。
オレの叫びがやっと通じたのかと安心していると……。
「これ位のことで騒ぐな。欲求不満なのか?」
呆れたように言葉を投げかけられる。
「はっ!? 欲求不満って誰がですか?」
「お前もそういう年頃になったか」
「何、温かく見守ろうとしてるんですか?」
「分かった分かった。今、エミリィと大事な話をしているから、少し待っていなさい」
え?
オレが悪いの?
全然納得できないんだけど。
でも、エミリィちゃんも真剣な表情でブラについて説明しているし、ここは口を挟んだら悪いか。
せめて服だけ戻して欲しいな。
寒いよー。
ボタンが後ろだから自分で閉められないんだよー。
今度は自分で着られる服を縫って貰おう。
うん、そうしよう。
「うむ。このブラジャーというものについては粗方理解できた」
暫くエミリィちゃんとブラについて話し合っていたネーロは納得したように頷き、話を続ける。
「これはヴィオが個人的に使うのでは無く、商品として広められる価値がある。エミリィ、まずは貴族の令嬢向けに高価格帯で商品開発をしよう。ある程度広まったら、一般庶民にもっと簡易的なデザインのものを作れば良いだろう」
「商品開発ですか……」
「開発先はお前が決めて良いから至急手配するように。国でもある程度の資金援助はしよう」
「!! あっ、ありがとうございます!」
エミリィちゃんが涙目で頭を下げる。
あっ、そうか。
彼女の家は服屋さんだからか。
これは国からの大口注文だもんな、そりゃあ嬉しいよな。
「そうだ、エミリィ」
「何でしょうか、ネーロ様」
「この髪を巻く道具もお前が作ったのか?」
思い出したように今度はオレのポニーテールに触れてくる。
散々色々触られたから、神経が過敏になっているのか、髪に触れられただけなのに、ビクッと反応してしまう。
ほんと、女の子ってデリケートに出来ているんだな。
デリケートなんだからさ、もうちょっと皆優しくして欲しいよ、全く。
オレだったら、こんな可愛いお姫様が側にいたら、超優しくするけどなぁ。
「そうです。とは言っても、元々調理用の魔法道具を短く切って軽くヤスリをかけただけですが……」
エミリィちゃんが遠慮がちに答える。
器用なエミリィちゃんはホットカーラーもあっという間に作ってくれたけど、多分、裁縫ほどは出来上がりに満足していないんだろう。
そう言えば、オレに作ってくれたときも、そのうち時間を見て、ちゃんとしたものと交換すると言ってくれていたし……。
「こういう加工が得意な職人に心当たりは無いか?」
「あっ、はい。恐れながら従兄弟一家が職人なので、自分が作ったよりも綺麗に加工できるかと思われます」
「そうか、ではそちらも至急手配しておくように」
「承知しました」
次期国王に至急の用事を頼まれたのだから、踵を返して退出するのかと思いきや、エミリィちゃんはちょっと困った様にオレを見つめてきた。
「エミリィ、私なら一人で部屋に戻れるから。折角のチャンスだし、行ってきなよ」
「ヴィオ様、ありがとうございます。それではお言葉に甘えまして、失礼させて頂きます。……あっ、ネーロ様」
オレの言葉に嬉しそうな表情を見せたエミリィちゃんは、思い出したようにネーロに声を掛ける。
「何だ?」
「いくらご冗談でも、あまりヴィオ様に意地悪なさらないでくださいね」
「ははっ、まるで騎士だな」
「よくご存じでしょう。それでは、失礼します」
深々とお辞儀をして、今度こそエミリィちゃんは踵を返して執務室を後にした。
大きなチャンスを貰って良かったな。
頑張れー。
そして、オレには早く服を着せてくれー!
相変わらずネーロの膝の間に座って服もはだけている現状に、軽く絶望するのだった。
もう、十分意地悪されてるってば。




