ラスト
……そうや。あの時、女子らで集まって、メシが有名な武田信玄の秘湯の宿にいったんや。
冷泉で混浴や言うからみんなでドキドキして浴場に行ったら、おじいちゃん、おばあちゃんしかおらんかったけど。
夜、宴会しとる時に、初めてケイスケから電話かかってきて。
電話番号教えたこともないのに、なんでウチの電話番号知ってんのやろ、て少し不思議に思ったけど。
あの時はケイスケに猛烈に片想いしとったから、舞い上がってもうた。
あわてて、部屋から出て静かなところに行ったら。
相手のケイスケは声がすごく小さくてモゴモゴと何言うてるか分からんかった。
何度も聞き返したけど、声の大きさは変わらんくて、全然変わらんかったんや。
そのうち、ケイスケが機嫌悪そうにしたから、もう機嫌を損ねるのが嫌で、とりあえずウチは適当に相槌を打った。そうしたらしばらくして、電話は勝手に切れた。
部屋に戻って、ウチは友達みんなにケイスケ君から電話がきた、と報告した。
するとみんなはめちゃくちゃ盛り上がって「それは脈アリやから、帰ったらはよ告ってまえ」て、アドバイスもらった。
そんで、ウチは皆の言うとおりに旅行から帰ってすぐに告白したんや。
「……え? あの電話、告白やったん……?」
「聞いてへんかったんかい!」
「だってあんた、めちゃくちゃ声小さくて、聞こえへんかったんやもん!」
「聞こえへんだら聞こえへん、て言えや!」
「言うても変わらんかったんや。しつこく何回も言うたらあんた、怒ったみたいやから嫌われたらかなん、て思って、適当に相槌打ったんや」
「分かってへんのに相槌打つほうが失礼やろが!」
あの時の記憶が、急に鮮明に蘇ってきた。
告白?
先に告白してきたんはケイスケの方やったん?
なんかよく目が合うなあ、と思ってたけど、ホンマにケイスケも最初からウチのこと好きでいてくれたんか?
自分の口元が緩み始めるのを感じた。
「え……あの時、なんて言うてくれたん?」
「そんなん覚えてるかいな!」
「思い出して。もう一回、言うて」
ニヤニヤ、とウチは気持ち悪い笑みを浮かべてもうた。
「ええやんか、そんなんどうでも!」
ケイスケは怒鳴って、ウチの顔にほっぺたをくっつけた。
「……明日にでも籍入れに行こうや」
ウチは微かに微笑んだ。
「……大安の日にした方がええんちゃう?」
「……せやな、一番近い大安の日に」
ケイスケの体温にホッとする自分にウチは気づいた。
ああ、ホンマにもう。身体は正直、ていうか。
「なあ、ホンマにジェットコースター乗ったらウチと戻れると思っとったん?」
「……少し期待しとった」
「アホかいな。相手がジェットコースター乗れへんだけで嫌になるって、どんだけ何様な女やねん」
ウチはおかしくて笑いたい気持ちになった。なんだか疲れた。ザ・疲労困憊や。
バタバタして、えらい遠回りをしたような感じや。
アホみたい。
なんか、もうどうでもええわ。
でも、その疲労感は清々しかった。
「虹色のガラスのネックレス、もらってくれや」
「あんなん着ける機会ないもん」
「……家で着けたらええやんけ」
どうせ、箪笥の肥やしになるんやろな、アレ。
――ウチはふいに昔観た映画のラストシーンを思い出した。
リバー・フェニックス主演の性春突っ走る男の子の映画。
あはは、なんであんな映画を思い出すねんやろ。
……でも、なんかあのラストの言葉が今のウチにはぴったりやわ。――
……確か。
『人生にはいくつかの分岐点』があって。
『人はそれを選択するたびに人生を通過』したと思うけど。
「結局、あんたはウチのバラやったってことやな」
「は? なんやねん、それ」
「……なんでもないわ」
『実は通過点ではなく、毎回そこが出発点である』
「……ふふ。ホンマはなんてウチに言うたか覚えとんのやろ?」
「しつこいな、覚えとらんっちゅーねん」
『人はそれに気付かず苦労する』
〜END〜
読んでくださった読者の皆様、ありがとうございました。
リバー・フェニックスの主演映画は「ジミー〜さよならのキスもしてくれない〜」です。
映画のジミーは容姿、性格ともに
SKY WORLDのリックのモデルでした。
酷評されている映画ですが、私は青春映画の名作だと思います。




