79.エピローグ
聖教国に現れた使徒たちは次第にその所属を冒険者へと移していった。
理由はわかっていないが、信用ならない。という風に言った者達がいたと噂が流れた。
その噂を肯定するように使徒の一部が教会を占拠するという事件が起こる。
しかし、その事件もあっという間に収束する事になる。
その事件に巻き込まれた信者は言う。神々しきお方が降臨し私達を助けてくれたのだと。
真偽のほどは定かではないが、この事により教会の力は落ちていくことになった。
聖教国が大きく揺れる間、王国では新しい町が産声を上げた。
町の名前はサークリス、その初代領主には元王女であるシーリアがなる事になった。
この町の住人は多種多様だ。これほど多くの種族がいれば種族同士によるいざこざも多くなりそうなものだが、この町に住む者達は種族の違いがあるにも関わらず似たような生活様式だった。
そして、この町の多くの者達は冒険者だった。そしてその実力は一級、二級は当たり前、特級クラスの実力者も数多くいた。
この新しく出来た町は王国でありながら、冒険者として各地に散って行った使徒達が集まり町を形成していた。
だが、なぜ王国内なのか? その領主がなぜ元王女なのかは一部の関係者しか知らない事だった。
そして少しの月日が流れた。
きな臭い動きをしていた帝国がついに動いた。混乱に乗じて聖教国から人々を連れ去り奴隷とし数を増やして、王国へと戦争を仕掛けて来た。
戦争を仕掛けて来た理由、それは帝国にも多くのヒューマンの使徒がやってきたからだ。
彼らの力があれば戦える。そう判断した皇帝の意志で、戦争が開始された。
聖教国は今は確かに混乱している。だが、その支配領域は広い。首都を落とせば勝ちかもしれないが、そこにたどり着くまでの距離がかなり遠かった。
それが王国ならば支配領域も比較的小さく、なにより王都がどちらかと言えば帝国に近い。そしてなにより、ヒューマン以外の物が多く暮らす事が気に入らなかった。
だからこそ王国に戦争を仕掛けた。
国王がこの事態に対してした事はあまりにも非常識なものだった。国王が国民に対して言った言葉は、戦争に等ならないので普通に生活をおくるように。というものだ。
そして軍も貴族も動く必要なし、動いた場合の費用は自分で全てを負担するようにと言った。
一部の者達はこれを出撃しても良いのだと判断して国境付近に展開した。
帝国軍と王国軍、数の差は圧倒的だった。
だが、戦いは始まる前に終わってしまった。
王国軍にバラバラに走って来る者達は武器も防具も脱ぎ捨てて走って来た。どんな作戦かと疑問に思う者達は確かに聞いた。その走って来る者達の助けてくれという言葉を。
ある程度の距離で止まらせ、代表が話を聞きに行くとその者達はすべて聖教国から連れ去れた者達だという。
そして彼らは言う。帝国や使徒は神々しきお方の怒りに触れたのだと。
そのお方は隷属の首輪を全て破壊して逃がしてくれた。帝国軍はなすすべなく倒されたのだと。
偵察隊を送り込み報告された内容はどう判断していい物かわからなかった。
死体の数は非常に少ないのだという。だが、物資は根こそぎ無くなっていたと。
普通に考えれば逃げ帰った者達が持って行ったのだと思うが、積み荷が乗っていたと思われる馬車は放置されていたし、証言で馬の代わりに馬車を引いていた虫はすべてあのお方に一瞬で消滅させられたという話もあった。
軍も帰還し王にその事を報告すれば、だから必要なしと言ったのだと返事が返って来た。
つまり、すべて王は知っていたのだ。
だが、それをなした人物との約束で正体は明かせないという。
使徒が現れたという報告からここまで色々な事があったが、帝国の敗戦した事で一旦の終了を見せ、世界は落ち着きを取り戻した。
俺がこの世界で前世を取り戻してから果たしてどれほどの時間がたっただろうか?
暦で数えようとしても、二度ほど大きな戦で国が変わっている為暦では追えなくなっている。
俺達が作り上げたサークリスも今ではまた平原に戻っている。
時間と共に仲間が、妻が、子供たちが死に、町は都市になりそれでもドンドン大きくなり最終的には大きな戦争で統一国家になった。
そしてバカな王の為に戦争が起こり、全て燃やし尽くされ、複数の国が出来て統治している。
外の世界は大きく動く中、里を中心に動いていた。孫までは面倒を見たけどそれ以降は好きにさせてもらっていた。
そのせいで戦争になったと言われたこともある。でも、俺一人でなんでもやるわけにはいかないのだけどと言うのが俺の意見だ。
里は変わらない。昔ながらののんびりとした時間が流れている。
転生者や転移者が産業革命やらなんやら起こしてくれたおかげで、現在の首都に行くと高層ビルが立ち並んでたりするのは時代が変わったなぁとしか言えなかった。
「ユキト、考え事?」
俺の居るこの部屋に入れるのはこの子だけ、俺の最後の嫁さんだ。
けっきょく俺の寿命はいくつになるのかさっぱりわからないが、みんなすでに死んでしまった。
唯一残った彼女は、脇目も振らず突き進み、彼女だけが俺と同格、つまり神狐にまで上り詰めた。
「ちょっと昔の事を思い出してた。……ちょっとダンジョンでも行って来るか」
「今回はどこに行くの? もう三百周くらいはしたよね?」
「あ~……ん~……」
「この前、アグリアの町で新しいカフェが出来たって情報が入ったからそこに行こうよ」
「そうするか、それじゃ行くか。カヤ」
「うん!」
寿命があるのかないのか……俺達はやる事もなくのんびりとこの世界でまだまだ生きていく。
こんな終わらせ方で申し訳ないです。
言い訳は活動報告で。




