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51.社

 実はトウカさんは未亡人だという事を教えてもらった。そんな状態でいったい誰がトウカさんやカヤの面倒を見ていたかと言えばどうやら巫女達の中からある程度の時間面倒を見ていたそうだ。


 よくよく話を聞けばそれはトウカさんが元巫女だったからではなく、巫女の中にも色々とタイプがあり、ミヤビは仕える神狐の護衛役としての能力を伸ばした戦闘系巫女だとしたら、それとは逆に家を守り、家族を守るためにベビーシッターから老人介護、家事全般に特化した巫女達もいて家事系巫女は修行の一環で里の赤ちゃん、子供、お年寄りのお世話もしてるらしい。

 とはいえ基礎はあるので、両方の巫女とも戦闘も家事も全て一通りはこなせるらしい。家事系巫女でも五級程度の実力はあるらしい。巫女服を着た何でも屋という認識に俺の中ではなりつつあった。




 それでエリナとミヤビはその巫女さんについて色々と家の中の事をやっていたらしい。と、いうかあの部屋から脱出したと言いだした。


「脱出って何かまずい状態だったのか?」

「いえ、むしろ逆です。あの光を浴びたらなんだか気持ちが穏やかになり眠りそうになったので」

「光?」

「手を握って集中し始めたら、ユキトくんが淡く光ったんだよ。その光を浴びたらカヤちゃんなんかすぐにウトウトし出して眠っちゃったよ。私達もそこにいたら同じことになりそうだったから」

「二人は部屋から脱出したと」

「そうなります」

「でも、とっても幻想的だったよ。これなら神様って言われても納得できるって思えたよ」


 謎の発光現象がなんだったのかわからないけども、心が落ち着いて眠くなるならそれほど気にしなくてもいいかな? でもちょっと気にはなるのでものは試しと手のひらで出来るかやってみるとなんか光った。


「なんか手のひらだけ光ってるな」

「非常に弱いですけどさきほどと同じような力を感じます」

「ジーーっと見てると少し眠気がくるかも」

「使い道がなさそうだな……。こういう治療のたびにこんな風になってたらすっごい迷惑だよな……。いや、逆に眠ってるから治療がしやすいのか?」

「できればこういう治療が無い方がいいと思いますけど」

「ない方がいいけど、どうなるかはわからないしな」


 果たしてこの光、再び使う事があるのか? こちらから探せば色々ありそうだが今回限りにできればしたい。俺としては今はホームと取戻し、生産活動をする為の準備期間なのだ。




 その日はそのまま帰る事になった。トウカさんもカヤも安心からかはたまた疲れからか、様子を見に行ったらぐっすりと眠っていた。何かあったら連絡してほしいとお願いして家を出た。

 宴会に参加していなかった家はすべて回ったし、何より日も暮れてる今日はこの辺りで十分だろ。




 翌日は朝からお墓参りに行ってきた。お墓は3階建ての納骨堂になっていて火葬して骨壺に入れ思い出の品一つを箱に入れて棚に詰め、いっぱいになったらその棚の前に新しい棚を置き、また箱を詰める。そうして建物の中をいっぱいにしていくそうだ。

 だから、全ての場所で外から祈る事しかできない。基本的に中に入れるのは専任の担当者だけらしい。

 俺達もそのしきたりに従って外から手を合わせた。




 その後初めて社を訪れたがその規模に度胆を抜かれた。


「ミヤビ……ここが社?」

「社の入り口ですね。社の本殿はこの奥になります」

「なんか広くない?」

「里の女の子は一年間はここで共同生活しますし、巫女見習いの数もかなり多いですからこれくらいはないと生活が窮屈になってしまいます」

「……もしかしてその数の人が修行と言って俺達の家を代わる代わる面倒見るの?」

「いえ、おそらく巫女になった者だけだと思います。ユキトさんの住む場所ですからそれなりの評価を得ている者でなければ行けないと思いますよ」

「それならいいけど」


 俺は少し規模の大きい神社くらいを想像していた。しかし実際はそんなちゃちなものではなかった。一年の共同生活をするって事はまずは巫女になる女の子達を取り込んでから他の職業やらなにやらに行くのだろう。巫女ありきとか想像してなかった。


「では、まいりましょうか」


 ミヤビは俺達を連れて社に向かった。この規模なので当然社もなんて思っていたが、到着した社はそこまで大きくなかった。

 いや、最初に想像してたよりは大きいけれど、この規模に対しては小さいかなと思うというだけだ。


「よ、ようこそおいでくださいました。ご、ご案内いたします」


 いつ来るか言っていなかったのでお出迎えではなく、ちょうどそこにいた巫女さんを捕まえて案内してもらった。

 案内された先で待っているとウメさんがやってきた。


「ようこそおいでくださいました」

「こちらこそ予定を伝えずに突然やって来て申し訳ない。それで転移魔方陣を敷ける場所はありましたか?」

「はい、おそらくは物置として利用するための場所だと思うのですが、それほど広くない板張り床の場所がございました。すぐにご案内しますか?」

「そうですね。そう」

「し、失礼します。お茶をお持ちしました」


 案内してもらおうとしたタイミングでさきほどの巫女さんがお茶を持って来てくれた。タイミングが悪いのか、ギリギリ間に合ってお茶を無駄にせずにすんだのかとそんな事を思った。


「ありがとう。せっかくですし、お茶を飲んでからその場所を見せてもらいますね」




 お茶をいただいて、案内された場所は希望に沿った場所ではあったが、ここを物置として利用するってどういう事だよと思うほどの広さがあった。王都の家の部屋よりも広い。

 ただ、ここにタンスやらなんやらを入れると考えれば物置というのも一応納得できるかもしれない。こんなに広いと物置とは考え付かない俺が小市民なのだろうか?


 そんな事はともかく、準備してあったものをどんどん設置してちゃっちゃと転移魔方陣を敷いてしまう。もう三回目なので慣れたものだ。二十分もしないうちに敷き終った。

 そして転移魔方陣を動かして王都へ戻り、サークリスに移動したりと動作確認をして扉もちょこちょこ細工して終了した。


「こんなもんかな」

「もう終わったのですか?」

「終わりましたよ。行ってみてください。魔方陣の中央で王都へ転移と思ってもらえればそれだけでいけますよ」

「で、では、さっそく」


 そう言ってウメさんは王都へ飛んだ。そしてすぐに戻ってきた。そしてまた飛ぶ。戻ると繰り返した。新しいおもちゃをもらった子供じゃないんだからもう少し落ち着いてもらいたい。それにあまり多くないとはいえ転移には魔力を消費するのだ。こんな風に使っていたらと思ったらウメさんが戻って来ない。もしやと思ってミヤビに様子を見に行ってもらえば案の定魔力が少なくなって戻って来れなくなっていた。魔力切れするほど飛ぶって……。


「これはお恥ずかしい。何分初めての事だったのでつい……」

「気を付けてくださいね。それとこれをお渡ししておきます」

「これは?」

「さっきの地下室から出る扉のカギになります。これがないと扉の出入りできないので注意してください」

「わかりました。しっかりと預からせてもらいます。それで早速ですが向こうに人を送っても大丈夫でしょうか?」

「構いませんよ。……ミヤビはそっちについて家の中の事とか教えてあげてくれないか? 俺とエリナは木を少し伐採してくるよ。今日中には戻って来て明日から本格的に取りに行こうか」

「わかりました。こちらは任せてください」

「それじゃエリナ行くよ?」

「うん、ミヤビさん行って来るね」


 こうして突発ながらこの日の午後は別行動する事になった。ここしばらくアクアが暇そうにしていた。それもあってアクアを降ろしてのんびりヘルキャットをアクアに任せながら森へと向かい、木々を伐採して行った。

 もちろん、エリナには気配の読み方なども覚えてもらうように行動している。まだまだ全然ではあるが多少は出来るようになって来たようだ。

 木もそこそこ集まり、その日は里へと帰って行った。

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