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50.治療

 午後になりとりあえず大工たちのいる場所へと向かった。場所の確保ができないと動けないが、資材がどれほど必要になるか? だけでも先に聞いておこうと思ったのだ。

 この時間、多くの人達は仕事をしてるはずなので会いに行っても会えない可能性もあるので確実性の高い方から訪問する事にした。

 案内はこの里の不動産を扱ってる人だ。ゲンゾウさんが紹介の暇も与えずに話をしていたので名前を知らないのだけどなんとなく今更感がありそのままになっていた。

 ちなみに長は役目を終えたとばかりに寝ている。


「これはこれはユキト様にサガヤさんじゃありませんか。屋敷に関してでございましょうか?」

「ショウジョウさん、その通りでございますよ。はい。場所に関してはこれからなのですが、資材に関しての話がありまして、はい。ユキト様がお話をしたいと、はい」

「これはこれはユキト様がでございますか? では奥へどうぞ。話を聞かせていただきたく思います」


 そんな風にして奥へと通されて、棟梁もやってきて色々決める事になった。そして話し合いの内容はこんな感じだ。


 棟梁他、大工たちの気合MAX。すごい屋敷建ててやるぜ! だけど木材がないぜ!


 俺の持っていたサークリス南の森の木を見せる。中々良い木と判断され千本ほど依頼される。後日追加があるかもしれない。

 木を切る人に対する配慮は? と聞いたところ。それも大工の仕事の内と言われてしまった。どちらかというと大工より林業の方がメインらしい。


 とりあえずあの土地で屋敷を建てること前提に設計する。ほとんどおまかせだが広めのお風呂と寝室は畳じゃなくて板張り床にしてもらってベットを入れる事にした。

 布団が悪いのではない。する時に気になってしまう俺達が悪いのだ。

 それと途中で広めのお風呂が最低でも4人がゆったり入れる大きさとエリナとミヤビに指定された。理由は教えてもらえなかったが、嫁が増えるのは確実だとでも思われているのだろうか?


 そして値段交渉。木材提供もあるのでかなりお安くなった。そこに待ったをかける人もいたが賛成多数により無視された。さらに値引こうとするなよと思う次第であります。


 そんな感じで話し合いは終わった。時間がかかり日も暮れ始めていた。この時間ならばと火事被害にあった人達の所を回って話を聞いてきた。

 一回まわってもすべての家の人には会えなかったが、もう一度会いに行くと全ての人達に会う事ができ、ユキト様にあの土地を使ってもらえるならうれしいと口をそろえて言ってた。

 ゲンゾウさん達が言っていたように誇りに思うという人もいた。

 けっきょくお墓参りは後日という事になった。明日の朝には宴会に出てこれなかった人たちがわかるというのだ。お墓参りを延ばし延ばしは悪いなぁとおもったが、ミヤビは気にしないでいいという。その言葉に甘えさせてもらう事にした。




 そして翌日、リストアップされた会いたくても来れなかった人たちの所へと出向いていた。

 大抵が足腰が弱って動きにくくなっているお年寄りや子供が居て家を離れられないお母さんたちだった。

 宴会の時も気になる人にはやっていた事なので、体に不調がある人には回復魔法をかけていった。

 お年寄りの中には動ける、動けるぞ! と調子に乗って動きまくってる人もいたけどあれは明日絶対に筋肉痛になるぞ。と思いながらその人の所を後にした。




 そして最後の家へとやって来た。


「ここは私の巫女としての先輩がいる家になります。私が里を出る前も体長が悪かったのですが、今は更に悪化してるらしいです」

「それなら最初に来た方が良かったんじゃないか?」

「その……弱ってる姿を見るのに心の準備が……」

「そんなに悪いのか?」

「はい……」


 魔法とて万能ではなく、病気には効かないという事になっている。ただ、ウィルスを殺すとか、痛みを感じないようにする処置は必要だけど、悪い場所を攻撃して消しそこを回復や再生させればなんとなる気もする。あくまで気がするだけで実際できるかどうかはわからない。


「それで心の準備は出来たか? もしダメそうなら待っててもいいぞ?」

「いえ、私も今はひとりではありませんから」


 そう言いながら俺とエリナを見る。そうだよね。というエリナが微笑ましい。さてお邪魔させてもらおうか。


「それじゃミヤビ頼んだ」

「はい」


 ミヤビは返事をすると戸を少し開いて中へと呼びかけた。そうするとトコトコと誰かがやって来た。


「あ、ミヤビお姉ちゃん」


 出てきたのは五、六歳くらいの女の子だった。ただ表情は暗い。おそらくこの子の母親がミヤビの巫女の先輩なんだろうと思うけど、旦那さんはどうしたんだろうか?


「カヤ、こんにちは。お母さんは起きてる?」

「うん……」


 起きてはいるけど……って事だろうか? かなり体調が悪いのかもしれない。


「そっか。案内してくれるかな? この方を紹介したいの」

「このお兄ちゃん?」

「町の人の話は聞いたかな? この方がユキト様なんだよ」

「え? ……あ、あの! お母さんを助けてください!」

「こら、カヤ!」


 神狐信仰は神様仏様と祈るものではない。日々努力してあなたに近づけるようにがんばります。どうかその姿を見守っていてくださいという感じなのだ。だからこういう神頼みをするのはよくないとされている。

 とはいえ、相手は小さい子供だし母親が大変なのだからそのくらいは許してやるべきだろう。


 ミヤビを目で制してから俺はしゃがんでカヤの頭を撫でた。とはいえ俺が今から言う事も大概だと思う。俺とて万能ではないのだ。


「カヤって言ったかな? 俺の名前はユキトだ。俺の力は万能じゃない。だから、助けられるかどうかはわからないけど、出来る限りの事はするよ」

「お願いします!!」


 仕方がない事とはいえ子供に絶望して泣きそうな顔をさせた罪悪感は半端ではない。何が何でも治してやりたいと思う。

 とはいえ医学知識があるわけでもない。魔法の可能性にかけるしかないという体たらく。それでも何とかして見せるさ。


 案内された先にいた女性を見た時、色々と思う事はあったがカヤという女の子の強さを見た気がする。もしかしたらただただ必死だったのかもしれない。認めたくなかっただけかもしれない。

 それでもこれだけ死を感じさせる雰囲気をまとった母親に気丈に接するのは立派なものだと思った。

 そして病気という理不尽に怒りを覚える。あっちに居た時に元気だった祖母が病気で倒れてその後しばらくして亡くなった。俺自身も病に侵され死にはしなかったけど色々な物を失った。そういった怒りが渦巻いていた。


「ユキトくん?」


 そう呼ばれてこちら側に意識を引きもどされた。危ない危ない。もし色々漏れ出ていたらカヤを怖がらせてしまっただろう。


「ごめん、考え事してた。それで?」

「ミヤビさんが呼んでる」


 ミヤビの方を見ると確かに呼ばれていた。軽く謝ってからミヤビの所へと行く。


「トウカさん。この方がユキト様です」

「こんにちは」


 俺は挨拶をして手を取る。こちらを見るが返事はない。いや、もう返事をするだけの力もないのだろう。まだ小さい我が子を残して逝かせる訳にはいかない。まだ小さいのに母親を亡くさせる訳にはいかない。


「死の運命なんてくそくらえ」


 俺はそのまま目を閉じて、取った手から魔力を少しずつ流し体の状態を確認して行く隅々まで俺の魔力を届けて悪い所を少しずつ確実に、体への影響を最小限にしながらしらみつぶしにしていく。治療とか難しい事はわからないがどこが正常じゃないのかはわかる。それを潰して回り回復させるただそれだけだ。

 時間の感覚がまったくわからない。ものすごい時間がたった気もするし、十数秒しかたっていない気もする。だが確実に体は回復してるはずだ。


 これで大丈夫だろうと目を開けると部屋の中が赤くなっていた。もしかして二時間近くずっと俺は治療をしていたという事だろうか?

 ミヤビの先輩でトウカと呼ばれていた女性を見ると、つぶっていた目が開かれた。治療中は寝ちゃっていたのかもしれない。そんな彼女の顔はまだやつれてはいたが生気は十分あるように見受けられた。


「体が……」

「どこか悪いですか?」

「いえ……体が動きます。体を動かしても痛みがありません……あ」


 久しぶりに体を動かしたからか、バランスを崩したようだった。なので支えて布団へと戻した。


「病気が治ったかもしれませんけど体はまだ疲れたままですし、体力や筋力は確実に落ちてます。少しずつになりますけど、日常生活がおくれるように鍛えてください。病気に関してはおそらくもう大丈夫ですから」

「はい、ありがとうございま」

「お母さん!」


 どうやら疲れて眠ってしまったカヤが目を覚ましたようだ。死にそうな顔をしていた母親が微笑みながら手招きしてる姿はなんとも言えない物だったのだろう。母親にダイブしようとしたので途中で捕まえた。


「え? あれ?」

「嬉しいのは分かるけどもう少し落ち着け。いきなり飛び乗ったら危ないだろ?」

「ご、ごめんなさい」

「さっきも言った通り嬉しいのは分かるけどな」


 そう言って俺は捕まえてたカヤを開放してやった。今度はゆっくりと近づき手を取る。


「心配かけたね。もう大丈夫だから」


 そう言われたカヤはわんわん泣き出した。それにしてもエリナとミヤビはどこへ行ったのだろうか?

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