23.ミヤビ
スイナさんの話を聞いた後、一応教会でも話を聞いてきたけど情報の確認ができたくらいだった。教会や聖教国の歴史まで聞かされて疲れた。
使徒の話を聞いてから三日経ち、俺が冒険者の本登録をして1ヵ月たった日の事。
森にあった集落は一通り潰し終わっていた。ジェネラルやキングの追加がないか期待したけどなかった。非常に残念だ。それでもゴブリンがわいてくるのが中々不思議だった。
そうしていつもの忙しくなる時間帯の前にやってきたのだけれどスイナさんが困惑気味に聞いてきた。
「ユキト君、たぶんユキト君を探してると思う人が来てるんだけど心当たりある?」
「特にないですけど、どんな人が来てるんですか?」
「見た事のない不思議な衣装を着てる狐人族の女性でね。私に、申し訳ありませんがあなたの親しい狐人族をご紹介いただけませんでしょうか? って聞かれたんだよ。一度は断ったんだけど、なんだか必死だったから教える事になっちゃって……」
見た事のないと言えば前世の服かと思ったけど、前世の服を着てる可能性のある人って使徒くらいしか思いつかない。だけど使徒が急に王都に来るとは考えにくい。それに狐人族を探してるのが気になった。……狐人族?
「会ってから判断します。それより不思議な衣装って言いましたけど、上は白でこう重ねるように着ていて袖が垂れ下がっている服で、下が緋袴……赤系のスカートみたいなものはいてませんでした?」
「うん、そんな感じの服だったね。ユキト君知ってるの?」
「前に言った知識からの情報ですね……。おそらく問題ないと思いますよ」
「そう……それじゃ案内するね」
狐人族の巫女装束の女性となればおそらく思っている通りの場所から来た事になる。もしかしたら来るかな? とは思っていたけどこうして来ると彼らの思いの強さを感じたような気がした。しかし、この短期間でどうやって見つけたのだろうか?
部屋の扉を開くと狐人族の女性が正座をして待っていた。俺が入ってきたのを確認すると体を倒し礼をして体を戻した。キレイな座礼だったけど、エリナとスイナさんはは見慣れぬ光景にポカンとしている。
「本来であればお住いの方にご挨拶にいかせて頂きたかったのですが、そこは宿で部屋も満室との事。容姿もお名前もわからなかった為にこのような形になってしまった事をお許しいただけたらと思います」
「気にしないでください。それよりも名前を聞いてもいいですか?」
「名乗らず申し訳ございません。私の名はミヤビと申します。私はあなた様に仕える為にこの場に来ております。どうぞ普段通りの話し方でお願いいたします」
「ふぅ……わかった。俺の名前はユキトだ。とりあえずミヤビ立とうか?」
そう言って手を伸ばすとその手を掴んでいいものか一瞬悩んだが、手を取らない方が失礼だと考えたのか手を取ってくれたのでそのまま引っ張り立たせた。
そしてエリナとスイナさんは完全に置いてけぼりをくらってる。
「わざわざ手をお貸しいただきありがとうございます」
立ち上がったミヤビを見る。狐人族では多いキツネ色の髪と毛、ポーニーテールの髪型。背の高さは俺よりも少し低いくらいで、胸は立派です。スイナさんが世話焼きのお姉さんって感じなのに対してミヤビは優しく見守ってくれているお姉さんといった感じだ。
「これくらいは気にしないでくれ。それと今後一緒に行動するつもりなんだろ? だったら堅苦しいのはなしだ。だけどその前にエリナ」
「え? えっと何?」
「彼女が俺に仕えたいって言ってる。意味は後で説明するけど、つまりは仲間になりたいって言ってる訳だ。エリナはどう思う?」
「え? でも、私は関係あるのかな?」
「恋人でパーティメンバーなんだから、新しいメンバーしかも女性を入れる事にたいして意見を求めるのは当然だろ?」
「うん、そうだね。そうだけど……どうしたらいいんだろう?」
エリナがどうすればいいのか悩みだしたので、ミヤビの方を見る。これで気が付いてくれるといいんだけどと思っていると、俺の言いたい事に気が付いたのかエリナに声をかけた。
「少しよろしいでしょうか?」
「え? あ、はい」
「紹介が遅れて申し訳ありません。巫女をしておりますミヤビと申します。この度は突然押しかけてしまい申し訳ありませんでした。もしよろしければパーティに加えてはいただけませんでしょうか? どうかよろしくお願いします」
そう言って深々と頭を下げる。エリナは相手が深々と頭を下げた事で慌てていた。だとなんとなくこのまま押し切られそうな気がしたけどそこに割って入ってきたのはスイナさんだ。
「なぜ、そこまでしてユキト君にこだわるのですか? その理由をお聞きしても?」
「そうですね。私の住んでいた場所では昔からある存在を祭り、神として崇めてきました。その存在と言うのが人の身でありながら神へと成ったという神狐様です。その神狐様を神として崇める神社の巫女が私となります」
「よくわからない単語もあるけど、それがユキト君とどう関係しているの?」
「私達は一ヶ月ほど前、神狐様の存在を感じ取る事ができました。そして神狐様にお仕えするために私は送り出され、その存在を感じ取り続け辿り着いた先に居られたのがユキト様なのです」
一斉に俺に視線が向く。今まで一緒にいた人が神様なのです。なんて言われたらそりゃ見るよな。
「ユキト君……それ本当?」
「自分の種族を確認する方法がないので証明するのは難しいですし、神様になったつもりもないですけど、神狐であるとは思いますよ。だからこそミヤビが来てるわけですし」
「そうだとして、ユキト君がすでに受け入れ態勢なのはどうして? 美人だから?」
ピクッとエリナが反応した。それもない事はないけどそもそも決めてあったと言うのが大きい。それに近くにいると色々と気が付いてしまう事もある為、遠ざけるという選択肢が選べなくなっていた。
「まず最初に、前に言った知識で彼女のような存在が俺の所に来る可能性はずっと考えていました。そして来たら受け入れようと決めてました。それに期待して送り出した者が一人で帰ってきたら里での肩身が狭くなるでしょうしね。それとこうして会って気が付いたんですけど、一応神の名があるくらいなのか彼女からの信仰されてるって事で繋がりがった感覚があるんですよね」
「ユキト様と会ってから感じるこの不思議な力はユキト様が授けてくださったのですか?」
「どっちかと言うとミヤビが信仰によって道を作り、俺に繋がったから加護とかそういう形で力が流れてるんだと思う」
そういうとミヤビは俯き静かに涙を流し始めた。これに驚いたのは俺だけじゃなかった。今のどこに泣く要素があった? 加護っぽいものがついたからか?
「……私達里の者たちはずっと神狐様を崇めてまいりました。それがこのような形でそれを確認できるなんて思ってもみませんでした。すぐにとは言いません。いずれ里にもお越しいただけたらと思います」
「こっちので生活が安定したらいずれ行ってみたいと思ってたから、行くのはいいけどそれよりも先にやる事があるだろ?」
「そうでした。どうか私をこの方の下にいる事を許してはいただけませんでしょうか」
そしてまたエリナに対して頭を下げる。エリナは目をつぶって大きく深呼吸をした。
「ミヤビさんの気持ちはわかりました。これからよろしくお願いします」
「よろしいのですか?」
「涙を流すくらい嬉しかったんですよね? そんな人を拒めません」
どうやら話はまとまったようだった。良かったけどその後の色々な問題を話し合わなければいけない。
「そういう訳でミヤビも仲間になったし、気軽に話していいからね。むしろしてください。それでミヤビってランクいくつなの?」
「私は一級ですが……不足でしょうか?」
「思いっきり俺達の方が不足だな……。まだ七級だし……。スイナさん、この場合ってどうしたらいいと思います?」
「組むこと自体は問題ないけど、ギルドとしては同じランクの人とって言うところかな? とはいえ、ランク詐欺のユキト君とランクと実力が合わなくなりつつあるエリナちゃんが一緒だからいいかな。でも、高いランクの依頼は受けられなくなりますけどミヤビさんはそれでいいですか?」
「構いません。ランクを上げたのは元々修行の一環ですし、その修業は全て神狐様……ユキト様の為にしたことですから」
重い気がするが心強い仲間が増えた事に変わりはない。今まで出来なかった訓練も出来るようになるだろうし、女同士でしかできない話もあるだろう。そういう意味でも助かったと思える。
「それじゃ、パーティ登録お願いします」
「わかった。それじゃあカード貸してもらえる? 登録して来ちゃうからね」
「お願いします」
スイナさんが出て行ったので俺はまず最優先で決めなければいけない事を決める事にした。
「それでエリナ、ミヤビ。大至急決めなければいけない案件がある」
「何?」
「何でしょうか?」
「ミヤビが最初に言ったよな? 宿が満室だったって。宿はどうする?」
「「あ」」
今いる宿は満室となれば別の宿に移らないといけない。宿自体はスイナさんにどこかまた紹介してもらえばいいんだろうけど、問題は部屋割りだ。どういう案ならみんなが納得できる案になるだろうか。
「宿自体は後でスイナさんに聞けばいいと思うんだけど、部屋割りはどうする? エリナとミヤビで一部屋、俺が一部屋ってのがいいと思うんだけど」
エリナはミヤビをチラチラ見ながら自分の意見を言う。
「私はその……出来ればユキトくんと一緒がいいな」
「三人一緒では不都合な事があるのですか?」
そして、不思議そうな顔をして一緒でいいと言うミヤビ。あれ? おかしいのは俺なのか? 男女別って普通思うよね?
「えっと、それが……いいのかなぁ」
エリナの返事はどうにも歯切れの悪いものだった。それを聞いたミヤビは何かに気が付いたようだ。
「なるほど、私はある程度でしたら音を消せる結界を張れますので夜は安心していただいていいですよ。それとも私にも情けをいただけますか?」
「ミヤビ? まださっき会ったばっかりだけど……」
「私は元々神狐様に全てを捧げるつもりでした。しかしユキト様に出会い、その人柄に触れ、これほど暖かな力を私にいただきました。この身、この心、その全てをあなた様に捧げます。ですから、私にもしていただけるなら至上の喜びです」
「エリナはどう思う?」
俺としてはいきなり三人でとかになるとは思ってもおらず、もしかしていずれはとか思っていたけどそれでも、それでも最初からとか思わないですよ? 普通はこうもっと理想の神狐像があって、その差を埋めながら仲良くなっていくものじゃないんでしょうか? そして俺の期待は裏切られる。なぜかエリナはミヤビの手をがっちりと掴んでいた。
「ミヤビさん、一緒にがんばりましょう」
「エリナ様……いいのですか?」
「様なんていらないです。ううん、いらないよ。エリナって呼んで」
「エリナ?」
「うん、一緒にユキトくんの為にがんばろ」
「はい、よろしくお願いしますね。エリナ」
「うん」
「これはどういう状況なの?」
帰ってきたスイナさんが現状を見て首をかしげる。それはそうだろう。エリナにとっては間に入ってきたお邪魔虫にも見えるミヤビの手を握り、一緒にがんばろうと言っているのだ。実力を考えればミヤビに軍配が上がる。途中から話を聞いた人にはまったく理解できない光景だろう。夜の協力体制を整えたなどと誰が思うのか。
「スイナさん、とりあえず新しい宿紹介してもらえませんか? 色々困りそうなんで」
俺にはそう言うしかなかった。




