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外伝 おでんと海賊と、時々AG

 東間総理とペルル王女の会談が成功を収めた翌日から、大和皇国はアリガ王国との接触に向けて本格的に準備を始めた。

 調査船団から提供してもらった海図及びエウローパの地図を基に、大和皇国独自の地図の作成。

 国交樹立の準備に向けて派遣する外交団の人員選定や、護衛として派遣する軍の戦力等々。

 今後の国の命運が掛かっている事から、それまでになく忙しい日々が始まる事となった。


 そんな中、生き残ったララ・クローン号の船員や冒険者達から、大和皇国とアリガ王国との間に横たわる大海の情報収集を行った際。

 同海には、今回ララ・クローン号を襲撃した海賊団以外にも、点在する島々を根城にする幾つかの海賊団が活動している事が判明した。

 そこで、対策会議での話し合いの結果、国交樹立後の海上航路の安全を鑑み、同海の安全確保の為これら海賊団の無力化が決定された。

 アリガ王国との接触に先んじて、そちらの準備が進められる事となった。


 帝都に隣接する県の一つ、房総県。

 その県内に設けられた捕虜収容所の一角において、その為に必要な情報収集が行われていた。


「さて、素直に話してくれれば、私も手荒なことはしないんだが?」

「誰が、貴様らのような得体のしれない連中に仲間を売るものか!」

「成程、その気概は誉めてやろう。……"コレ"に、耐えてもなおそう言えるだけの口があるのであれば、な」


 それを任されていたのは、誰であろう真鍋大尉であった。

 真鍋大尉は頑なな態度をとる海賊を他所に、部屋の一角に設けられたガステーブルに近づくと、何やら温められている大きな鍋の蓋を開ける。

 すると、内部に籠っていた熱々の湯気が一気に立ち上り、ぐつぐつと沸き立つ出汁の音が響き渡る。


「ふふふ、さーて、どれにしようかな?」


 口元に薄笑を浮かべながら、鍋の中のものを選び始める真鍋大尉。

 そんな真鍋大尉の横顔を目にした海賊は、底知れぬ恐怖を感じ取る。

 あの鍋の中には悪魔が住んでいる、そんな気がしてならなかったからだ。


「決めた。これにしよう」


 そして、真鍋大尉は徐に箸を手に取ると、徐に鍋の中から何かを取り出した。

 取り出されたのは、白くて太いギザギザの筋が入った棒状の物体。

 十二分に煮込まれているのか、その物体からは湯気がもうもうと立ち上っている。


「な、なんだそれは!!?」

「これか? これは"ちくわぶ"と言って、"おでん"には欠かせない具材の一つだ」

「そ、それをどうする──、っ!!?」


 刹那、不意に屈強な海兵二人に体を拘束され、自由を奪われる海賊。

 そんな海賊に、箸でちくわぶを持った真鍋大尉が、薄笑を浮かべながら一歩、また一歩と近づく。


「や、やめろ! く、来るなぁっ!!」

「そう言うな。折角の"熱々"だ・か・ら、食べさせてやろう。はい、あーん」

「や、い! ギャ――ッ!!!」


 無理やり口を開けられた海賊が最後に目にしたのは、立ち上る湯気と、その先にうっすらと浮かんだ、真鍋大尉(死神)の冷笑であった。



 一方、真鍋大尉の情報収集の様子を、部屋の前の廊下から見守っていた石坂軍曹、藤沢伍長、平山伍長の三人。

 三人は、部屋の中から聞こえる海賊の悲鳴に、各々感想を漏らす。


「相変わらず、聞いていてあまりいい気はしませんねぇ。これには流石に、眠気も吹き飛びます」

「でもさ、いいのかな? アレって、確か条約違反じゃないの?」

「ここは地球じゃねぇからな、条約がなきゃ、条約違反でも何でもねぇさ」


 と、悲鳴が聞こえなくなり、程なく部屋から真鍋大尉が出てくる。


「ちっ! やはり箸では細かな力加減がかけ辛いな」

「首尾の方はどうです、中隊長殿?」

「本番はこれからだ。……おい! "串"を用意しろ!」

「は!」


 近くにいた海兵に指示を飛ばす真鍋大尉。

 刹那、その指示の内容を聞いた三人の表情に、緊張が走る。


「おいおい、マジかよ」

「中隊長、ちょっと飛ばし過ぎじゃない?」

「これは、海賊の人たちに少し、同情しちゃいますね」


 程なく、戻って来た海兵から串を受け取った真鍋大尉は、悪魔のような笑みを一瞬浮かべると、再び部屋の中へと姿を消した。


 その後、部屋から幾人もの海賊の悲鳴が響き渡るのと引き換えに、真鍋大尉は捕虜の海賊から必要としてた情報を引き出す事に成功するのであった。





 こうしてララ・クローン号を襲撃した海賊団の根城の他、他の海賊団の根城の情報を手に入れた大和皇国は、海賊団の無力化作戦を発動。

 真鍋大尉が仕入れた情報を基に、空軍の運用する偵察機の一種である"一〇〇式司令部偵察機"による航空偵察によって根城の地形等の情報収集を実行。

 そして、必要な情報を手に入れた後、遂に大和皇国軍は各海賊団の根城に対する攻撃を敢行する。


 水平線上より姿を現した、今まで見た事のない、鋼鉄の巨大な艦影の群れ。

 そこから飛来する巨大な砲弾、火山の如く轟音と共にそそり立つ火柱、木々を軽々となぎ倒す衝撃波。

 数分前までの美しき海岸が一転、地獄と化した海岸に、海より異音を轟かせ、"それ"は姿を現した。


「な、何だありゃ!?」

「亀か!?」

「カニか!?」

「いや、海坊主だろ!?」


 白波をかき分け、程なく海岸に上陸しその姿を現したのは、一見すると船のような形状をした鋼鉄の怪物。

 下部に履帯を有し、上部に47mm戦車砲を備えた砲塔、その背後に水上用煙突を有している。

 そして、前方及び後方に接続されていたフロートが、甲高い金属音を立てながら切り離されると、怪物は遂に真の姿を現す。


 その姿はまさに戦車そのもの。

 そう、これこそ大和皇国海兵隊が実戦データの収集を兼ねて、今回の無力化作戦に投入した水陸両用戦車。

 モデルとなった大日本帝国海軍開発の同車と同じ名を持つ、"特三式内火艇"である。


 砲撃から奇跡的に生き残り、船から戦車へと変形を遂げた特三式内火艇の姿を目にした海賊達は、始めて見るその姿にただただ呆然とする他なかった。

 だがそれも束の間、特三式内火艇の主砲である47mm戦車砲がそんな海賊たちに狙いを定めると、刹那、47mm戦車砲が火を噴く。

 次の瞬間、数人の海賊達を常世へと案内する。


 仲間の無残な最期を目にし、漸く我に返った残りの海賊達だったが、そんな彼らの目の前に、別の特三式内火艇が姿を現し、無情な死の宣告を奏でる。

 そう、上陸したのは一輌だけではなく、三輌いたのだ。

 三輌の特三式内火艇は砂埃を巻き上げながら海岸を縦横無尽に駆け、程なく一帯の制圧を完了すると、後続である本隊の上陸支援の為、周辺の警備に移行する。


 こうして安全を確保された海岸に、後続本隊が上陸を始める。

 小発動艇等の上陸用舟艇に混じり、多数の海兵を載せた、小型船に履帯が取り付けられたような外見を有する物が間をすり抜け。

 程なく、水深の関係で上陸できない上陸用舟艇を他所に、何事もなく上陸を果たす。


 これも、今回海兵隊が実戦データの収集を兼ねて作戦に投入した新兵器の一つ。

 第二次世界大戦時のアメリカ海軍並びに海兵隊が運用した水陸両用車、|LVT《Landing Vehicle Tracked》のバリエーションの一つ、LVT-4をモデルとするその名を、"三式水陸両用装軌車"。

 エンジンなどを車体前部に搭載した配置から、多数の兵員のみならず、小型の車輛などを車体後部の大型ランプドアから搭載可能な性能を持つ、海兵達の新しい足の一つだ。


 これらの車輛を有し、更には格段の性能を有する銃器を持つ大和皇国海兵隊を前に、海賊たちは文字通り蹂躙されていく。

 程なく、残った海賊たちが降伏し、ここに一つの海賊団の歴史に終止符が打たれた。


 否、時を前後して、今回の標的となった各海賊団の歴史に終止符が打たれたのであった。




 二日後。

 ちょっとした冒険に出かけていた間に溜まっていた書類仕事を片付けるべく、九十九は国防省本庁舎内にある自身の執務室で、執務机の上に置かれた書類の束と、ペンを片手に格闘を繰り広げていた。

 そんな彼のもとに、伊藤大将がその手に、湯気の立つティーポットや茶菓子のカステラが盛られたお皿、等を乗せたティートレイを持って現れる。


「錦辺司令、一息ついては如何でしょう?」

「ありがとう、伊藤副司令」


 手際よく、ティーポットからティーカップに黄金色に輝く紅茶を注ぐ伊藤大将。

 その様は、海兵というよりもまさに執事と見紛う程、様になっていた。


「今日はアッサムの新芽をご用意しました、カステラと共にお楽しみ下さい。牛乳もご用意いたしましたので、お好みでミルクティーとしてお楽しみいただいても構いません」


 執務机の上に置かれた、香り立つティーカップとカステラ、それに牛乳の入った小型の水差しことクリーマー。

 九十九は早速ティーカップを手に取ると、上品な香りを堪能し、一口飲む。

 刹那、口の中に広がる優雅な甘みが、書類仕事に追われていた自身の疲れを癒していく。


「伊藤副司令の淹れてくれる紅茶は、相変わらず、文句の出ない程最高だね」

「恐れ入ります」


 こうして伊藤大将の用意した紅茶とカステラで暫し至福の一時を堪能した九十九は、やる気を充電し終えると、再び仕事に向き合い始める。


「錦辺司令、こちら、先の無力化作戦の報告書になります」

「ありがとう」


 伊藤大将も空になった容器を片付けると、自身も九十九の副官としての役割を果たすべく、気持ちを切り替える。


「大破こそありませんでしたが、数輌の車輛に損害が。また、海兵に関しても、負傷者が合計で二十名強、内重傷者は七名。また戦死者五名となっております」

「そうか……」


 被害の書かれた報告書に目を通し、九十九の表情が少々強張る。

 大和列島制圧の際も、何度もこの手の報告書には目を通してきた、当初はこれが現実の戦争なのだと、心を痛めていたが、最近では当初ほど心が痛むことも少なくなっていた。

 これが"慣れ"なのだな。と、九十九はこの二年間の間で随分と戦争という狂気に慣れてきたことを改めて実感しつつ、そんな自身の変化に、恐怖を覚えるのであった。


「それから、"例の石"の出所に関するご報告ですが。残念ながら、決定的な手掛かりとなる物は得られなかったと」

「……」


 例の石、それは竜の息吹の事であった。

 事の発端は、ララ・クローン号救援後、海賊船から回収した謎の石の正体を確かめる為、ヒルデに確認を取ってもらった事から始まる。

 その回収した謎の石こそ竜の息吹であり、ヒルデの説明により、九十九は竜の息吹がどの様な価値のある魔石かを知る所となった。


 そして、何故厳格な管理のもとにあった竜の息吹を海賊が所有していたのか、その調査が始まった。


 先ずは、救援の際に捕虜とした海賊団の団員達から聞き取りが行われ、そこで幾つかの事実を知る。

 それが、竜の息吹は奪ったものではなく何処からか手に入れたものである事。

 しかし、その入手経路については、海賊団の頭目以下幹部の数人のみしか知らぬが、その頭目以下幹部の殆どが、救援の際の戦闘で死亡が確認された事。

 この事実を知った時、九十九はあの大部屋で海賊団の頭目を射殺した事を後悔したが、直ぐに頭を切り替え、諦めず調査を継続した。


 そして今回、ララ・クローン号を襲った海賊団の根城から手掛かりとなるものを得るべく、制圧部隊に先んじて第一〇一武装偵察部隊の第一中隊を派遣していたのだが。


「頭目の私室を捜索しましたが、入手経路につながる書類等はなく。また、唯一幹部の中で生き残っていた人物ですが、救援作戦の三日後に自害したとの事です」

「……」


 残念ながら決定的な手掛かりは得られず、調査の進展はなかった。


「分った。では、本件は引き続き"戦略情報局"と協力して調査を続けてくれ」

「了解いたしました」


 だが九十九はここで調査を打ち切る事無く、更なる継続を指示する。

 因みに戦略情報局とは、国防省の外局の一つであり、情報の収集・分析等を行う、所謂情報機関である。


「それでは続いて、今回作戦に投入しました特三式内火艇と三式水陸両用装軌車に関してですが、良好な実戦データが取れました。今回収集したデータをもとに問題点を修正し、本格的な量産、部隊への配備を進めます」

「分かった」

「それと、データの収集に関して、装技研の第一部局と第二部局から感謝の言葉が届いております」


 装技研は、幾つかに分れた部局が各々担当する装備の開発を行っている。

 第一部局が陸上装備、第二部局が海上装備、第三部局が航空装備、第四部局が特殊装備、第五部局が電子通信装備、第六部局が航宙装備という具合だ。

 そして、今回の特三式内火艇と三式水陸両用装軌車に関しては、その性質から第一部局と第二部局の合同チームが担当しており、故に二つの部局から感謝の言葉が届いたのだ。


「そうだ、装技研と言えばAGの件はどうなったんだろう……」


 装技研の話題の中で、九十九はふと、装技研によるAGの調査の件を思い出す。

 ペルル王女の許可をいただき、救援の感謝の印として大和皇国側に供与いただいた、四機のAG、カルヴァド。

 ララ・クローン号より陸揚げされ、地球の技術体系にはない、全く新しい、純粋な異世界の技術の産物をその目にした野口装技研長官の興奮ぶりは、今でも鮮明に覚えていた。


「そういえば、装技研において新たに"第九部局"なる部局が発足したと聞き及んでおります」

「第九部局?」

「何でも、異世界の技術に頼らぬ、我が国独自のAGを開発させるべく、各部局から選りすぐりの局員を選んで発足したものとか」

「あはは……、成程」


 実は、数日前に関係各所に送られた、第一弾となるAGの調査報告書にて、AGの魔水晶機関の起動には、操縦者の保有する魔力が必要不可欠である事を、九十九は既に目を通して知っていた。

 しかし、理由は不明ながら大和皇国の国民においては、一切の魔力を有していない為に起動することが出来ず、結果としてAGの使用は不可能である。

 という記載が、報告書内に記載されていた。


 だが、野口装技研長官はそれで諦めるつもりはなかったようで。

 既存のものが駄目ならば、大和皇国の技術で再現した、魔力が無くても使えるAGを作り出せばいい。

 との結論に至り、専用の部局まで発足させたようだ。


「でも、何となく野口長官の気持ちは分かる気がする」


 ロボット兵器は漢の浪漫。

 九十九は同じ男として、野口装技研長官の気持ちに対し少しばかり共感の言葉を零す。


 その後も細かな報告を聞いた後、九十九は再びペンを片手に、書類の束との戦闘を再開するのであった。

この度は、ご愛読いただき、本当にありがとうございます。

そして今後とも、引き続きご愛読いただければ幸いです。


感想やレビュー、評価にブックマーク等、もしお気に召しましたら、皆様からの温かな応援、よろしくお願いいたします。

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