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「……ウジウジしても状況は解決しない。ポポは生きているんだ。」

 

 俺は洗面所の鏡に向かってそう言い聞かせた。

 鏡の中の自分はまだ酷いツラをしていたが、目は死んでいないはずだ。


 何かしないと焦燥感で胸が縮められる。

 

(……焦っちゃだめだ。まずは情報の整理をするか……)

 

 イヴの攻撃は、超高速で射出される魔導ワイヤーと、それらを自在に枝分かれさせて相手を拘束・破壊する「予測演算」。

 

 まともに避けるのは無理だ。あいつの演算速度に、俺の反応速度や今のガタガタなステータスじゃ追いつけない。

 

「だったら……あいつの賢さを逆に利用する構造を組み込むしかねぇ」

 

 俺は部屋に戻り、机の上に広げたノートにペンを走らせる。

 

 核は見えてくるが、これは机上の空論だ。

 だが、名前は、もう決まっている。

 

「待ってろよ、イヴ。……次は『肆型』だ。お前のその綺麗な演算を、泥沼に引きずり込んでやる」

 

 俺は再びVRゴーグルを手に取った。

 

「ログイン――」


「……さて、再開リベンジといこうぜ」


***

 

「まず、土台となる特殊外装魔道具だな」


「ランタンを土台にスカイ・コアの魔力回路を再現すればいいのか」


 あいにく、魔力回路をおぼろげながら覚えている。


 この記憶力が勉強に生かせないのは皮肉なもんだ。


 俺は宿屋の片隅で、メニュー画面に這わせた。

 デスペナルティによる全ステータス30%ダウン……本来なら「何をやっても無駄」な状態。

 

「完璧な計算が読まれるなら、俺は『不確実さ』で勝負してやるよ」

 

 俺は手近なランタンを机に置いた。

 これを土台に、あのおぼろげな記憶にある『スカイ・コア』の魔力回路を強引に作り出す。

 

構造解析ディープ・スキャン――成功≫

 

 網膜にランタンの透過図が重なる。熱を持ち、ノイズの混じった視界。

 次に、無理やり回路を割り込ませた。

 

魔導回路リベリオン・リンク――成功≫

 

 バチバチと青白い火花が散る。回路が悲鳴を上げている。成功率4割以下のギャンブル。システムが「失敗」と判定しようとするたびに、俺の手の震えが、逆に予測不能な位置へ魔力を着弾させていく。

 

「最後に……これで繋がれ! 」


異物接合ジャンク・バインド――成功≫


 カチッ……。

 

 一瞬の静寂の後、不格好なランタンが、心臓の鼓動のように脈打ち始めた。


○○○

 

【|嵐を穿つ者・肆型(ヴォルテックス・ブレイカー・MK-IV)】

• 種別: 特殊外装魔道具(粗悪品)

• 効果:パッシブ『最速飛行の持ち主』を検知。最大速度がさらに5%まで開放される。

• 備考: 外見は、もはやゴミの塊だが、内部の魔導回路は迷路のように歪んでいる。

 

○○○

 

 「……よし、まずは『飛ぶための器』は確保した」

 

 俺は不格好に脈打つランタン――肆型を手に取り、宿屋の作業台に転がっている「ゴミ」を睨みつけた。

 今の肆型は、単に「飛ぶ機能が辛うじて生きてる」だけのランタンだ。このままじゃ、イヴの腕に触れる前にまた叩き落とされる。

 

「ポポを助け出すには、あいつの腕を封じ込める『武装』が必要だ」

 

 俺は、現実世界でシミュレートした絡まる釣り糸とゴムの構造を、この肆型の外装にどう組み込むか思考を巡らせる。

 

 MPは残り54。デスペナルティのによる成功率の低下は続いているが、逆にその「不安定な魔力」こそが、イヴの計算を狂わせる鍵になる。

 

「……あいつの腕が『速すぎる予測演算』に基づいているなら、こっちは『物理的なもつれ』で対抗してやる」

 

 俺は周囲のガラクタから、錆びたワイヤーと、折れ曲がった細い真鍮の棒をかき集めた。


異物接合ジャンク・バインド――失敗≫

異物接合ジャンク・バインド――失敗≫

異物接合ジャンク・バインド――失敗≫


「おい、まじかよ……」


 さっきの運の良さとは裏腹にすべてが失敗に終わった。


 (こんな時に参型が頭によぎるのは俺の弱さだな……)


 リベンジのために残りの資材を叩き込んだ結果が、このザマだ。今の肆型には、武装もなければまともな防御機能もない。

 ただ少し早く動くだけの、不格好なランタン。

 

「……ハッ、笑えるな。あんなに考え込んだのに、手元にあるのはただのゴミだ」

 

 ステータスダウンのせいで体は重いが、指先は幸いなことに動く。工作が失敗したのは、デバフのせいというより、単純に俺の運とスキルの成功率の問題だ。

 

「……これ以上ここで足掻いても無理だ。俺の相棒――ポポがいないと始まらないしな」

 

 俺はひしゃげたレンチを握り直し、腰に「未完成の肆型」をぶら下げた。

 

 俺は、肆型の微かな明かりを頼りに、整備用通路へと足を踏み入れた。

 

「……ポポ、どこだ」

 

 壁に手を当て、耳を澄ませる。もちろん返事はない。

 それどころか、巡回している敵にやられないかが一番怖い。


「……マップ。そうだ、マップを確認してない」

 

 俺は暗い整備通路の隅で、空いている左手を使ってメニューの「マップ項目」を叩いた。


【エリアマップ:島14】


 そこには白い点があった。俺が一歩進むたびに少し動く。おそらくここが現在地だな。


 そのほかにも、赤い点があった。


「……動かない赤い点。敵の反応にしちゃ静かすぎる」

 

 俺はマップの透過ウィンドウを睨みつけた。

 通常、アクティブな敵なら巡回ルートを動くはずだし、もしイヴならもっと巨大な、あるいは警告色のアイコンで表示されるはずだ。


「もしかして……無駄足でもいい。突き当たりを、右だな」

 

 マップの赤い点を見つめながら、俺は迷わず足を進めた。

 

 整備通路は入り組んでいるが、幸いにも巡回ドロイドの足音は遠ざかっている。肆型の不安定な明かりが壁をなめるように照らし、埃っぽい空気を切り裂いていく。

 

 突き当たりの重厚な鉄扉を横目に、俺は右へと折れる。


 部屋の隅、作業台の下に隠されるようにして、マップに記された「赤い点」はあった。

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