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本日、2話更新します!
「……ポポ、突っ切るぞ! 参型の出力、全部持っていけ!」
「……ラジャー!……クンペイ、前、敵、イッパイ!」
観測塔の最上階から、無数の飛行ゴーレムがこちらに向けて赤い光を放ち始めた。
レーザーによる弾幕だ。
普通の人間なら回避不能、あるいは防御魔法で耐える場面だが、俺には『参型』と、さっきの現実世界で研ぎ澄まされた感覚がある。
「……見える。 隙間が!」
俺はレンチを握りしめたまま、参型の重心を左に傾けた。
ヒュン、と。
頬のすぐ横を赤い熱線が通り過ぎ、焦げた匂いが鼻を突く。
「……ネジが三本、飛んだな」
俺は冷静に被害を把握しつつ、さらに加速。
風圧で歪む視界の端、しがみつくポポの小さなアームが震えているのが分かった。
「大丈夫だポポ、信じろ!」
叫びは嵐に消えたが、俺は無理やりスロットルを押し込んだ。
「ラジャー!」
俺たちは、迷いのない一筋の槍となって塔のバルコニーへと飛び込む。
ドォォォォォン!!
轟音と共に、参型の足がバルコニーの石床を削りながら停止した。
火花が飛び散り、パッチワークの装甲がいくつか剥がれ落ちた。
「……ゲプッ。……食ったばかりのカップ麺が出そうだったぜ……」
「……クンペイ、生キテル?……ポポ、目、回ル……」
目の前には、豪華な装飾が施された最上階の広間。
そこには、俺が予想していた「化け物」でも「古代の兵器」でもなく――
椅子の背もたれに深く腰掛け、宙に浮くホログラムのチェスを弄んでいる「一人の少年」がいた。
人間と見紛うほど精巧な肌の質感。だが、関節の動く角度や、瞬き一つしないその瞳は、この世のどんな工法でも再現不可能な「完璧すぎる造形」だった。
その少年の胸元には、奪われたはずの『パーツ』が、アクセサリーのように無造作に飾られていた。
「……また来たのか。懲りないね、ポポ」
その声は、ポポのような電子音ではなく、驚くほど自然な少年のものだった。だが、そこには機械的な冷酷さが混じっている。
「それに、そっちの君が『新しいマスター』かい? そんなガラクタを必死に直してここまで来るなんて、随分と物好きだ」
「……兄サン。……パーツ、返シテ。主サマ、目覚メサセル」
ポポが絞り出すような声で言うと、兄と呼ばれたドロイド――『イヴ』は、鼻で笑って胸元のパーツを弄んだ。
「主様? あんな、自分たちを捨てて眠り続けるだけのガラクタをかい? 悪いけど、この島はもう僕が『整理』したんだ。不要なものは排除する。それが今の僕のプログラムさ」
イヴが冷たく言い放った瞬間、彼の右腕が不自然に「伸びた」。
「……ッ!? 『参型』、回避だ!」
俺の叫びよりも早く、イヴの腕が蛇のようにしなりながら迫る。
それは単に腕が伸びているのではない。肘から先のパーツが瞬時に分解され、内部の魔導ワイヤーで繋がったまま、超高速の「節棍」と化して打ち出されているのだ。
ガギィィィィィィィン!!
参型が急加速し攻撃を避ける。
だが、衝撃波がこれまでの敵とは次元が違った。風圧を推進力に変える余裕などない。ただの波が、参型の「継ぎ接ぎの装甲」を容赦なく叩き潰す。
「あはは、反応はいいね。でも、構造が単純すぎるよ」
イヴが指先をひょいと動かす。
伸びきったはずの腕が、空中でさらに「枝分かれ」した。
イヴの魔導ワイヤーに引かれ、独立した触手のように参型に絡みつく。
「しまっ――」
「バラバラになれ、ジャンク品」
イヴが腕を引き戻した瞬間、凄まじい張力が参型を襲った。
ただの力じゃない。接合部のボルト一つ一つに、逆方向の回転を与えるような精密すぎる「解体」の衝撃。
俺が現実の知恵を絞って作った『構造的柔軟性』が、イヴの計算され尽くした「引き剥がし」の力によって、限界を超えて悲鳴を上げる。
バキバキ、と嫌な音が響く。
「クンペイ、アブナイ!!」
ポポが叫び、イヴに向かって体当たりをかまそうとする。
だが、イヴは空いた左手で、ポポの顔面を無造作に掴んで床に叩き伏せた。
「邪魔だよ、不良品の弟」
ガシャッ、とレンズが割れるような嫌な音が響く。
「……ア、ガ……クン、ペイ……ニゲ……ッ」
踏みつけられたポポの声がノイズ混じりに途切れる。
「ポポ!!」
俺がレンチを構えて飛び出そうとしたその時、参型の脚部が耐えきれず弾け飛んだ。
バランスを崩した俺の胸元に、イヴの「指」の一本が、槍のように鋭く突き刺さる。
「……あ、が…………」
視界が急激にノイズで埋め尽くされていく。
HPバーが一瞬でゼロを割り込み、警告のアラートが耳の奥で遠のいていく。
「……また、ガラクタを集め直してくるといい。……次があれば、だけど」
イヴの冷たい声が最後だった。
世界が反転し、強烈な浮遊感と共に俺の意識は暗転した。
≪デスペナルティ:全ステータス30%ダウン(24時間)≫
*
ログアウトする前の宿屋に戻された。
「ポポ……?」
辺りを見渡すが、あの小さな案内ドロイドの姿は見当たらない。
耳の奥に残っているのは、爆発音の残響と、ポポが呼ぶ声だけだ。
さっきまで背中に感じていた参型の駆動音も、ポポの頼りないアームの感触も、今はもうどこにもない。ただ、古びた断熱材の湿った匂いだけが立ち込めていた。
「そうだ。ステータスオープン――」
○○○
【パーティー】
1.クンペイ(デスペナルティ:全能力-30%) 現在地:島14・宿屋
2.ポポ(行動不能) 現在地:島14
○○○
「よかった、消滅はしてない……。でも、待て。そういえば『参型』は……?」
宿屋のベッドで、俺はインベントリを何度も見返した。
ポーチを確認しても、中には使い古したレンチが一本あるだけ。
参型を構成していた『嵐を喰らう者』のパーツがどこにもない。
「……嘘だろ。装備全ロスかよ……」
絶望が喉の奥までせり上がってくる。
あの時、イヴの一撃で俺はリスポーン地点まで強制送還されたが、参型は「消滅」したわけじゃないはずだ。
だが、今の俺にはそれを確かめる術がない。
飛行ユニットである『参型』を失い、案内役のポポもあっちに囚われている。現在位置から観測塔へ再突入する手段なんて、今の俺には一つも残っていないんだ。
「……あんなとこに置いてきたら、イヴに何をされるか……」
ただのデータ。ただのガラクタの塊。
そう割り切れたらどれだけ楽か。でも、あいつは俺が初めて自分の知恵で形にした、相棒と呼べる魔道具だった。
「クソっ……!」
ポポを、参型を、自分の分身を全部奪われた怒りと焦りで、視界が歪む。
俺はレンチを折れんばかりに握りしめる。
装備も、相棒も、全部置いてきた。
それなら、奪い返しに行くしかない。
「……待ってろよ。ポポ。面白くなってきたじゃねぇか!」
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