10
「……ポポ、管理室ってのはどこにあるんだ?」
俺の問いに、ポポは短いアームを進行方向へと向けた。
「コッチ。……案内、スル」
ポポは浮遊しながら、迷いのない動きで複雑な通路を突き進んでいく。俺はその小さな背中を追って、静まり返った廊下をひた走った。
やがてポポが足を止め、広いホールのような場所へ出ると、そこには見上げるほど巨大な黄金の扉が聳え立っていた。
「……おいおい、デカすぎだろ」
緻密な幾何学模様が彫り込まれ、その隙間からは規則的な鼓動のように青い光が漏れ出している。この島を浮かせるエネルギーの源が、この奥にあることを嫌でも分からされた。
「ココ。……一番、大事ナ場所」
ポポが短く告げる。
俺は一歩踏み出し、冷たい金属の質感を手で確かめた。
「……さて。パーティーを組んだ途端に、こいつか」
扉の横には、パスコードの入力画面も、魔法を流し込むためのクリスタルも設置されていない。ただ、鍵穴の代わりに「何かのパーツ」をはめ込むための不自然な窪みが3つ空いているだけだ。
俺は腰のポーチから使い古したレンチを取り出し、軽く回した。
「おい、これってどうやったら開けれるんだ?」
「テキニトラレタ。トリカエス」
「……敵に取られた?」
俺はポポの言葉を反芻した。
この扉を動かすための「鍵」にあたるパーツが、ここにはない。そしてそれは、何者かによって持ち去られたということか。
「ポポ、その敵ってのは、さっきの警備ゴーレムたちのことか?」
「……イヤ。アノ子タチ、守ルノガ仕事。……パーツ持ッテッタノハ、もっと、ズルイ奴」
ポポのレンズが、怒りに震えるように赤く明滅した。
案内ドロイドであるポポが「ズルイ」と形容する存在。プログラムされた防衛機構ではなく、明確な意思を持って略奪を行った何かが、この島にはまだ潜んでいるらしい。
「なるほどな。そいつをぶちのめしてパーツを奪い返すのが、最初のステップってわけか」
俺は扉の窪みをもう一度指でなぞる。
窪みは三つ。それぞれ形状が違う。
「……で、そいつはどこにいる?」
「……ココカラ、一番遠イ、観測塔。……空ノ上デ、光ッテル場所」
ポポがアームで指し示したのは、管理室とは真逆の方向にそびえ立つ、折れかけた巨大な塔だった。
あそこまで戻るのか。頭の回転は現実のメシで回復したが、移動だけでも骨が折れそうだ。
「ま、やるしかないか。パーティーも組んだことだしな」
俺はレンチをポーチに収め、軽く肩を回した。
『青い基板』を探すための鍵。それを取り戻すための夏休み、大詰めだ。
「……と、その前に」
俺はインベントリから、ボロボロになった弐式を取り出し、床に置いた。
さっきの戦闘で無残にひしゃげ、火花を散らしていた装甲。これまでは魔力不足で応急処置しかできなかったが、今は違う。
「ありがたいことに、ここはガラクタの山だからな。……ポポ、悪いけど少し待っててくれ。今の戦力じゃ、その『ズルイ奴』に返り討ちにされそうだ」
「……リョーカイ。……クンペイ。ワタシ、手伝ウ」
ポポがアームを器用に使って、周囲に転がっているパーツを次々と集めてくる。
俺は、現実でカップ麺を啜りながら考えていた、あの「効率的な魔力パス」のイメージを指先に宿した。
「よし。ただ直すだけじゃ面白くない……。ちょっと『構成』を書き換えてやる」
周囲に散乱する古代のネジ、高密度の魔導回路、そしてゴーレムの残骸。
それらを材料に、俺はレンチを振るった。
魔力に頼り切るんじゃない。構造の弱点を見抜き、最適な位置にパーツを嵌め込む。
カチッ、と。
パズルが噛み合うような小気味良い音が部屋に響く。
カンカンカン――
「よしっ、出来たぞ。こいつは『参型』だな!」
○○○
【|嵐を喰らう者・参型(ヴォルテックス・イーター・MK-III)】
• 種別: 特殊外装魔道具(唯一品・現場改修型)
• 効果1: 前方からの風圧を「魔力」と「推進力」へ変換する(変換効率を160%に微増)。
• 効果2: パッシブ『最速飛行の持ち主』を検知。最大速度がさらに15%まで開放される。
• 備考: 見た目は以前にも増してパッチワークである。高性能だが、あくまで寄せ集めのジャンク品であり、定期的なネジの締め直しは欠かせない。
○○○
「……まあ、こんなもんだろ。あんまり詰め込みすぎても、またどっかがパンクするしな」
俺は参型をレンチで軽く叩き、ボルトの締まり具合を確認した。
「ポポ、準備はいいか? ここから塔までは、また風が強くなるぞ」
「……準備、完了。……クンペイ、参型、強クナッタ。……ワタシ、信ジル」
ポポが俺の腰のあたりに必死にしがみつく。
俺は参型の魔力バイパスをゆっくりと開き、浮力を生み出させた。
「よし……浮け!」
参型がガタガタと機体を震わせながら、ゆっくりと隠れ家の床を離れる。
さっきまでの壊れそうな脆さは消え、代わりに粘り強い駆動音が伝わってきた。
「行くぞ。……パーツを盗んだ『ズルイ奴』の顔、拝みに行こうぜ」
俺たちは隠れ家の開口部から、再び吹き荒れる天空の嵐の中へと飛び出した。
○○○ SVO攻略掲示板 ○○○
124:名無しのスカイランナー
おい、今システムログ流れたぞ!
【ワールドクエスト発動:『創造主を覚醒させよ』】
これ、全サーバー同時だよな?
125:名無しのスカイランナー
は? ワールドクエスト?
まだこのゲーム、第12の島ですら、攻略中だよな?
126:名無しのスカイランナー
攻略班とかか?
大手ギルドが内密に進めてたとか。
127:名無しのスカイランナー
いや、それなら動画サイトかSNSに絶対自慢記事上がるだろ。
今のところネットに一切投稿されていないぞ。
完全に未知の単独犯か、隠しクランの仕業だ。
128:名無しのスカイランナー
おいおい、面白くなってきたな。
この段階でワールドクエスト引き摺り出す奴がいるなんて。
129:名無しのスカイランナー
『新たなる星』誕生、ってか。
全プレイヤーのログに名前が載るのが楽しみだぜ。




