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聖女の話をしましょうか。~聖女図鑑~  作者: やなぎ怜


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#9 イレギュラー・ロリータ

 ねえ、聞いてよ。

 え? 違うわよ! 子供なんて産んでないってば!

 っていうか、そこまでウワサになってるの? ウソでしょ?!

 違うわよホントに! わたしの子供じゃないってば!


 え? そうよ。子供の世話をしているのはホントよ。

 ……そうね、わたしが関わっているんだから、わかっちゃうかしら。

 そうよ。今回の召喚はほぼ失敗だったわ。人的資源が乏しいのに強行したせいよ。あのクソハゲ!


 ……ごほん。

 わたしが悪口を言った? 気のせいよ。

 崇高なる「魔女さま」がそんな俗事に流されるわけないでしょう?

 それはきっと、あなたの幻聴ね。疲れているんじゃないかしら?


 え? 疲れているのはわたしのほうだって。

 そうよ。わたしは疲れているの。

 なにせ今の今まであの子の面倒を見ていて、やっと、やーっと休暇を取れたんだから!


 あのハ……国王が、此度(こたび)の召喚の責任はわたしにある、なんて言い出すから、仕方なく引き受けたのよ、子守りを。

 子守り! 数千年を生きる魔女が! 異世界人の子守りを押しつけられたのよ?! 信じられる?!

 えー。そりゃあね。断ればよかったんでしょうけれどね。

 あの国王のもとじゃ正直どんな扱いをされるか心配だったのよ。

 だって、あの子はまだ三歳だか四歳だか……それくらいだもの。

 完全に大人の庇護が必要な年齢だったからね。さすがに放置できなくて……。

 でもね、当たり前だけれどあの年頃にそんな理由(こと)、わかりゃあしないのよ。


 まず、夜泣きが大変で大変で……しょっちゅうシーツを濡らすようにもなっちゃって……。

 元からそうなのか、こっちの世界に来たストレスかはわからないけど、ホント大変なのよ!

 泣いて起きるたびにあやして、シーツが汚れたら井戸水で体を洗ってあげてシーツ変えて……。

 こっちはロクに寝られやしない。ホントこっちのほうがストレスでどうにかなると思ったわ。

 でも、怒れないわよね。あの子も自分でコントロールできりゃ、こんなことしないのはわかっているからね。


 え? 巡礼の旅ぃ? ついてったわよ! 付き添ったわよ!

 でも世話役はわたしひとりだし、騎士たちも若いやつばっかりだからだーれも手伝ってくれないのよ!

 があああ! 思い出したら腹が立ってきた!

 ちくしょー! お前ら母親をなんだと思ってるんだ!

 母親は子供産んだ瞬間から子供の世話ならなんでもできる魔法使い、じゃねーんだぞ!

 え? わたしは母親じゃないって? そんなのわかってるわよ!

 でも言いたいの! 世の母親の負担は大きすぎるってわかったから!


 あとこの年齢にありがちなイヤイヤっぷりもすごかったわ。

 異世界になんて喚び出されたからなおさら機嫌がコントロールできないんでしょうね。

 反抗期の面倒くささを味わうことになったわよ。

 世の母親はこれに最初から最後まで付き合えるなんてすごいわ。


 機嫌がいいときはいいのよ。結構聞きわけがいいし、自分から進んでやってくれるもの。

 でも、一度スイッチが入ると「イヤ!」って言い出すの。

 とにかくなんでも「イヤ!」「イヤ!」で、そろそろだと思って用を足すのをうながしたら「イヤ!」で、問答しているうちにもらしちゃうの。

 そうすると大声で「イヤーッ!」って言って寝転がって手足をバタバタさせて泣き出すの。

 もう、一事が万事その調子でこっちの気が狂うかと思ったわよ。


 でも一番ムカついたのはあの子がイヤイヤモードになったら遠巻きにする男どもね。今振り返ると。

 あの子が機嫌のいいときは相手をするくせに、イヤイヤモードになるとなにもしないのよ!

 どうすればいいのかわからないんでしょうけれど、でもそれにしたってムカつくわー。


 機嫌がいいときも気を抜くとすぐイヤイヤモードになるのよ。

 たぶん、まだ語彙が少ないのね。

 自分の感情をどうやって言語化すればいいのかわからなくて、イライラして「イヤーッ!」って泣き出すのよ。

 どうしたいのかこっちもわからなくてイライラしちゃうの。ホントにホントにストレスだったわ。


 それからしつけもちゃんとしなきゃいけないのがつらいところよ。

 だって、一時的とはいえヒトさまの子を無責任に甘やかせないじゃない?

 でもね、あの年ごろって言葉より先に手が出ちゃうみたいね。蹴ってくることもあったわ。

 で、それはダメだって何度も何度も何度も言い聞かせるのも骨が折れたわ。

 よっぽど尻でも叩いてやろうかと思ったわよ。もちろん、思うだけだったけれどね。


 それでもあの子は立派よ。なんだかんだで巡礼の旅を終えたしね。

 ちゃんとこっちの言うことも聞いてくれるし――機嫌のいいときだけだけど――、長い旅を耐えてくれたもの。

 過去にあの子よりずっと年嵩でも途中で旅をやめて帰りたい、って言い出した子もいたしね。


 あら? もうこんな時間?

 そろそろあの子のおやつの時間だから帰るわ。

 休暇? そうだけど、でも心配だからね。


 え? 所帯じみてきた?

 ちょっと、やめてよ! わたしは「偉大なる魔女さま」なんだからね!


 え? もう手遅れ?

 ちょっと、イヤなこと言わないでよ。

 だれがどう言おうとわたしは「魔女さま」なんだからねー!

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